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Ep4-12 四百年の封印

レムナンツ・ハンズに先を越されたノクターナル。だが桔花には秘策があるようで――

「あー、また先を越された。英太のくせに生意気!」

 トオノさんたちと作戦の成功に浸ろうとした矢先、背後から声が聞こえた。

「片梨さん」

「遅かったね、ノクターナルさん。『白い焚書』はもう消去済みだよ」

 珍しくトオノさんが気障キザなポーズを極める。

「ふーん。でもまだ終わってはないみたいね」

 だけど片梨さんには響かなかったようだ。

「時間の問題さ。あと五分もすれば全部粉になって消えてしまうんだ。おっと、処置を止める方法はないよ。なんせ、僕も止め方を知らないんだからね」

 えぇ、止める方法がないって、欠陥品じゃないですか……。

「最後まで見届けられればね」

 味方の言葉に焦る俺とは違い、片梨さんは余裕の表情で切り返す。

 レイダースという人種はこの手のやりっぱなしみたいな手段に感じるところがないらしい。俺もレイダースになるためにはそういう割り切りを覚える必要があるのかもしれない。

「ところで用が済んだなら早くここを出たほうがいいわよ」

 そういい捨てると片梨さんが手早くガジェットを操作して床一杯に魔法陣を展開する。

「……封印術式」

 トオノさんが封印の魔法陣に特徴的な部分を見てつぶやく。

「あら、少しは分かる人がいるのね。でもこれは特別製よ。なんせ次に開くのは四百年後だから」

 ニヤリと凶悪な笑みを浮かべて右手を魔法陣にかざし続ける片梨さん。彼女が力を注ぎ続けることで魔法陣は徐々に広がって床からはみ出て壁を越え、丸ハンドルの扉の外にまで広がっていく。

「じゃあね。みなさん、ごきげんよう」

 床の魔法陣の部分部分に描かれた小さい魔法陣の群れがカチャ、カチャリと音を立てて次々に所定の向きにはまるように回転して明るく輝いていく。

「ちょっ、おま、全員退避ーっ!」

 顔色を変えてカサギさんが命令を下す。

 俺とトオノさんも急いで出口に向かう。

「よろしい、全員出たわね」

 出口で待ち構えていた片梨さんがすかさず扉を閉めて丸ハンドルを回しロックする。

「おい、玖条くじょう。どういうつもりだ?」

 カサギさんがノクターナルのリーダーに苦言を呈する。

「本気でおまえらを閉じ込めようとしたわけではないことは分かっているだろう。通常の駆け引きの範囲内だ」

「むぐっ」

 次の瞬間、『白い焚書』を保管している禁書庫の周囲にオーロラ状の光が立ち昇り、強固な結界に包まれた。

「あぁ、ドローンが……。あのー、中に忘れ物したんですけど取りに入っていいですか?」

「無理ね。さっきも言ったけど、次に開くのは四百年後よ」

「えぇ、そんなぁ。よーし、なら僕が結界を解いてやる。開ける方法があるなら、ハッキングするまでだ」

「それも無理よ。あきらめなさい」

「舐めないでもらいたいね。暗号キーが何桁必要だとしてもしょせん有限の組み合わせだ。最新の量子コンピュータを駆使すればどんな暗号も一年以内に解けるはず……」

 一年かかるんじゃダメじゃない?ここには長居できないだろうし。あと十五分もすればレイドの時間は終わる。

「この封印のカギには天体の運行を使用しているの。特定の天体が特定の位置に来ない限り封印は解けない。単純だけど確実な方法よ。この結界を既定の方法によらずに開けるには宇宙をだますだけの実力と量子結晶体が要るわ。そっちこそ舐めないでもらえる?ノクターナルがそんなに簡単に解除出来る結界を使うと思って?」

「もしかしてその天体って……彗星?」

「あら、察しがいいわね。そうよ。渋川・ターナー彗星。ちょうど今日が近日点を通過する日だったから利用させてもらったのよ」

 得意気にバチンとウインクをしてくる。

 渋川・ターナー彗星。一ヶ月ほど前に地球に最接近して話題になっていた彗星だ。三百七十八年周期の彗星で、江戸幕府初代の天文方、渋川春海もその観測記録を残していたそうだ。

 彗星が近日点に来た日にしか開かない封印の扉か。

「はあ、仕方ない、ドローンはあきらめるかぁ。でもレイドはこちらの勝ちだよ。先に完全消去したのは僕たちだ」

「あらそう?証拠は?」

「だから物を見れば……」

「どうやって?」

「……」

「レムナンツ・ハンズの完全消去が成功したかどうかは四百年後にならないとわからない。あたしたちの封印は専門家が確かめればすぐに分かるわ。運営はどちらを勝者と判断するかしらね?」

 むむむ、と顔をしかめてから確かにとうなずくトオノさん。

「やられたな」

 カサギさんも諦念のため息をつく。

「さて、みなさま。ご用事はお済でしょうか。時間まではまだ少々ございますが、御用のない方にはすみやかに退出をお願いしております」

 にこやかな表情だが有無を言わせない圧力で家令が退去を促す。

「帰り道でドジ踏まないでよね。帰るまでが遠足よ」

 ニヤニヤと笑みを浮かべて片梨さんが軽く手を上げて去っていく。

 彼女ってちょっと子供っぽいところがあるよね。勝敗にこだわるところとか。

 それを言ったらケイタも同じ感じか。

 最後の最後で逆転されたこと、手抜きだって怒ってなきゃいいけど。

 トオノさんは悔しそうではあるけど、ノクターナルの取った手段自体にはその手があったか的な納得をしているようだ。

 俺は……悔しいのだろうか?

 苦労はしたし、その苦労が報われなかった残念感はある。でもトンチみたいな負け方は悔しさ二割、感心八割と言ったところかな。勝負へのこだわりが少ないのかも。いまのこの気持ち。ムズムズする気持ちはいったい何だろう……。


ノクターナルの多少強引な手段で勝敗の行く方は不透明なものとなった。果たして英太の運命は――

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