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それから数年の月日が流れました。
彼は一人きりで、桜並木を守っています。
火星のテラフォーミングは人が住むのに不自由を強いない程度に進んでいて、少しずつ地球からの移民が増えてきました。
青年が担当するこのエリアは『桜の名所』として、有名になりました。
人が住むほどには整備されていなくとも、その桜を見たくて訪れる人が増えてきました。
青年はその様子を最初の桜にもたれかかりながら眺めています。
彼女と別れたこの場所で、彼女と通じ合えたこの場所で。
青年は彼女と叶えた夢を守り続けます。
やがて青年はかつての彼女と同じ存在になりました。
自らの身体を改造して、『アニマ』に近い存在に転化したのです。
それは、彼女への想いからでした。
代わりがいると思いたくなかった彼女に対する、青年なりの気遣いでもあります。
新しい『アニマ』ではなく、青年自身が彼女との夢を守るために、青年はこの道を選びました。
人間でなくなることにも、あまり抵抗がありませんでした。
この気持ちと、心があれば、命の種類など関係なかったのです。
しかし人間でもなく『アニマ』でもない彼自身も、彼女と同じ道を辿ります。
青年はこの先、あまり長くは生きられないでしょう。
それでも後悔はしません。
彼女と同じように、最期まで自分の選択を誇りながら、空へと還るのでしょう。
青年は今日も生きています。
違う命になっても、終わりが近づいていても、最期までその想いを抱いて。
桜の歌を口ずさみながら、彼女に焦がれながら。
今日も桜並木を見守っています。
初めての童話でした。
おっかなびっくりちょー難産でしたが結構好評みたいでほっとしています。
アルファポリス絵本・童話大賞エントリー中ですので、気に入ってもらえたら投票してもらえると嬉しいです。




