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真面目な人ほどずれる

 ガレオン・アルスティアは,真面目な男だった.

そして,真面目な男ほど,間の抜けた勘違いをする.


「……副団長」


「はい」


「最近,

 王都は平和だな」


 唐突な言葉だった.

副団長は,書類を持つ手を止める.


「ええ」

「団長不在の間も,

 特に大きな問題はありませんでした」


「……そうか」


 ガレオンは,少し考え込む.

平和なのは良いことだ.

だが,何かが引っかかる.


「平和すぎないか」


「……団長」


「いや」

「疑っているわけではない」

「ただ,

 “静かに回りすぎている”気がする」


 副団長は,その言葉の意味を理解してしまい,

一瞬だけ目を逸らした.


「……それは」


「何だ」


「リリー嬢の判断が,

 非常に的確だった,

 ということでしょう」


「……」


 ガレオンは,黙り込んだ.

褒め言葉だ.

分かっている.

だが,胸の奥が,少しだけむず痒い.


「判断,か」


「はい」

「団長がいない前提で,

 動いていました」


「……そうか」


 それ以上,深掘りしなかった.

だが,その日のガレオンは,

一日中,微妙に噛み合わなかった.



---


 一方,学舎では.


「リリー」


「はい?」


「……最近,

 団長と話,

 減ってない?」


 アメリアの指摘は,

容赦がない.


「そうでしょうか」


「そうよ」

「前は,

 視界に入った瞬間,

 そっち行ってた」


「……そんなこと,

 ありません」


「あるのよ」


 アメリアは,

腕を組む.


「で,

 代わりに誰と話してるか,

 自覚ある?」


「……皆さんと?」


「……もういい」


 頭を抱える.


「ねえ」

「団長,

 今ちょっと混乱してるから」


「団長が?」


「ええ」

「“自分がいない間に何も起きなかった”

 って事実に」


 リリーは,少し考える.


「……良いことでは?」


「本人にとってはね」


「?」


「“自分がいなくても回った”

 と

 “自分がいなくても大丈夫だった”

 は,

 微妙に違うの」


「……難しいです」


「でしょうね」



---


 その日の夕方,

ガレオンは学舎を訪れていた.

理由は,ない.

本当に,ない.


 中庭で,

リリーが一人で資料を読んでいるのを見つける.

話し相手は,いない.

セシリオの姿もない.


(……よし)


 なぜか,

小さく安堵する.


「リリー」


「団長」


 リリーは,

いつも通りの笑顔で立ち上がる.

それが,

逆にガレオンを戸惑わせる.


「……忙しかったと聞いた」


「はい」

「ですが,

 皆さんのおかげで」


「……一人で抱え込んだ,

 わけではないな」


「いいえ」


 即答だった.

そこに迷いはない.


 ガレオンは,

なぜか,

さらに言葉を探す.


「……あの」


「はい」


「最近,

 困っていることはあるか」


「……困っている,

 というほどでは」


 リリーは,少し考えてから言う.


「判断に,

 時間がかかるようになりました」


「……それは,

 困っているのか」


「いいえ」

「考える時間が増えただけです」


 ガレオンは,

その答えを聞いて,

完全に理解できないまま,

なぜか笑いそうになった.


「……そうか」


 真面目に聞いたのに,

真面目に返されて,

拍子抜けしたのだ.


「団長は」


「何だ」


「お戻りになってから,

 少し,

 静かです」


「……そう見えるか」


「はい」


 ガレオンは,

少し考えてから,

正直に言った.


「置いていかれた気がした」


 リリーは,

目を丸くする.


「……団長が?」


「ああ」


「そんなこと,

 ありません」


 即答だった.

その速さに,

ガレオンのほうが驚く.


「私は」

 リリーは,

 少しだけ言葉を選ぶ.

「団長が戻られるのを,

 前提に考えていました」


「……前提?」


「はい」

「いない間,

 どう回すかを考えただけで」


 ガレオンは,

しばらく黙ってから,

ぽつりと言う.


「……なるほど」


 その瞬間,

胸の中で,

妙なものがほどけた.


 副団長の言葉.

アメリアの忠告.

自分の違和感.


 全部,

少しずつズレていただけだ.


「……リリー」


「はい」


「これからは」

「“いない前提”で動いたことも,

 ちゃんと報告しろ」


「?」


「でないと,

 俺が混乱する」


 リリーは,

一瞬きょとんとしてから,

小さく笑った.


「……はい」


 その笑顔を見て,

ガレオンは思う.


 自分は,

最強で居続けなければならない.

だが,

完璧である必要はないのかもしれない.


 少なくとも,

ズレていることを,

笑われるくらいは.


 中庭の空気は,

少しだけ軽くなっていた.


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