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挿絵(By みてみん)



 搭乗ゲートには沢山の人間が、そして『アニマ』がいました。

 他の人間の姿はスーツや白衣など、とくに変わった格好をしている人はいません。彼らに付き従っている『アニマ』の少女達にしても、機能強化の為のスーツや、外付けパーツなど、いかにも生体端末らしい外装を身に纏っています。

 だからこそ青年が連れた彼女は人目を惹きました。

 彼女だけが唯一、機能補助も強化もパーツも関係なく、ファッションを重視したような格好をしていたからです。

 桜色の着物。

 それは彼女にとてもよく似合っていましたが、しかし『アニマ』として相応しい衣装とは言えませんでした。

 まるで人間のように、まるで少女のように、彼女は抜きん出た存在としてそこに立っています。

「……マスター。どうしてわたしは皆さんに注目されているのでしょう?」

彼女は自らが注視されている理由が分からず、首を傾げながら青年に問いかけます。

「さあな。僕が創った『アニマ』だからじゃないか?」

「ああ、なるほど。理解しました」

 アニマ・システムの生みの親の一人である青年のオリジナル・アニマ。その技術の後追いをすることしか出来ず、マニュアル対応しか知らない他の人間にしてみれば、彼女の存在はとても珍しいものとして映るのかもしれない。二人はそう考えました。

 そしてそれは半分しか正解ではありませんでした。

 彼女が注目されていたのはその『人間らしい服装』なのですが、二人ともそのようなことを気にする性格ではなかったのです。

 彼女が機能重視の装備を身に付けていないのは、単に必要がないからであり、彼女が桜色の着物を着ているのは単に青年の好みだからです。

 それ以上の理由もそれ以下の言い訳もなく、ただそれだけなのです。

 そして彼女はみずからの格好を気にするだけの感性を持ち合わせていません。

 結果として、二人は勘違いの納得をしてしまうのでした。


 そして二人は宇宙船へと乗り込みます。とても大きな宇宙船です。何人もの人が長期間生活できるような居住区も備えられた、言わば旅する宙の船です。

 地球から火星までは、この宇宙船で約一週間ほどかかります。

 ワープドライブ、いわゆる宇宙空間歪曲航法もこの時代には確立されていますが、人間ならともかく『アニマ』に対しての悪影響を及ぼす可能性があるという実験結果が出ているので、今回は純粋に高速航法による旅になります。


 二人は予めあてがわれた部屋に移動します。

 青年は手荷物を床に置いて、そのまま窓の側にある椅子に腰かけます。

「マスター? 窓の外に何かあるのですか?」

 彼女は不思議そうに問いかけます。

「いや。せっかくだから地球を離れるさまを観察しておこうと思って。一生の内に生で見られる機会なんてそうないだろうから」

 故郷に対する哀愁よりも、故郷に置き去りにしてきた桜の樹のことを考えているのかもしれません。ほんの 少しだけ寂しそうな青年の背中を見て、彼女は少しだけ胸の奥がちくりとしました。

 その痛みが何なのか、彼女にはまだ分かりません。

 しかし分からないからこそ分かろうとします。貪欲な学習意欲も、青年が組み込んだ機能の一つでもあります。

 彼女は青年に対してそれ以上は何も言わず、青年のことを理解しようとして同じ場所に立ちます。

 同じものを見て、青年が何を感じようとしているのかを考えます。


 やがて宇宙船は動き出します。

 大地を離れ、空に上がり、宇宙そらに昇ります。

 遥か天空から眺めた地表は、そこに立っていた時よりもずっと淀んで見えます。

 長い年月、人間が自らの繁栄とエゴのために星を酷使し続けた結果がそこにあります。青年はそこに罪悪感を感じるような人間性は持ち合わせていませんが、それでもこれから火星という星を同じ目に遭わせる土台を作りに行くのだという自覚だけは忘れずにいようと思いました。

「かつては、地球も緑溢れた美しい星だったらしい。空は蒼く澄んでいて、風は心地よく身体を吹き抜けていく。そんな星だったらしい」

「そうですね。わたしの中にある記憶は、そういうものです」

「記憶というよりは記録なんだろうな、君の場合」

 記憶というのは人間に対して使われる言葉であり、機械に対しては相応しくないというのが青年の考えです。

 しかし生体端末である以上、人間ではなくとも一つの命には違いない彼女に対して、青年は少しだけその扱いを戸惑っています。

 かつては蒼い宝石のようだった地球は、これから向かう火星のように赤く荒れ果ててしまっています。

 遠ざかっていく赤を青年はその眼に焼き付けながら、小さな声で呟きます。

「桜が見たいな……」

 ぼんやりとした青年の呟きは、彼女に向けてのものではありませんでした。

 しかしだからこそ、青年の本音でもありました。

「…………桜」

 少女は考えます。

 自らの機能、その優先順位の位置づけ、桜の樹について。

 自分は青年の夢を叶えるために作り出された、夢への道標。

 その事を自覚します。

 彼女はあらかじめ青年が設定した優先順位を、自らの意志で少しだけ書き換えました。

 出来るだけ早く桜並木を完成させること、という漠然としたものから、可能な限り早く桜並木を、それが出来なければ一本だけでも満開の桜を咲かせて青年に見せてあげたいと。

 この時、生体端末でしかない彼女の心は、ほんの少しだけ自我を芽生えさせました。

 青年のために桜を咲かせよう。

 寂しそうに虚空を眺める青年の笑顔が見たいから。

 そう思うようになりました。

 これが、彼女にとってのささやかな始まりだったのです。

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