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Ep1-3 未知との遭遇(2)

学校で偶然見たパ○チラ、ではなく時間停止のような現象を調べようと自宅に戻った英太は――

「ただいまー」

 マンションの一室に自分の声だけが響く。よし、誰もいないな。

 玄関の戸締りをしっかりとして自分の部屋の鍵も閉める。超常現象を再現しているところを目撃されるよりも、思春期男子の秘密行動と誤解される方がいい。

 机の上のノートパソコンを立ち上げてまずはこの石の外観をキーワードに検索をかける。

「結晶、五角形、半透明っと……。なになに、結晶にはありえない五角形構造……」

 ありえないって言っても目の前にあるんだよねぇ。あ、鉱物の結晶としてはあり得ないってことか。結晶じゃないのかも?あるいは未知の鉱物か。

「石、五角形、発熱……。キーワードが石じゃヒットしないかぁ。あ、『検索条件と十分に一致する結果が見つかりません』って出ちゃったな」

 やっぱりか、と思って検索ワード欄の×印をクリックしようとしたとき、ブラウザの動作中マークが再びくるくると回転を描き始めた。

「あ、なんか出た。魔石?!」

 新たに表示された検索結果の中にいくつも現れる単語が目に留まる。


 検索画像には手元の石と似た半透明の鉱石が映し出されている。

「色味がちょっと違うなぁ。種類があるのか。どれどれ」


『魔石は便宜上、木(有機物)、火(熱エネルギー)、土(固体)、金(金属・電磁気力)、水(液体)の五種類がある』


 なるほどねぇ。


『ただし、この分類には諸説流派があり、定まった見解はない』


 ずこっ。統一見解がないんかい。

 どうやらこの分野の科学的な研究は進んでいないらしい。


『魔石は稀少で実用性が高いため、基礎研究よりも実利を追及した応用分野のほうが研究されているが、その成果は秘匿される傾向が強く、科学的発展に寄与する者が少ないことは嘆かわしい限りである。このwikiが魔石研究の促進に役立つことを期待する』


 ほうほう。


『このサイトは善意の寄付により運営されています。運営本部にご賛同される方は以下のサイトからお振込または魔石の寄付をお受付いたしております』


 ……まあ、なにをするにもお金はかかるよね。うん。

 ひとまずこんなところかな。

 で、肝心の使い方は?


『……の現象は適切な場所/適切な器具/適切な手順が揃うことで発現し……それらの場所は龍脈やパワースポットとして知られ……専用に調整された補助器具を使うことでより安定的かつ効率良く効果を発揮できる。弊社の装具は身体に装備することで両手を解放し、古来からのワンド型魔装具よりも携帯性利便性に優れ……』


 あ、これは広告か。やっぱり商品開発はされているんだね。

 うーん、いまいち読んだだけではわからないけれど、念じるだけでイケるわけじゃないのかな。とりあえず昼間の再現をやってみよう。


「よし、『時間よ、止まれ』!」


 部屋の真ん中に立って石を握った左手を胸に当て、目を閉じて強く念じる。

 ……

 ……

 ……

 待てよ、時間が止まったかどうか、どうやって判断すればいいんだ?


 時計か何かを目の前に置くべきだったか。

 でも、もし時間が止まったとして、それを自分で認識できるのかな?

 もし自分も止まっちゃったら……


「やめやめ、中止中止!」


 あー、焦った。どうやら時間停止は出来ないようだ。でももし、もっと強く念じていたら実現してしまっていたかもしれない。解除方法も分からないままで。時間停止はヤバそうだ。もう少し知識が増えてからにしよう。


 まあ、石が熱を発していないからうまくいってないのは分かってたけどね。

 たぶんだけれど、超常現象を発現する際には石が発熱するのだと思う。ひとまずそういう仮説で試してみよう。


「体よ、浮け」


 空を飛ぶイメージを思い浮かべて強く念じる。何も起きない。

 うーん、違うな。お昼休みのあのとき、何をイメージしていたっけ。

 もっと具体的に、手から飛び出す弁当箱に追いつくために空気を掻くような……


 左手の石が熱を帯び始める。


 そうそう、こう、腕で空気を掻いて泳ぐように……水の中を……

 あちっ


 石が持っていられないくらい熱い。

 思わず胸の前にあった左腕を振ろうとして空気の粘度がやけに稠密になっていることに気づく。体を前に倒してもゆっくりとしか動かない。


「おぉ、あわわぁ」

 どさっ、とベッドに倒れ込む。


 できた。どうやら浮いたり跳んだりではなく、空気が水みたいにゆっくり動くようになる超常現象を引き起こせたらしい。


「すごい、超能力、いや、魔石を使うから魔法かな。こんなことできるんだ!」

 仰向けに寝転び、うふふとほくそ笑みながら石を天井にかざす。


「ありゃ、小さくなってる」


 小指の先ほどの大きさだった石が、半分くらいに縮んでいた。

「ふーん。そりゃあ、無限に使えたらもっと世の中に知られているよねぇ」


 二回遊んだ程度で半分になったってことは、あと二回、短い空中遊泳ができるかどうかということか。いろいろ試すならもっと魔石を手に入れないと。

 起き上がってもう一度ウェブサイトの画面を見る。


「魔石販売……魔石買取……査定……。はえー、意外と店舗販売もしているんだね。お、アルバイト急募、魔石採掘作業、時給二千円、交通費食費支給、日当払いか。いやいや、バイト探しじゃないし。この値段なら自分で採取して買取に出したほうが儲かりそうだし。ん?よく見たらこのサイトの口コミ、滅茶苦茶評判悪いじゃん」


『いまどき魔石などという誤った呼称を使っている店はほぼ100%似非えせです。騙されないようにしましょう』

『魔法ではありません。量子結晶体による存在確率の工学的操作作用です。誤った知識は予想外の結果を生む危険性があります。きちんと勉強してください』

 昔は魔石って呼んでいて最近は量子結晶体っていうのか?うーん、よくわからん。呼び方なんて好きでいいと思うけど。


 検索サイトの一番下の記事に小さく書かれていた文字が目に留まる。

『職人技が光る伝説の魔石細工師、馬酔木あせび源八げんぱち

 って、ひいおじいちゃん!?

 ウェブサイトには個人名しか載っておらず住所も顔写真もなかったが、珍しい姓だから間違いない。確かお堀近くに家があったはず。

 俺が小学生の頃に死んだって聞いているけど、家はまだあるのかな?


 その夜、夕食のときに思い切って母さんに聞いてみた。

「お母さん、ひいおじいちゃんってどんな人だった?」

「どうしたの、急に。そうねぇ。細々《こまごま》としたものを作るのが好きな人だったわ。好きなことをやって好きなものを食べて。お酒も大好きだったわね。とにかくマイペースな人だった。典型的な昔気質の職人ね」

「ひいおじいちゃんの家って残っているの?」

「あるわよ。英太も小学校に入る前くらいまでは何度か遊びに行ったのよ。覚えてる?」

「へえ、まだ残ってたんだ。もう死んじゃって長いから無くなってると思ってた」

「あら、ひいおじいちゃん、死んじゃったの?」

「え?」

「十年前くらいに『旅に出る」って言ったままふいっといなくなったから、もしかしたらもう死んじゃってるかもしれないけどね」

 あはは、と開けっぴろげに笑う母さん。

 俺は記憶もあやふやなひいおじいちゃんが生きているかもしれないという事実に驚いていた。

「いつ帰ってきてもいいようにウチで鍵を預かっているわ。家は人が住まなくなるとすぐに痛んじゃうからね。ときどき母さんが行って空気の入れ替えとかお掃除とかしているのよ。なあに?興味あるなら英太にお掃除、任せちゃおうかしら」

「うん、いいよ」

「ほんと?助かるぅ。今月は忙しくてなかなか時間が取れそうになかったのよねー」

 ウキウキで週末の予定を立て始めた母さんから古い鍵とひいおじいちゃん家の住所を書いたメモ書きを受け取った。

 今度の週末、行ってみよう。魔石(仮)のこと、何かわかるかもしれない。

不可思議な物質、量子結晶体。古くは魔石と呼ばれていたそれは、英太を未知の世界へと誘う――

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