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未来からの来訪者

初めまして、またはお久しぶりです。


この作品は、

「こんな物語を読んでみたい」という気持ちから書き始めました。


拙い部分もあるかと思いますが、

一つひとつの場面を大切に綴っています。


少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、

それだけで作者としてとても幸せです。

世界は、少しだけ息苦しい。


理由は分からない。


でも俺は、生まれ変わっている。


それだけは、はっきりしていた。


前世の記憶はぼやけている。

顔も名前も思い出せない。


ただ――


冷たい部屋。

誰もいない背中。

伸ばしても届かなかった手。


そして最後に残ったのは、


「どうして俺だけ」


という、乾いた後悔だった。


だから今世では、目立たず生きると決めている。


この世界は魔法があり、貴族が支配し、獣人や龍人が力を持つ。


俺はただの平民。


珍しい純人族らしいが、それがどうしたという話だ。


両親は早くに亡くなり、遠縁の後継人に引き取られた。


表向きは“恩人”。

実際は、俺の補助金や奨学金を管理して、最低限の生活だけ与える人間。


逆らわない。

目立たない。

感謝を忘れない。


そうしていれば、生きていける。


十五歳。


王立学院への入学が決まった。


平民で入れるのは、ほんの一握り。


……ここからなら、少しは変われるかもしれない。


そう思った夜だった。


「ママ」


小さな声が、部屋に落ちた。


心臓が跳ねる。


振り向いた。


窓辺に、子供が立っていた。


五歳くらい。


白銀の髪。

光を含んだ金の瞳。


この国でも滅多に見ない色。


なのに、なぜか懐かしい。


「……誰」


喉が乾く。


泥棒? 幻覚?


違う。


その子はまっすぐ俺を見て、歩いてくる。


音がしない。


「リオ」


短く名乗った。


「未来から来た」


思考が止まる。


「……は?」


「このままだと、ママ、不幸になる」


静かな声だった。


怒ってもいない。泣いてもいない。


ただ事実を告げるみたいに。


胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「……俺、子供いないけど」


「いるよ」


即答。


迷いゼロ。


「未来に。オレ、ママの子供」


さらりと言われて、言葉を失う。


ありえない。


でも。


否定できない。


その金の瞳が、あまりにも真剣だったから。


リオは俺の前まで来て、小さな手を差し出した。


躊躇いながら触れる。


あたたかい。


ちゃんと体温がある。


「ママ、優しすぎ」


ぽつりと呟く。


「全部我慢する。怒らない。助け呼ばない」


……心臓が、痛い。


「それで最後、ひとりで泣く」


息が止まる。


未来の話だと言うのに。


どうして、こんなにも現実味がある。


リオは俺の指をぎゅっと握る。


小さな手なのに、やけに力が強い。


「オレ、あの未来きらい」


初めて、ほんの少しだけ声が揺れた。


「だから来た」


金の瞳が、まっすぐ俺を射抜く。


「ママを幸せにする」


冗談じゃない。


五歳の子供が言う台詞じゃない。


けれどその顔は、覚悟を知っている顔だった。


「不幸ルート、終わり」


きっぱり言い切る。


「オレがいるから」


思わず、笑いそうになる。


でも笑えない。


胸の奥が、あたたかくて。


じわりと何かが溶ける。


「……なんで、俺のことママって呼ぶんだ」


そう聞くと、リオは少しだけ首を傾げた。


「だってママはママ」


当たり前みたいに言う。


「パパはあとで出てくる」


「は?」


「龍」


さらっと爆弾を落とす。


「……は?」


リオは気にしない。


俺の胸に額を押しつけた。


「大丈夫」


小さな声。


でも確信がある。


「今度は、ちゃんと笑う未来にする」


鼓動が重なる。


ひとりだったはずの部屋に、ぬくもりがある。


前世では、誰も来なかった。


手を伸ばしても、届かなかった。


でも今は違う。


未来から来た子供が、俺を守ると言う。


ありえない話だ。


なのに――


どうしてこんなに、安心するんだろう。


リオが顔を上げる。


大人びた目で、でもどこか甘えるように。


「ママ、オレのこと名前で呼んで」


少しだけ、寂しそうだった。


俺は迷って、それから口を開く。


「……リオ」


その瞬間、ぱっと花が咲いたみたいに笑った。


その笑顔は、


俺がまだ知らない“幸福”そのものだった。


その夜から。


俺の人生は、静かに書き換わり始める。


未来を知るのは、この子だけ。


俺は何も知らない。


だからこそ――


未来から来た五歳の子供が、


俺の人生を、溺愛で修正していく。


それが、すべての始まりだった。

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