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恩人の仮面は、剥がれる

「来週、後見人が学院に来る」


グレンが静かに言った。


昼休み、人気の少ない訓練場の端。


俺とゼルハルト、それからグレン。


なぜかこの三人で話している状況になっていた。


「資金管理の確認らしいが……妙だな」


妙、どころじゃない。


リオは腕を組み、険しい顔をしている。


「来た。早い」


未来より早いらしい。


ゼルハルトが俺を見る。


「帳簿、確認した」


心臓が跳ねる。


「……え」


「学院側に記録が残ってる。お前に支給されてる金額、今の生活水準と合わない」


グレンの耳がぴくりと動いた。


「横領か」


言葉が、現実になる。


胃の奥が冷たくなる。


「未来では」


リオが小さく言う。


「ママが問い詰めて、逆に責められる。“育ててもらって文句か”って」


思い出す。


あの人の顔。


恩着せがましい笑み。


「今回は違う」


リオの目が光る。


「証拠、先に出す」


ゼルハルトが淡々と告げる。


「後見人の口座、洗った」


さらっと恐ろしいこと言うな。


「不自然な送金履歴がある。例の金髪の家に」


やっぱり繋がっていた。


グレンが低く唸る。


「学院を利用して平民を潰す算段か」


本来の未来。


俺は孤立する。


金銭問題で信用を失い、退学寸前まで追い込まれる。


そこに“助ける代わりに従え”と誰かが言う。


……嫌な未来だ。


「ママ」


リオが俺を見上げる。


「今回、ママは何もしなくていい」


「でも――」


「オレがやる」


五歳の顔で言うな。


でも、その目は本気だ。


翌週。


学院応接室。


後見人はにこやかな顔で現れた。


「ルシア、元気にやっているかい?」


その笑顔が、今は気味悪い。


「はい」


穏やかに答える。


横には学院側の事務官。


そしてなぜか――


ゼルハルト。


堂々と座っている。


「龍族の方がなぜ?」


後見人の笑みが引きつる。


「関係ある」


短い一言。


圧が違う。


事務官が書類を広げる。


「本日は資金の確認を」


後見人は余裕の笑みを浮かべる。


「もちろんです。私はこの子を実の息子のように――」


「ではこちらを」


事務官が示した数字。


支給額。


実際に俺が受け取った額。


差額。


明らかだった。


空気が凍る。


「……こ、これは」


後見人の額に汗が浮かぶ。


「誤解です! 管理費や生活費が――」


「学院は生活費を別途支給しています」


事務官が冷静に返す。


逃げ道が消える。


ゼルハルトが静かに言った。


「説明」


たったそれだけで、圧が増す。


後見人の視線が揺れる。


「ルシア! お前が誤解させるようなことを――」


その瞬間。


俺の中で何かが切れかけた。


でも。


リオの声が耳元で響く。


「ママ、怒らなくていい」


小さな手が、俺の袖を握る。


「もう終わる」


事務官が最後の一枚を出す。


「こちら、例の貴族家への定期送金記録です」


沈黙。


完全に詰んだ。


後見人の顔から血の気が引く。


「……ち、違う……私は……」


ゼルハルトが立ち上がる。


ゆっくりと。


威圧感が室内を満たす。


「平民一人から抜く金で、何を買った」


低い声。


怒りを含んでいる。


俺のために。


胸が熱くなる。


後見人は崩れ落ちた。


言い訳は続かない。


結果。


後見人は管理権を剥奪。


不正は公表。


金髪の令息の家も調査対象。


初手ざまあ、完了。


部屋を出たあと。


足の力が抜けた。


「……終わった」


リオが俺を見上げる。


「うん。ママ、不幸ルート一個消えた」


一個。


まだあるのか。


ゼルハルトが俺の前に立つ。


「大丈夫か」


「……ありがとう」


素直に言えた。


ゼルハルトの瞳が揺れる。


「礼はいらん」


少しだけ視線を逸らす。


「当然だ」


当然。


その言葉が、妙に甘い。


グレンが肩を叩く。


「よく耐えたな」


ああ。


今回は、泣かなくて済んだ。


一人で戦わなかったから。


リオが満足そうに頷く。


「次は龍」


「は?」


ゼルハルトが怪訝な顔をする。


リオはにやりと笑った。


「もっとママに近づく」


俺は真っ赤になった。


「な、何言って――」


ゼルハルトの金の瞳が、じっと俺を見る。


逃げられない視線。


「……近づいて困るか」


低く問われる。


言葉に詰まる。


困るか?


……正直、困らない。


「……別に」


小さく答えると、


ゼルハルトの口元がわずかに上がった。


「なら遠慮しない」


心臓が跳ねる。


リオが満足そうに腕を組む。


「順調」


俺の人生は、確実に変わっている。


不幸ルートは一つ折れた。


でもこれは、始まりにすぎない。


龍の溺愛は、まだ本気を出していない。

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