風のこえ
第1章 回想
もう周りの木々がまるで小さな赤ん坊が母の胸の中で子守唄を聴きながら頬を真っ赤に染め眠るような感じで真っ赤に、所々では黄色く染まる頃
おれは戦場にいた。
夜になると時々
誰かのお母さんの子守唄が聞こえてくるようなひどい悲しみとでも言おうかそんなような言葉で表せられない苦しみにあうことがある。
祖国に残してきた家族のことが気になる。
ちゃんとご飯を食べてるか、
勉学に励んでるのか、
いや
あいつらが好きなことを
好きなようにやれてれば良いんだ。
好きな人を見つけられたか、
けんかしてないか、
病気してないか、
そもそもちゃんと
生きているのか..
.
おれには一応肩書きだけは父親の自分自身を含め4人の家族がいる。
愛娘のミサ
こいつはもう年頃のやつでなんていうか反抗期なんだ。
おれの話なんか聞いてくれないし街中で会うたびに、おれが挨拶代わりに一声かけても知らんぷり..
ま、幸い女子校に通わせてるからなんとか男つくらないでいるみたいだけど。
とにかく誰にもあげん!
バカ息子のレオ
こいつときたら..
まだ8才のやん坊で、いつも、ちんちんだの何とかだのアホな子。誰に似たのか..
いつも地元のガキ達と何らかのケンカしてきて、なんでも地元のガキ大将らしい。
それに関しては父親がガキの頃にはなかった素質だっただけに誇らしい。
だがここは戦場。
感情なんていっさい通用しない世界。
娘や息子と同じくらいのいやそれよりもっと小さな命だって、敵国の野蛮な奴らとして
女、子、関係なく殺さなければならない時もある..。
それが嫌でいやただ純粋に弱虫なだけかもしれない、おれは今戦線を少し離れたところにある我が西軍の仮設ではあるが簡易治療施設で仮病をつかって休息をとっていた。
祖国と家族を思いながら。
我が西国と敵の東国はもともとはひとつの国だった。
なんで分裂したかは詳しくはわからない。
おれが生まれる前ということと
それ以上に家が貧乏だったから学校に通えなかったおれには知る余地もない。
第2章 流れ星
もう戦争が始まって一年はたとうとしていた。
長く仮病をつかっていたためか、上からおれが所属していた
第八戦場・陸上特攻隊を外され今は、戦線からかなり離れたとても小さな離島に移された。
そこは南の島といった感じのところでほんとにわずかな人と木の実があるだけと言ったようなところ。
1年中夏のような気候の
ところでもあり、
空気がすんだ晴れの日には
はるか遠くの
戦争している最中の大陸
そう西国と東国を
見渡すことが出来る。
ここにいれば
安全だし、平和だ。
今だけは。
そういう感情にたたされる
くらいのどかな島だ。
おれが何もないような
この島に来た理由。
もちろん上からの指示だが、今は戦争中。多くの戦う準備が
必要になる。
そう、化石燃料だ。
この小さな島の下には、この戦争をあと10年は続けられるだけの化石燃料があるのだと言う。
我が西国の独自の研究でわかったことらしい。
そんでもって東国よりさきにこのなんもないような南の島をキープしとこうということになり
おれたちが戦地から派遣された。
だが、敵の東国がここを奪いにくるのは時機の問題ということはなんの知識のないおれでもうすうすと感ずいていた。
おれ達兵士は、島民と協力して仮設の軍事施設をつくり、寝泊まりをし、燃料の抽出と輸出作業を繰り返した。
そんなある日の夜
おれは家族の事など気になりすぎてとてもじゃないが眠れなく、施設をでて夜の海辺を歩いていた。
時刻は10時を過ぎていた。
しかし、少し歩くと小さな少年が空を眺めていた。
どこからか声が聞こえてくる。
「リン、もう寝る時間でしょ。
はやく家にもどってきなさい!」
すると少年は
「わかったよ..もう戻るから」
「おじさんも流れ星見に来たの?」
流れ星?
「ほら海の向こうのずっと遠くを見てみなよ!うわーキレイだな。」
「いつも晴れた日の夜は必ずみえるんだ!
おいら大きくなったらこんなちっぽけななんもない島をでていってあの流れ星を間近でみるんだ!」
「じゃ、おやすみ!」
その時おれはひどく胸が痛くなった。
ここには何にも変えられない
平和が今はある。
権力、富、名誉
そんなものはない。
あの海の大陸の向こうには汚れた大人たちが、今まさにここからした流れ星を放しあっている。
いつかあの少年が大人になり、夢のあの大陸へ渡ったときに現実を知るのであろう。
血も涙もない憎しみの
流れ星を。
その次の日の夜また同じように海辺をあるいてみた。
やっぱりあの少年はいた。
「おじさんも見にきたんだ!
なんだか今日は大きいね!」
その時だった!
不気味なサイレンが島中
鳴り響き、
ふっと気づくと辺りいちめん
火の海となっていた。
おれはあの少年をさがすのに
必死だった。
翌朝、
少年が発見された。
少年の母らしき人やその家族、友人たちが皆、少年を取り囲むようにして泣いていた。
おれは何も出来なかった。
少年は夢にまでもみた大陸からの流れ星、ミサイルによって空へ舞った。
汚れた大人たちの争いの犠牲者となった。
おれも加害者なんだ
やりきれない思いとともにその家族に声をかけられねまま、おれたちは一時避難するため、また武器装備・強化のため、戦地へあの少年からみた夢の大陸へ戻っていった。
おれは、今
敵対する東国の本土に
上陸し戦っている。
第3章 愛の表現
戦地での男たちは野蛮だ。
つくづくそう思う。
もちろんおれ自身もだ。
時は木枯らしが疲れきったおれたち兵士を襲う頃
そんなときに雪が降った。
一瞬の隙も見せられない中ではあるが家族が愛しい。
妻であるエミリが愛しい。
もう何年もエミリとは寝ていない。
そりゃ戦争中だから仕方ないのだろう。
ただ、大人の男である以上
人を愛さないということは
難しい..
この戦争の期間、そんな男たちを癒すため西国政府によって公式でハートシアターというものが設けられる。
そこにはハートガールという女性がいて男たちが好き勝手していいのだと言う。
彼女たちは
敵国の女たちではない。
一応我が西国から高給料を条件に兵士たちと一緒に志願者のみがここ戦地へ連れてこられる。
そしてハートガールとして男たちに体を売るのだ。
おれたち兵士は無料。
戦争が終わったら政府から彼女たちへ給料が支払われるのだという。
そんなある日、食後の散歩道で
おれは戦友のエリックとともにたまたまハートシアターの前を通った。
するとエリックは
「カイム、いっぱつやってくか」
突然おれの名前を先頭に
エリックに話しかけられたからなんのことか意味わからなかったが、ハートシアターを見て
おれは理解した。
ただそれだけはおれのプライドが許さない。
愛しあうもの同士だけが愛しあう..
そういう信念をもう何年も貫いてる。
だからこそ、最初は、はっきり断ったがエリックに
「じゃ、ガール見てくだけで良いから一緒に来いよ!」
の一言にはやく済ませたいとの思いからおれはハートシアターへエリックとともに入っていった。
ハートシアターは戦時中の一時的な娯楽施設だけに簡易的なつくりではあるものの中の壁はピンク一色で何か気が立ってくる。
大きな檻の中に大勢の衣服をまとわない女性たちがうずくまっていた。
すると後から来た兵士が
檻から1人の女性を
受付兵に注文し、
檻からその女性は
出され兵士とともにさらに
奥の広場へ連れていかれた。
エリックは我慢できないみたいで、
「カイム、おれには妻がいる。だけどもう我慢ならないんだ」
と一言放ち2人の女性を抱え消えていった。
おれは呆然としたままその場を立ちすくんだ。
エリックの帰りを待った。
ただ小さい頃からの友だとおもっていたが、正直、あきれかえった。
エリックにはただ本当に感謝している。
エリックは14才のとき貧しい人たちのために自立をし1人で無料の喫茶店を切り盛りしていた。
おれもエリックの事情を知っていたから手伝っていた。
エリックには幼い頃から病気によって両親がいなかった。
痛いほど苦しい
だからエリックは
貧しながらも
おれの家に引き取られた。
そんなあるときエリックは気づく、この街には両親のいない子どもたちが寄り添う場所がないということに。
だからエリックは自らが舵をきり、子どもたちの恵みの場として無料の喫茶店を開いた。
自分がその1人だったから
牧場、畑、喫茶店。
おれとエリックの二人三脚で
やってきた。
戦争が始まるまでは。
そんな優しいやつなんだ。
エリックは。
何より、エリックの開いたその喫茶店のおかげでおれの妻となる エミリと知り合うことができ子宝にも恵まれた。
その時、自分の命よりも大切なものを授かることができたんだ。
だから、エリックに感謝している。
そして次の日からおれは、エリックとともに東国のもっと遠く
そう激戦地へ派遣される
無論ハートシアターなんてもんは無い。
あれから3ヶ月は過ぎた。
おれたちの隠れ基地へおれの愛娘ミサと同じぐらいの年頃の少女がやってきた。
何でも近くの村を代表して降伏しに来たのだという。
彼女は東国の少女だから何を話してるのかおれにはさっぱりわからない。
ただ幸いにもおれたちには元東国出身の仲間がいたから通訳してもらい彼女と会話することができた。
彼女は言う
「私達は無実です。何もあなた達にしません。出来ません。
今、降伏します。
私たち、そしてこの村ををどうかそっとしておいて下さい」
瞳が清んでいてキレイだった
我々の基地長が言う
「それはできないな。ただ条件つきなら許す。みんな男どもは女に飢えてるんだ。
お前さんの体が欲しい。
だから差し出せばのみこんでやる。」
おれは気を失いそうになる。
エリックは声をあらげる
「基地長それはだめです!」
基地長はエリックの頭に銃を突きつけた。
周りの兵士もエリックに銃をむける。
基地長は言う
「エリックなんならお前がやれ。彼女たちをすくいたいならお前がやれ。」
「もしやらないのならば、
お前も彼女も
この村も私が消す」
エリックは泣いた
彼女も痛みとともに泣いた
またしても
おれは何も出来なかった。
第4章 壁の崩壊
戦争は終わった。
時はたち、のどかな太陽が街をゆっくりと照らし、桜が街を色どっていた。
あれほど長く永遠に続くと思われた苦しみも終わりが来るものだ。
戦争がおわり結局決着はつかないままだった。
そして西国と東国の間にあった大きな壁は取り壊されることになる。
それをもって、両国はまた1つの国となる。
おれはそのめでたい
取り壊し式で
家族みんなで参加しようと
思い、戦場から
祖国へ
そう地元へ帰国した。
だが、
エリックとおれの
喫茶店はあとかたもなく
無い
畑も牧場も..我が家も..
嫌な結末が頭をよぎる。
もしかして..
そんなことは無い!
その一心で家族を探す。
そして我が家の瓦礫の中に
家族をみつけた。
涙をこぼさなかった。
自分も加害者なのだから
「ひょっとして、カイム?生きてたのか!」
その声におれは
声主を目指して振り向いた。
そのおれの目には
数々の修羅場をくぐり抜けて来たたくましい体つきの男が目に移った。
戦場へ行ったおれにだからこそ
わかるその推量。
その時、涙がこぼれた。
そこにはエリックが
いたのだった。
隣にはあの南の島の少年も。
さらに東国の少女もいた。
幻じゃない。
ミサもレオもエミリもいる。
皆いる。
おれは皆のところへ
飛び込んだ。
そして思う。
もう同じ過ちを犯しては
いけない...
壁は予定通り取り壊された。
そして平和だったあの頃
と同じ日々が再び
ながれてく。皆無のように