Ep0-1 夜を漁る者(2)
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「ちくしょう。ノクターナルが来てやがる」
広い道路を挟んだ斜向かいの路地で様子をうかがっていた中年の男が、眉間にしわを寄せ小声で吐き捨てる。
このレイドにはあと一チームが参加していた。
チーム名はレムナンツ・ハンズ。
彼らもまた漁夫の利を狙って競合チーム同士が潰し合うのを待っていたのだが、ノクターナルに先を越されてしまったようだ。
「よっしゃ、リベンジの時間だ。あの赤いのに一発ぶちかましてやる!」
「ぶちかまされる、の間違いじゃないの?」
「ンだと、このギーク野郎ォ」
「こら、レイド中なんだ。仲間内でのいざこざは御法度だといっただろうが」
「すんません、リーダー」
「やーい、ケイタ叱られぃタ―」
「やっぱこいつシメていいすっか、カサギさん」
「いいわけないだろう。トオノもいい加減にしろ」
「はーい」
「……参加フィー、五百ジェム。現在の収穫、ゼロ」
路地の入り口から他のメンバーよりも奥まった位置に隠れるようにしゃがんだ女性がボソボソとつぶやく。
「どうすんスか、リーダー。一発も殴らずに撤収なんて、来た意味ないッスよ」
「う、うむ。だがミドルクラスのチームも参戦しているとなると勝ち目は薄い……」
「あ、ならあそこに寝てる連中の装備、がめてきますね?」
リーダーと呼ばれた中年男が腕組みをして悩んでいる間に、中背でヒョロリとしたシルエットの青年が路地からひょいと飛び出す。
「おいこら、不用意に敵に近づくな」
「大丈夫ですよ。リーダーは心配性だなぁ、あはは……って、ぶきゃっ」
壁にもたれるようにして倒れていたバロック・ドッグスの一人が路地裏から現れたトオノに向かって拳銃型デバイスを持ち上げた。どうやら麻痺術式の効きが甘かったらしい。それを見たケイタがトオノに跳びついて横倒しに地面に伏せさせたのだった。
「ンの野郎ォ、死んだふりしてやがったなぁッ」
瞬時に立ち上がったケイタが壁にもたれた敵に向かって一直線に走る。
敵は麻痺が残るのか、震える腕を懸命に伸ばして拳銃型デバイスの引き金を引き絞る。
タン、タン、タン
三発の弾丸を引き金が引かれる寸前に走るコースを変えて避ける。
「らぁぁぁッ」
ケイタは顎の前に拳を並べたピーカーブースタイルの低い姿勢で壁際の敵に突っ込む。
接触と同時に掌底で拳銃型デバイスを持つ右手を外へ弾きつつ、鳩尾に膝蹴りをめり込ませた。
「ぐぼぁ」
壁と膝に挟まれた敵は白目を剥いて崩れ落ちる。
「イタタタ。酷いよケイタくん」
「ああ?麻痺弾喰らわずに済んだんだからいいだろ?」
「いや、あれ絶対当たらなかったし」
「うっせぇ、ヒョロガリ。こっち来て早いとこ済ませちまえ」
「おっと、そうだった。どんな装備を持っているかなー?」
トオノが倒れている敵チームメンバーをごろんとひっくり返して装備を物色し始める。
「おっ、これは……ほうほう、こっちも最新式の……いいなぁ、これ。あ、こんなのチートじゃん。ムカつく。全部もらっちゃえ」
ブツブツつぶやきながらどんどん装備類を剥いでいく。
「おい、こら、そこまで脱がすことはないだろう」
「え?でもインナーも最新の電子制御で……」
「いいから、とりあえず手持ち装備だけにしておけ。身ぐるみ全部なんて持って帰れないからな」
「ちぇっ。あ、RPGだ。これは重いけど持って帰りましょう。ええ、そうしましょう」
少し離れたところに置かれたロケット弾射出装置と弾数発のセットが無傷で放置されている。
「んー、ま、しようがねぇか。このままだと赤字だし。おーい、メイ。こっちに来てちょっと回収を手伝ってくれないか……って、居ないし。逃げたな、あいつ」
***
ノクターナルの二人が商業ビルの中に入ると、入り口を確保していた大男が滑るような足取りで階段ホールに向かって走りだす。
途中、遮蔽物ごとにクリアリングを行い、オーケーの合図が出て漣と桔花が合流する。
階段ホールでもクリアリングは大男の仕事だ。
小さな鏡を取り出して階段の様子を確かめる。上の階の踊り場に一人、階段ホール内に一人倒れている。麻痺弾を数発浴びたようで気絶している。
「ここで遭遇戦があったようね」
「ああ。連中は残り二人ずつだな」
「この先は共闘することにしたのかしら?」
「さあな。共闘という選択肢を選ぶ連中には見えないが」
無駄話をしていると、ズン、と縦揺れがして爆発音が下の階から響いてきた。
「炸薬だ」
ここまで一言も口をきいていなかった大男が口を開いた。
「レイドで使用するものではないな。おそらく旧陸軍のブービートラップだろう」
「ひえっ、それってヤバイんじゃ……」
「レイドの敵はお上品な競合チームだけじゃないんだ。そこを履き違えると痛い目に遭う」
「撤退する競合チームと遭遇するかもしれん。慎重に行くぞ」
「了解」
「頼りにしてるわよ。ショーさん」
Ep0-1 夜を漁る者 〔つづく〕




