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02

 サン・ジェルマン伯爵と言う人物がいる


 主に18世紀初頭に存在した錬金術師とされているが、その裏で彼に関する都市伝説も良く知られている


 曰く、彼は不老の肉体を持ち、時代の節目に現れる

 曰く、彼は歴史を裏から操っている

 曰く、彼は時間旅行者である


 これらが指し示すサン・ジェルマン伯爵と言う人物は、本来ならばありえないだけの時間を、老いることなく過ごしていると思わねば説明できないほど、様々な時代で目撃されていると言う事になる


 しかし、果たしてこれらのサン・ジェルマンと思われる人物は同一人物だったのだろうか?

 ここにもう一つ都市伝説がある


 曰く、彼は「サン・ジェルマン」として知られた人物と同一種族ではあるが、異なる個体である


 すなわち「サン・ジェルマン人(仮)」ではないかという説だ


 だがしかし、敢えてここにもう一つの都市伝説を提唱させてもらおう


 「サン・ジェルマンは時間操作用のVRアバターであった」


 ・・・


 恐らくこれを聞いた人は「何言ってんだお前?」と言う心境だろう

 だがしかし待って欲しい

 ここにはそれを説明する為の新たな都市伝説があるのだ


 「アバター名:サン・ジェルマン」


 一見すると空想上のVRゲームそのままのチープな夢を見ているだけ

 しかし、仮にその中で歴史を狂わすようなイベントを起こせば、たちまち目覚めた自分の世界に影響が及ぼされるのだという


 そして、その夢の中で見る自分のステータス欄に表示される名前、それが「アバター名:サン・ジェルマン」なのだ


 この都市伝説と先ほどの仮説を組み合わせた場合、彼が何故歴史の節目に目撃されるのか、説明が付くのではないだろうか?














 「と、まぁこう言う訳だったんだよ!!」


 目の前にはあのゲーム機で都市伝説を体験したと言い張る友人が居る


 彼が言うには、列強がユダヤ人から金銭的協力を受ける為に出された交換条件「約束の地に自分たちの国を作りたい」という要望を、列強は強引にかなえるため、現地部族の意見などそっちのけで土地を用意し、そこに「イスラエル」という国を建国したのだという

 しかし、それで面白くないのは自分たちの土地を追い出されたイスラム教徒の現住部族たちだった


 一触即発の彼らを見た村内(友人)は、サン・ジェルマンのアバターを使い謎の人物として暗躍したらしい

 例えば、「聖地を含む一定の土地に、ユダヤ人が迫害されない国を作れるよう働きかける」といった事だ

 この場合、「聖地」はイスラム教にとってもキリスト教にとっても聖地であり、ここはどの宗教も独占せず、礼拝の自由を保障するものと約定を交わさせたのだという


 次に、それぞれの宗教が国内において何かしらの形で争った時、完全に中立的立場として、国が双方に同様の罰を与える法律を制定させたのだそうだ

 これに因って、ちょっとした諍いから紛争に至る前に双方がダメージを受けるということで、争いそのものが減ったという


 そしてここが重要で、お互いの共通の敵として列強を示したのだという

 このような状況を無責任に作り、世界の支配者然としているのは列強なのだから、彼らこそ我々の敵なのだと


 まあ、言ってる事は分からなくは無いんだが・・・こんな程度でよく紛争が無くなった物だと思う


 もし本当なのだとしたら、あのゲーム機には何かしらご都合主義に収める強制力があったのかもしれない

 現実的な話として、彼の言っている事は実は歴史の教科書の内容そのままで、その歴史を当事者目線で見た夢のようにしか思えなかった


 彼に文才があったならばそれは面白い創作物として売れたかもしれない、もしそうであったならばWEB投稿小説などを勧めてみただろう

 だがしかし、今こうして説明した彼の話そのものがまったくもって面白くない・・・これを文章に起こしただけでは到底出版などしては貰えないだろう

 とりあえず文章構成力を上げるよう勧めるべきであろうか・・・


 いやいや、そうじゃない

 そう言う問題じゃないんだ


 もしこれが本当だったとすればだ

 彼は歴史を変えてしまい、俺はそれを一切気付けなかったという事だ


 なんと恐ろしい事だろうか

 これがもし俺たちの国に関わる歴史を変えていたとしたら、俺は彼と友人どころか知人にすらなれていなかった可能性もある

 それどころか俺か彼、どちらかが生まれていなかった可能性すらある


 いや、もしかすると俺が気付けていないだけで国外に居た知人が誰か消えているかもしれない

 なんと危ういのだろうか


 などと思いつつも、自分がもしその立場になったならとも考えてしまうあたり俺も彼と同類ということなのだろう


 とりあえず今日の所は身体を休ませて、明日仕事に行くことになったので、その前に病院に連れて行った

 医者の診察の結果、処置が良かったのか問題は無いらしく、俺の見立てどおりたんに寝すぎて脱水症状を起こしただけだろうという事になった













 翌日、念のため村内が仕事に出たのを確認すると、実家から叔父の訃報が入った

 まぁ、元々植物状態で入院していたので特に感慨も無い

 やけに羽振りの良い叔父だった記憶はあるが、それほど遊んでもらった記憶も無いのでこんなものだ


 今夜通夜をして明日告別式をやる手はずだったのだが、急遽社葬をとり行う事になったらしく明後日に社葬が終わってから火葬場に行く事になったという

 別に社葬に出る必要は無いが、火葬場へは一緒に行くように言われたのでその予定も込みで忌引き休暇をとるという事で会社に連絡を入れる


 社葬という事は叔父の家ではなく会社の所在地の方になるのか・・・結構遠いな

 とは言え実家から鈍行で10駅だしそれほど変わらない


 むしろ叔父さんの家が俺の職場から見て手前にありすぎるのか・・新幹線でひと駅だもんな


 通夜は叔父さんの家で行い、それから叔父の母に当たる俺の父方の祖母の家に遺体を運び、社葬まで安置する事になっている

 なんかめんどくさいが、社葬の会場を祖母の自宅に近い斎場にする事になったのでそこに運ぶのが適当だという事になったらしい

 他の会社の社葬って言うのがどうなのかよくわからないが、叔父は会社の人間に大変人望が厚かったらしく、焼香だけではなく死に顔を見たいという人間が大勢居たらしいのでこうなったのだという


 死んでまで大勢から敬われるとは、どんな生き様だったのか気になるな


 結構波乱万丈だったとも順風満帆だったとも聞くが、人によって印象がまちまちなのでどこまで本当かよくわからない

 まぁ、一代で大会社を作るくらいの人だ・・・そう言うこともあるんだろう












 急ぎ新幹線で通夜会場に行き焼香を済ませると、俺はその脚で実家に向かうことになった

 どうやら母たちがこちらにかかりきりになる為、歳の離れた弟たちの面倒を見る事になったのだ

 ・・・歳が離れているとは言え上の弟はもう高校生なんだがなぁ











 実家に帰ると何故俺がこっちに行くよう言われたのが分かった

 おばさんのうちの子まで預かっていたようで、家の中が学童保育状態になってた(汗


 おばさんのうちの子は10歳を頭に3人ほど・・・これと下の弟も合わせたらそりゃ高校生一人じゃ足りんわ

 小学生の子供が4人、全員男の子だったから助かったやら性質が悪いやら


 小学生たちの勉強を見つつ寝かせると、上の弟が俺を呼んでいた


 「どうした?真二」


 真二は上の弟の名前だ

 だからと言って俺の名前が真一だの真太などということは無い


 「これって兄貴が持ってきたのか?」

 「どれだって?」


 指差す場所を見ると、そこには出来損ないのNEWフoミコンの様なゲーム機があった

 見覚えは無い・・無いんだが・・・なんだろう?知っている気がする


 そこに刺さったカートリッジを良く見る・・・ラベルが無い。

 所謂書き込みROM(データを外部から書き込んで実機動作させる基盤)と言う事だろうか?


 「とにかく邪魔だからどかすぜ」


 なんだろう・・既視感と言うやつが危険を知らせてくる

 つい最近同じ様なシチュエーションを聞いたような気が・・!?


 「ちょっと待てっ、触るな!!」

 「え?」


 呼び止められてこちらに意識を向けた瞬間・・・勢いあまってゲーム機に触れてしまった

 その時、ゲーム機が怪しい気配を発したと思うと真二の意識は失われ、その場で気を失っていた


 ・・・これがあのゲーム機を触った直後の状態だと言うのか

 村内の言い分を鵜呑みにすれば、約24時間で開放されるはず・・・ならばこのまま真二の目が覚めるまでの間、とりあえず置きぬけの脱水症状に備えて準備をしておくべきと言う事になるか


 「やれやれだな・・・」










 当面の問題は、今は電池切れでおとなしい連中が起き出した後、俺一人で面倒を見ないといけないと言う事か











 翌朝、起きた小学生組を軍隊ごっこで団体行動をさせたのち、全員を学校に送っていった

 なるほど、おばさんの子供は学区が違うから車で送らないといけないので俺がここに来たのか


 家に戻っても案の定真二は起きて来ない

 揺り動かしても反応が無いので学校に病欠の連絡を入れて置く

 電話に出たのが俺が通ってたころ新任で赴任した先生だったのは驚いた・・・よく俺の声判ったな











 午後2時、おばさんの子供を迎えに行き、晩飯の惣菜を買って家に帰る

 下の弟は家の鍵を持っている筈なので鍵は閉めてきた・・・忘れてたら俺の携帯にかかってくるだろう


 家に着いたのが午後3時、まだまだ真二は起きだす気配が無い


 村内は起き抜けでも固形物が食えたから無理に流動食にする必要は無いだろう・・・惣菜パンで良いか

 俺の夜食の分も合わせてサンドウィッチも用意する


 おばさんは今日祖母の家の方に遺体と一緒に行く事になっているので、今夜も子供たちを預かることになっている

 軍隊ごっこ継続で風呂も済ませて、電池切れになるまで勉強を見てやる


 小学生組みが布団でおとなしくなった午後8時・・・

 そろそろ真二が意識を失った時間だ


 「真二、大丈夫か?目が覚めたか?」


 真二の肩を揺すりながら意識があるかと呼びかける


 「ん・・兄貴か」


 目を覚ましたようだ


 「大丈夫か?とにかくこれを飲め」


 そう言って薄めたスポーツドリンクを飲ませる

 ひと心地付いた所に惣菜パンを渡し、とにかく血糖値を上げる


 俺もよくやるのだが、とにかく起き抜けは脳の栄養が足りない為ボーっとする、その上で脱水症状もあるので余計にはっきりしない

 だから、とにかく水分と糖分・・出来れば固形物を取り込んで頭をはっきりさせるのだ


 ちなみに俺の場合は起き抜けに食パン咥えて唾液を出しながら覚醒すると言うアグレッシブな脳の起こし方をしている


 「何が・・あったか覚えてるか?」

 「ああ、兄貴の声に振り向いた瞬間うっかりコントローラーに触れたと思ったら意識が遠くなって・・目が覚めたら変な空間にいた」


 恐らく村内も同じ様な状況だったんだろう


 「それで・・・お前はいつ(・・)に居たんだ?」

 「・・いつ?」


 そう、この都市伝説の奇妙な点はランダムなタイムリープに近い現象で、その受け皿は「サン・ジェルマン」と名づけられたアバターだということだ

 そのアバターで起こした事は、結果回りまわってパラドックスを起こし、結果サン・ジェルマンだった本人以外には認知できない歴史改変が生まれる


 「ああ、こいつが引き起こすとされているのは意識の時間移動だ。ついこの間俺の友人が引っかかったからわかる」

 「意識の・・時間移動?」

 「そうだ、で、何時のどこに居たんだ?」


 それを知った所でどうする事も出来ない

 なぜなら俺の記憶も書き変わっている可能性が高いからだ


 ・・だが、変わった可能性があるのなら知っておきたい事でもある


 「叔父さんの事故当日に行ってたんだと思う」

 「叔父さんの?」

 「ああ、叔父さんは信号待ちで対向車と正面衝突で死んだんだよな?俺は当日叔父さんを呼び止めて時間を潰したんだ・・・事故の時間にその信号に捕まらないように」


 なるほど、そういえば叔父さんが事故に会って大泣きしてたっけかな

 年と時期はともかく日付まで覚えていたのか


 「で、どうなったんだ?」

 「結論から言えば、叔父さんはその日、病院送りになった・・・俺は救急車を呼んで病院まで付き添ったが、そのまま植物状態になってたようだ」


 話し振りからして交通事故ではなさそうだが・・一体何が?


 しかしこうして考えると、絶対的な強制力の働く事柄という物があるらしい

 恐らくそれは人の生死に関わる事なのだろう

 一見すると貰い事故だったように見える叔父の入院でさえ変えられないのであれば、個人的にメリットが生まれるような改変や暗殺は無理という事か


 こうしてまた一つ、この都市伝説の仕組みが明らかになった

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