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この物語はフィクションです
都市伝説というのを知っているだろうか?
いつの間にか人々の間で語り継がれる噂話の域を出ない不思議な話だ
例えば、マスクをつけた女に呼び止められ、「わたし綺麗?」と聞かれるとか
例えば、とある道端でゴミを漁る犬が振り向くと人の顔をしていたとか
例えば友達の従兄弟がトラックに撥ねられて異世界行ってきたとか
ほんのちょっと信憑性のある話から他愛の無い話まで種々様々だ
ここに一つの都市伝説がある
ある時、ふと気が付くと部屋の中に見たことも無いゲーム機があるのだと言う
そのゲーム機は、手に取るといきなり起動して、手に取った人間を不思議な世界へ誘うのだとか
その世界は自分の街の過去だとも、全く知らない異国の村だとも、有史以前の部族の村だとも言われている
唯一つだけ共通している事は、そのゲームに入って初めて見る自分の名前
「アバター名:サン・ジェルマン」
それは自分の名前として表示されているが、自分が名乗る分にはどんな名前でも何も言われないらしい
「ジョージ・ワシントン」だろうが「フランシスコ・ザビエル」だろうが「織田信長」だろうが・・・不思議と周りの人間は受け入れてくれるのだと言う
そして、もしその世界で何か時代的におかしな事をしてしまった場合・・・現実に戻ったはずが何か自分の常識と違う世界に迷い込んでしまい、以後戻る事ができなくなるのだと言う
これはそんな不思議な都市伝説に出会った話
「話はわかった、つまりはこれがそのゲーム機じゃないかというんだな?」
目の前には見たことも無いゲーム機とコクコクと頷く友人
今日は彼に貸していた液晶モニターを返して貰いに来たのだが・・・
よりに因ってそのモニターに件のゲーム機が繋がっており、危なくて外せないのだと言う
「じゃあ返さなくて良いから代わりのモニターを買う金くれよ、1万も出してくれれば残りは出すから」
「そんな金あったらモニターなんか借りるわけ無いじゃないか!!」
「そうは言ってもなぁ・・・」
元々このモニターは古いPCに繋いでいた物なので型式は古く、画面も小さい
ただ、これに繋いでいたPCがご臨終となり、殆ど同じタイミングで彼のPCのモニターが故障して修理に出された為、変わりのPCを買うまでの間貸して欲しいと言われて貸したに過ぎないのだが・・・
「俺としても用事が無きゃ暫く貸しといても良いけどさ、仕事で必要になったんだよ」
ちょっとした作業なら切り替えでどうとでもなるんだが、よりに因ってネット監視を必要とされてしまった
PCの本体は専用の物を用意して貰えたのだが、モニターはこちらで用意しなくてはいけないのだ
趣味の作業をその間止めれば良いだけと言われるかも知れないが、それで止められるようならそれは趣味じゃないわけで・・・
「中古モニター代くらいなら半分出せるからさ、待ってくれよ」
中古モニターだと高くても1万くらいだから5000円か・・・
いや、ここは心を鬼にして
「とにかくこのゲーム機を外せばもって行く事自体は吝かじゃないんだな?」
「ああ、それ自体は問題ない・・・ただ俺が外すのだけは断る!!」
はあ~~~・・・
まあ、持ってく事自体は別に構わないってことは、本気で都市伝説を信じてるって事なんだろう
それなら別に俺が外すだけ・・・それだけの話だ
「じゃあ・・外すぞ?」
ゴクリ
友人の生唾を飲み込む音が聞こえてくる
俺はそれを聞き流しながら、モニターの裏に回り、友人のPCに繋がっているケーブルとゲーム機に繋がっていると思しきケーブルを外し、モニターの電源ケーブルも友人宅の物だったのでそれも外してモニターだけの状態にして持ち上げた
その様子をあっけに取られた様子で見つめる友人を置き去りにして、俺はモニターを持ってきた梱包材で包んで持ち帰る準備をする
「何・・と・も・・無かったな・・・」
友人は呆けてしまってそこまで口にするのが精一杯の様子だ
「まあ、ケーブルだけだからな、触ったのは」
そう言うと、俺は荷物を持って部屋を出ることにした
「じゃ、俺は帰るけど仕事はどうするんだ?まだ暫く休むなら俺の方から連絡しとくが」
「あ、それは問題ない。予定通り週明けには出社するよ」
「分かった、じゃあ週明けな」
友人は過労で倒れた為、現在自宅療養中だった
そこで、急にモニターが必要になった事もあり、モニター回収ついでに見舞いに来たらこの有様だったわけだ
俺はと言えば、火曜に代休を貰うと言う条件でこの土日オンラインでの監視業務となった
どうやら社内のネット環境に不正なアクセスがあるらしく、リアルタイムで監視して欲しいのだと言う事で、監視用のプログラムをインストールした専用PCを持たされたのだ
流石に睡眠中は監視しなくて良いと言われているが、三十分に一回はログを確認しないと確認作業に時間を取られすぎるので、起きている間は余りモニターの前から離れられない
まったくもって忌々しい
異常を発見したらそのまま連絡を入れてまた監視の継続・・・週明け月曜日にPCを会社に持っていって仕事の完了だ
手当ても代休もあるとは言えきつい仕事だ
週が明けて月曜・・・結局家で監視作業を始めてから都合十回ほどログの異常を発見、その都度通報した結果犯人が見つかった
どうやら派遣社員の一人がスパイとして潜り込んでいたらしい
ご苦労な事だ・・・うちは社外秘のデータは全てスタンドアロンで扱ってるから盗み出しようが無いのに
そうは言っても社内ネットワークへの不正ログインと不正利用は十分立件出来るのでそのままお縄についてもらう事になった
さて、PCも返却したし・・今日は俺仕事無いしな
あいつがちゃんと出社したか確認するか
金曜に俺がモニターを回収に行った彼は、実を言うと同僚では無い・・・元同僚だ
俺が今の職場に転職する前の職場で一緒に働いていたのだが、趣味が同じゲームだったと言う事もあって意気投合し、仕事内容こそ違うものの休憩時間には情報交換、休日にはゲーム内で交流といった具合で親交を深めた物だった
彼の職場には他にも気心の知れた元同僚がおり、未だに職場に顔を出しても気前よく応対してくれる
「よ~っす、ひさしぶり~」
「お~~、ホント久しぶりだな。元気してたか?」
実際こっちに顔を出すのは3ヶ月ぶりか
「お~、元気元気。週末村内に貸してたモニター返してもらいついでに見舞いに行ったんだけどさ、大分良くなったから週が明けたら出るって言ってたんだけど・・来てる?」
「いや?・・・そう言えば今日は来られるって電話で確認取ったのにまだ出社してないな」
村内と言うのは件の友人の事だ
あの後丸二日見ていないが・・・彼は確かに週明けには出社すると言っていた筈なんだが・・・
「そうか・・様子見ついでに寄ったのに居ないとはなぁ・・・のたれ死んでいても目覚めが悪いからちょっとあいつんち寄ってくわ」
「悪い、そうしてくれると助かるよ。何しろただでさえあいつが倒れるくらいの状況だったからなぁ・・・峠を越えたとは言えまだまだ見舞いとか行ける状態じゃない」
「お~、がんばれよ~」
ひらひらと手を動かしながら振り返りもせず出口に向かう・・・このくらい余裕があれば後3日は徹夜できるだろう
「村内~、いるか~?」
返事を待つ・・・さっきから呼び鈴も鳴らしたし携帯も鳴らした・・・電池が無いわけじゃないし少なくとも電話は家の中にある
何しろさっきから呼び出し音が聞こえるのだ
「村内~?」
玄関のドアノブをひねると手ごたえが無かった・・・
鍵が開いている?
「村内~?開いてるから入るぞ~?」
ドアを引く・・・チェーンがかかっている様子も無い
中に入っていくが、週末と特に様子が代わったようにも見えない
部屋の中は元々荒れて入るが、引き出しなどをひっくり返した様子も無い
泥棒は入っていないようだが・・・
「村内~?無事か~?」
寝室に使っている部屋に入る
村内の借りているマンションは1DKなので、ダイニングキッチンの奥にある部屋な訳だが・・・
「むら・・・村内!?」
そこには週末目にした奇妙なゲーム機と倒れこんでいる村内の姿があった
ゲーム機の形はどこかで見たことのあるような無いような・・・
中華フoミコンと言われると納得してしまいそうな独特のフォルム
そこから延びたコントローラーもまた見たことがあるような無いような・・・
「よ・・ぉ、おお・・しまか」
掠れる様な声で俺の名を呼ぶ村内・・その姿は過労で倒れていたのとも様子が違う・・・肉体的にではなく精神的に疲れ果てたような感じだった
一体何があったと言うのか、とりあえず持ち込んだスポーツドリンクを一度薄めて飲ます
コップのままでは溢すから一度ペットボトルの中身をコップに移し、開いたスペースにミネラルウォーターを足して、口にはおしゃぶり状の吸い口をつける
「ほら、水だ、飲め」
村内はひとビン飲みきると、漸くひとここち付いたようだった
「ほれ、その分じゃ腹も減ってるだろ」
野菜ジュースとカ○リーメイト(ブロック)を渡す
最低限に栄養を取るにはこの組み合わせに限る
良い子といい歳した老人は真似しないように
「で、何があったんだ?」
そう、そこだ問題は
なんでこいつはあんな状態になるまで外に出ることも助けを呼ぶこともなく倒れていたんだ?
週末の様子では少なくとも動けるようにはなっていた、腹が減ったなら自力で飯も食えたろうし、家の中に食い物がなかったら途中で俺に電話でも出来たろう
いや、そうじゃないな、確かに脱水症状はあったが栄養が足りて無い様子でも飢餓状態と言う感じでも無い
どちらかと言うと・・・そう、長時間寝すぎたあまり水分が全部膀胱や汗で消えたような・・・
「あのゲーム機だよ・・・」
「?」
「お前は都市伝説とバカにしていたが・・あいつは本当に厄介だった」
聞くとあのあと1日、普通に生活して居たらしいのだが、とりあえず部屋を片付けないといかんと思ったそうだ
そこで、寝室を片付けている内にどうしても避けては通れない物が残った・・あのゲーム機だ
あのゲーム機をどかす為に、日付にして昨日・・・日曜の朝、食事も終わり意を決してあれに触れた瞬間意識を失ったのだと言う
意識を取り戻すと、そこは出来損ないのVR物のアニメのようで、自分の視界に色々なウィンドウが並び、周りは戦後のヨーロッパのようだったと言う
視界の端には、恐らく自分を指すであろうステータスウィンドウ
そこに書かれた名前は「アバター名:サン・ジェルマン」
都市伝説そのままだったと言う
「で、その世界で一体何をやらかしたって言うんだ?」
「聞いて驚けよ!?なんとイスラエル・パレスチナ問題を解決してきたんだ!!」
・・・何をバカな事を言っているんだ?こいつは
「おいしっかりしろ?パレスチナは確かに宗教紛争地域だから危ないとは言われてるがな、パレスチナがきな臭い事になってるのはキリスト教圏とであってユダヤ教のイスラエルとは紛争どころかいがみ合ってすら居ないぞ?」
まったく持っておかしな奴だ
確かにイスラエルは建国の際に連合が強引な手法で土地を確保してしまった事で一触即発にまでなりかけた
しかし建国直前に双方の代表とパイプを作った商人に因って妥協点が作られ、今ではイスラエルはイスラム教徒ユダヤ教の共存する国として世界的に有名になっている
ただ、その仲違いの原因になりかけた強引さから、連合各国が国教としているキリスト教に関しては大分思う所もあるようだが・・・
「な・・え?・・・いや、そうか、そう言うことか」
「一体どう言う事だって?」
「俺が干渉したことで世界の歴史が変わった、だから俺の外の常識が変わったんだ、これは都市伝説の通りだぞ!!」
まあ、確かにそんな都市伝説だった気もするが・・・
ふと視線を泳がせた先に、件のゲーム機が・・無かった
「!!??」
未だに後ろでブツクサ言っている村内を放って置いて、俺は視線だけであのゲーム機を探していた
物語中の世界設定は、「サン・ジェルマン」に因って散々改変されている為、我々の知る歴史とは若干(?)異なります