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旅立ちの日、青年は桜の樹を維持している箱庭、そのシステムの電源を落としました。
遠からずこの桜は朽ち果てるでしょう。
その前に満開の桜を胸に焼き付けるように、青年は家を出るギリギリの時間まで眺めていました。
青年は旅立ちます。
二度とは戻ってこられない新天地へと。
青年を見送ってくれたのはその桜だけでした。
青年も桜を見届けました。
「さようなら。今までありがとう」
青年は最後に、桜の幹を抱き締めます。
別れを惜しむように、慈しむように、そっと抱き締めます。
青年の肩にはらはらと落ちる花びらは、別れを惜しむ桜の心だったのかもしれません。
そして青年と桜は別れました。
青年の好きな歌のように、ひとひらの想いをその手に遺して。