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Ep4-4 アタック開始

レイド開始時刻を待たずに潜入を開始するレムナンツ・ハンズ。英太は仲間とともに見つかれば即失敗のミッションに挑む――

 7月上旬某日 17時25分 国会図書館駐車場


 最初に動いたのはレムナンツ・ハンズだった。

 正式なレイド開始時刻は曜日の変わった深夜二十五時ちょうどだったが、現場への入場を一般利用客に紛れて行う作戦のため、開館時間中に動く必要があったのだ。

「でも、レイド開始前に動くのってルール違反じゃないんですか?」

「運営が決めた開始時間は結界が張られる時間。事前に動いてはイケナイなんていうルールはない」

 障害者等用駐車スペースに停められたワゴン車の床にうずくまって待機する俺の質問に、ハンドルを握るメイさんが答える。今回、潜入組はバラバラで移動して現地集合ということになっている。

「だがな、英太。運営のヤツらは結界外で起きた事には運営は関知しない。レイド前に警備員に見つかったら不法侵入でお縄さ。だからいつもはレイド開始を待ってから侵入するんだ」

 なるほどね。

 だけど今回はレイド中であっても当局に見つかったら運営はもみ消してくれないから、いつ動いたとしてもリスクは変わらない。だから、より安全に入館できる方法を採用するってことか。

「そろそろ時間」

「オウよ」

「了解」

 俺はワゴン車の後ろに積まれたトオノさんお手製の電動車イスの下部スペースに体を丸めて潜り込む。かなり窮屈だが息はできる。

 ケイタが先にワゴン車から降りて後部ハッチを開けリフトを操作し、電動車イスを下ろす。それを運転席まで押して行き、下半身が不自由な演技を続けるメイが車イスに乗り込むのをサポートする。俺はその間、真っ暗な箱の中でゴトゴト、ガコンと揺れる衝撃に耐えながら息をひそめていた。

 特別製の車イスは車輪のほうにモーターを組み込んだインホイールモーター式になっていてイスの下部に車軸がない。実は動力も制御回路も全部量子結晶を使った術式による制御になっていて、ガジェットとしての物理パーツは車輪が本体と言って良い代物だ。さらに小柄なメイが座ることで座面の高さをごまかし、確保したスペースに英太が隠れるための箱を設置して、外装にそれらしいパーツをちりばめて偽装しているのだ。

 メイは可愛らしいチェック柄のひざ掛けをかけて電動車イスを操縦し、ゆっくりと入館ゲートへ向かった。

 外の様子を知るすべがない俺は、昨日のリハーサルでのカサギさんの言葉を思い返していた――


「国会図書館のセキュリティシステムは普通のオフィスビルと大差ない。技術的には大したことはないんだが、厄介な点が二つある」

 カサギさんが一瞬苦い顔になる。

「ゲートはよくあるIDカードを用いたフラッパーゲート式だ。単純な開閉だけでなくIDごとの入出館日時を記録するシステムだ。入った人数と出た人数が閉館前に照合されるから、誰が館内に残っているのかはすぐにバレちまう。事後であっても潜入日時が割れてしまえば今回のレイドは失敗だ。さらに万が一他人のIDと偽造カードのIDが重複したら不審点が記録に残ってしまう。連中がどこまで細かくログをチェックするのか予測できないから、今回はカードを偽造するのではなく身元を偽造する。そっちは身分証を目視確認するだけだから後に不正の証拠は残らねぇ」

 俺はコクリとうなずく。

「で、一番厄介なのが人間の監視の目だ」

 俺は下見で訪れた入館ゲート周辺を思い描く。横幅の広い空間に腰ほどの高さのフラッパーゲートとガラスの仕切り。右手のカウンターには図書館職員が二人いて、利用客の出入りに常に目を配っている。さらにゲートの手前、左側には手を後ろに回した姿勢で真っすぐに立つ警備員が不審な動きに目を光らせている。オープンな空間に常時監視の目が三人分もあって、供連れで入ったり仕切り越しに物を手渡したりできる隙はなかった。

「さすが、国家機関ってところだ。人的リソースは使い放題らしい」

「最新のセンサーをごまかす手段だならいくつもあるけど、人をごまかすのは難しいなぁ」

 トオノさんもサイバー的な手法ではお手上げらしい。

「そこで、古典的な方法を取る。英太。おまえはこの車イスに隠れて中に入り込め。俺とトオノはケイタがちょっとした騒ぎを起こした隙に監視の目をごまかして入る」

「おっ、出番か?」

 それまでぼんやりと聞いていたケイタがうれしそうにソファから身を乗り出す。

「騒ぎっつっても、暴力沙汰じゃねぇぞ?」

「わかってるよ。オレのせいでレイドがおじゃんになっちゃ、ノクターナルとの勝負に負けちまうからな。で?何をすればいい?」

「おまえはメイの乗る車イスの介助だ。作戦はこうだ」――

Ep4-4 アタック開始〔つづく〕

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