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Ep1-1 未観測の僕へ

何者でもない僕たちは何も無い将来に向かってただ押し流されて行く――

「おう、英太。久しぶり。背ぇ伸びたじゃん」

「久しぶりー。おまえは変わってないな。サッカーがんばってんの?」

「そりゃまあな。半分スポーツ推薦みたいなもんだし」

「で、急にどうしたん?」

「いや、彗星が見れる最後のチャンスって夕方のニュースで言ってたからコイツら誘って出て来たんだけどさあ」

「そういや、ここんところ話題になってたね」

「おまえ、そういうの好きじゃなかった?星とか空とかさ」

「んー、みんなが騒いでいると逆に冷静になるっているか冷めちゃうんだよね」

「あー、わかる。ニワカ勢が話題にしてると『は?いまさらなんだが』ってなるやつ」

「損な性格してんなー。次、見れるのは四百年後なんだから今見とかないとなのに」

「で、見えたの?」

「いんや。雲がかかってたし、第一低すぎて建物で見えんかったわ」

「意味ねー」

 高校二年になって最初の中間考査を何とか乗り切り、なんとなく気が抜けていたところに中学時代の地元の友達から誘いの連絡があった。

 別に暇だったし、夜の外出をとやかく言う親もいなかったから、晩飯を済ませたあとで近所の公園まで自転車を走らせた。父さんは出張、母さんは今朝は早出だったので自分が出るときにはすでに妹と一緒に就寝していた。

 家から徒歩でも五分とかからない公園だ。自転車ならすぐに着く。

 小学生のときに買ってもらったちょっと子供っぽい自転車。

 サッカーやキャッチボールをやったネット付きの多目的広場。

 幼い頃とは入れ替わった遊具。

 背が伸びて声の低くなった仲間たち。

 冬に会ったやつもいたし、中学卒業後に初めて顔を合わせたやつもいる。

 久しぶりの友人たちとの会話は楽しかった。

 他愛のない話からそこにいない友人の近況など、思いつくままに誰かが話を継いだ。

 学校はみんなバラバラだから成績の話は無し。

 コイバナは出なかった。たぶん、みんなネタがないのだろう。良かった、まだ横並びだ。

 いつの間にか将来の話になっていた。


 そろそろ受験勉強考えないとな。おまえ塾行くの?えっ、まだ行ってないの?

 就職っていうつもりもないけど、大学受験っていうのも現実味ないよなー、等々。

 あいつ、消防士になるって言ってたぜ。

 ああ、親だか親戚だかが消防士だもんな。

 でも消防士も大卒のほうが有利なんだろ?

 おまえ、なんでそんなこと知ってんだよ。

 いや、まあ将来が気になってちょっと公務員の資格とか調べたんだよ。

 それなー。俺もちゃんと考えねーとなぁ。


 何となくしんみりとして会話も途切れ、時間も遅いしとなって解散になった。

 友人たちと別れた後も将来のことでモヤモヤした気持ちが晴れず、俺はすぐに家に帰る気にはなれなかった。

 自分にはあまり自覚がなくても、周囲はどんどん先に進んでいく。

 高校へは電車通学になり行動範囲は広がっているはずなのに、世界はどんどん狭く息苦しくなっていく。

 俺はやり場のないモヤモヤを胸に、どこかに行こうとかそういうんじゃなくて、ただ何となく自転車を走らせた。


 将来の話。進路。夢。現実。

 自分でもよくわからない不安が、胸の奥でしつこく渦を巻いている。

 家に帰る気にはなれず、ただペダルを踏んだ。


 深夜でも交通量の多い幹線道路脇の広い歩道を走る。

 コンビニの光が流れていき、いくつもの青信号を通過する。


 父さんは、大学には絶対行くべきだけど無理に上位を目指さなくていい、自分の行きたいところに入ればいい、といってくれる。

 理解のある親。

 でも、自分がやりたいこと、なりたいものって、どうやって見つければいい?

 父さんに聞くと『父さんはコンピュータが欲しくて、でも高価で手に入らないから自分で作ろうとしていろいろやったなあ。パソコンもない不自由な時代だったよ』と笑顔でいう。

 夢のある昭和ってズルい。


 今の時代は何でもある。

 お金を出せばどんなものでも手に入れる手段がある。

 疑問に思ったことにはスマホがすぐに答えをくれる。

 思いついたことは自分でやらなくても誰かがやって動画を上げてくれている。

 思いつかないことまで先回りしてコンテンツが用意されている。

 なんでもバーチャル。

 新しいことは電脳空間の中にしかなくて現実味が希薄だ。

 取り組む前から結論が出ていて、新鮮味は一瞬で消費される。


 世界は早い者勝ちだから、誰もが我先にと新規なことを潰していく。

 そうして金と環境ちからを持っている者がどんどん世界を『すでに知っているもの』に変えていく。

 就職している大人たちは新しいことをあきらめて、稼いだお金をコンテンツの消費についやす。

 何もない俺たちは、そんな大人になる将来に向かって勉強とか受験とか、やりたくもないことをこなし続けるしかないのかな――


 幹線道路を飛ばす車のギラギラしたヘッドライトに嫌気が差して街路樹の多い脇道に入る。

 交通量の少ない四車線の道に唐突に表れた首都高速道路の緑の標識で、都心部まで来てしまったことを悟る。

 このころには現在位置がどこかも、今が何時かもわからなくなっていた。

 でもどうでもいい。

 スマホで調べればすぐにわかることだし。いまは画面を見たくもないし。


 ひと気のない複雑な形の交差点に着いたとき、うねる大蛇の腹のように曲がる高架道路越しに、尖塔のような高層ビルが目に入った。


 ――あそこ、新宿じゃん


 昔、親と新宿駅に行ったときに特徴的な時計塔を思わせるあのビルを見たことがある。こちらからは時計は見えないが、近くに行けばわかるだろう。

 まだ少し距離があるけれど自転車ならすぐだ。

 あの時計塔で時間を確認しよう。

 スマホ画面を見たくない俺は、真夜中の新宿を目指すことにした。


漠然とした不安と焦燥感を抱え徘徊する英太が新宿で遭遇したものは――

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