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Ep2-7 天使と死神

レムナンツ・ハンズが解除に失敗したギミックに、今度はノクターナルが挑む――

 床に空いた大穴がゆっくりと逆回しに復旧していく。

 広間はすぐに元の姿を取り戻したが、そこにレムナンツ・ハンズの姿はなかった。

「なかなかに嫌らしいギミックね。この教会を作ったカルト団体ってろくなもんじゃなかったんでしょうね」

『実態は分からないけど、事前調査ではヨブ派の分派という結果が出ているわ。灰羽派アッシュ・ウィングって名乗っていたらしいわよ。苦痛こそがしゅの恵みであり苦痛を通してのみしゅと対話が叶うとする教義を中心に据えていたそうよ』

「それはまた、マゾヒスティックな集団ね」

『そういう集団のリーダーに限って、究極のサディストだったりするのよね』

「おお怖い。レムナンツ・ハンズの冥福を祈るわ」

 基本、レイドでは人死ひとじにが出ないように配慮されている。途中で倒れていたバロック・ドッグスの連中も仲間が助けに来れなくても運営の回収班がレイド後に搬出してくれる。もっとも、法外なサービス料金を請求されるのだが。

 ユナと交わす冗談とは裏腹に、桔花はお宝をゲットしたあとで英太を探しに行ってやろうと決めた。

「連中のおかげでギミックの対処方法がだいたい判明した。ユナ、解析結果は?」

『彼らが逆再生と言っていた聖歌の正体は重力制御術式のようね。なかなかに凝った造りよ。そのまま詠唱すれば重力加速度を増加させ、逆回しで唱えれば多分重力加速度を減少させる。正確を期するには遠距離の盗み聞きじゃなくてちゃんと自分で聞いて確認しないとだけど』

「ヒュ~、そこまでわかっちゃうんだ。身を挺して情報をくれた彼らはまさに天使ね」

「よし、魔法陣に入って詠唱の内容を確認するぞ。桔花は間違えて口ずさんだりしないように注意しろ」

「わかってるって」

 桔花は術式への適性が高すぎて気を抜いていると無意識に詠唱をトレースしてしまうことがある。昔の失敗をしつこくつつかれるのは業腹だけど、身から出た錆なので文句は言わない。

 三人で円錐の前に立つ。

 肌が泡立つような感覚があって結界が起動したことを感じる。

 耳の奥に細い歌声が聞こえてくる。

「術式を起動しないように後半部分からトレースする。内容はそちらでつなげてくれ」

『了解』

 漣が後半と前半に分けて逆再生の聖歌をトレースしてユナの端末に送信する。

『ビンゴよ。逆再生でも順再生でも詠唱になっているわ。面白い技術ね』

「技術評価は後だ。順再生の詠唱を送れ」

『了解』

 しばらくして漣のもつガジェットから詠唱が流れ始める。

 レムナンツ・ハンズのときとは違う色合いで魔法陣が光る。

「ほう、これは」

「体が軽いわね。月まで飛んでいけちゃいそう」

「ショー、丸石を頂上にセットしてくれ」

「了解」

 ショーが月面着陸シーンのようにゆっくり大きな歩幅で丸石まで歩き、ゆっくりと持ち上げる。重量が減っても慣性質量は変わらない。勢いよく持ち上げると天井まで飛んで行ってしまうのだ。

 そおっと動かして円錐の頂上の受け皿にピタリと止まるように置く。

 すると、滑らかな球体の表面に魔法陣の記号が浮かび上がる。その記号の方向が床の魔法陣と揃うように慎重に位置を調整する。

 すべての記号が揃った瞬間、魔法陣が白い輝きを放ち、天井近くに開口部が現れた。

「あれが本当の入り口だろう」

「高いわね。あたしなら飛べる高さだけど、ショーさんはどうするの?」

「今は重力加速度が六分の一程度になっている。あの高さでも届くよ」

「いくぞ」

 タッと垂直飛びをしてそのまま開口部に飛び込む。中に着地するとすぐに通常の重力に戻った。場所を開けてメンバーの到着を待つ。

『それにしても凝った術式だったわね。とても長年放置されていたトラップとは思えないわ』

「というと?」

『誰かが罠を操作している』

「つまり能動的な敵がいるということか」

『イエス』

「了解だ。ここからは桔花、俺、ショーの並びで行く。術式による攻撃およびトラップに注意して進もう」

「「了解」」


 ***


 イタタタタ。

 でもかなりの高さから落ちたはずなのに打ち身程度で済んだようだ。

 起き上がろうと突いた手のひらの下で、小枝がパキポキと折れる音がする。

「大丈夫か、ガキども」

「うぃーす、オッケーですー」

「へーき」

「いつまでもガキ扱いしないでくださいよ、カサギさん」

「未成年のうちはガキだ」

「あー、じゃあ俺は勘定外っすね」

「減らず口を叩いている間はガキだよ。あと、新人は?」

「あ、はい、大丈夫です。木の枝がクッションになったみたいで」

「木の枝ねぇ」

「それにしても、また真っ暗闇に逆戻りか」

「ライト、つけていいぞ。どうせ侵入はバレている」

 ボディアーマーとして渡されたベストに取り付けられているライトを手探りで点灯する。

 目の前に虚ろな穴をのぞかせた髑髏どくろが浮かび上がる。

「うぴゃーっ」

「わっははは、何だよそれ、悲鳴か?」

 えっ?えっ?何?どうなってんの?

 髑髏の向こうからケイタが顔を出す。ニタニタと笑っているのが場違いというか合っているというか。

「ここはいわゆる地下共同墓地カタコンベだな。教会の地下といえば定番だ」

 えっ?お墓?この骸骨がいこつ、本物?

「それにしても日本でこんな本格的なカタコンベなんてあるんですか?」

「そうだな。マイナーなカルト団体の墓地にしちゃあ、ちょっとホトケさんが多い気がするな。だが、それを調べるのは俺達の仕事じゃない。とっとと先を急ぐぞ」

「了解」

 えーっ、そんなにあっさり無視するのぉ?

 この人たちのメンタリティって一般人と違い過ぎる……。レイダースってそういうものなのかな……。


Ep2-7 天使と死神〔つづく〕

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