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龍は迷わず焼き払う

嫌な気配は、夕暮れに来る。


リオが急に立ち止まった。


「来る」


「何が」


「未来の分岐」


その瞬間だった。


訓練場横の回廊。


石畳の影から、魔力の波が走る。


黒い光。


呪詛陣。


「――ルシア!」


ゼルの声。


床が割れ、闇が噴き出した。


学院内部での攻撃。


ありえない。


足がすくむ。


その瞬間、身体が突き飛ばされた。


視界が反転する。


地面に倒れた俺の前に立ったのは――


ゼルハルト。


「下がれ」


低い声。


次の瞬間、爆ぜる炎。


蒼銀の龍炎が闇を焼き払う。


だが。


闇は消えない。


魔法陣が複数重なっている。


狙いは俺だ。


「ママ、ここ!」


リオが叫ぶ。


指差すのは柱の影。


そこに微かに揺れる黒い紋。


「核!」


俺は立ち上がる。


でもその前に。


ゼルが前に出る。


「触るな」


言い切る。


「俺がやる」


嫌な予感。


未来で傷つく。


その未来。


これだ。


「ゼル、待て!」


叫ぶ。


でも。


龍は迷わない。


地面を蹴り、核へ突っ込む。


闇が爆発した。


轟音。


衝撃波。


視界が白に染まる。


「ゼル!!」


煙が晴れた。


立っている。


でも。


腕から血が流れていた。


深い裂傷。


焼け焦げた制服。


呼吸が荒い。


胸が潰れる。


「……無事か」


最初にそれを聞く。


俺の安否。


自分の傷より先に。


リオが歯を食いしばる。


「これ、未来の傷!」


未来ではもっと深い。


もっと重傷。


でも今は――


軽傷で済んでいる。


「ママ、今!」


俺は駆け寄り、ゼルの腕を掴む。


「なんで突っ込むんだ!」


怒鳴る。


ゼルは一瞬目を見開く。


「お前が危険だった」


当然のように。


「だからだ」


心臓が痛い。


「俺は守られるだけの存在じゃない」


震える声。


ゼルは黙る。


その間に、グレンが駆けつけた。


「おい、大丈夫か!」


状況を一目で理解する。


「呪術系だな。内部犯だ」


内部犯。


つまり――


まだ学院内にいる。


リオが小さく呟く。


「ざまあ第二弾」


目が鋭い。


「犯人、後継人派閥残党」


あいつの家の残り火。


やっぱり消えてなかった。


ゼルの瞳が金に光る。


怒り。


龍の本気。


「許さない」


空気が震える。


「俺に触れた罪、重い」


俺じゃない。


“俺に触れた罪”。


そこ、独占欲。


グレンが苦笑する。


「龍、抑えろ。学院ごと燃やすな」


ゼルは目を閉じ、深く息を吐いた。


炎が収まる。


でも殺気は消えない。


翌日。


犯人は捕まった。


やはり後継人派閥の次男。


証拠は完璧。


ゼルが王城に直で報告したらしい。


結果。


家は取り潰し。


関係者は流刑。


完膚なきまでのざまあ。


リオが腕を組む。


「未来より軽い」


未来ではゼルが瀕死。


俺が自責で壊れかける。


そのルートは、今、折れた。


「一個、回避」


リオが小さく笑う。


俺はゼルを見る。


包帯の巻かれた腕。


「……痛むか」


「平気だ」


即答。


でも顔色は良くない。


俺は無意識に袖を掴む。


「無茶するな」


ゼルが固まる。


「俺は……お前が傷つく方が嫌だ」


本音が零れた。


沈黙。


ゼルの瞳が揺れる。


ゆっくりと。


俺の頬に触れる。


指先が熱い。


「……俺はお前が傷つく方が、耐えられない」


距離が近い。


呼吸が混ざる。


「だから守る」


断言。


「何度でも」


胸が苦しい。


リオが満足げに頷く。


「両想い予備軍」


うるさい。


ゼルは俺の手を握る。


今度は強く。


「ルシア」


名前を呼ぶ声が、甘い。


「次は守らせない」


言い切る。


「隣に立て」


それは対等の宣言。


俺は息を整える。


「……分かった」


未来はまだ全部消えていない。


でも。


ゼルが傷つく未来は、ひとつ折れた。


リオが空を見上げる。


「あと大きいの一個」


まだあるのか。


でも。


俺はもう一人じゃない。


龍は俺を選んだ。


そして俺も。


たぶん――


選び始めている。

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