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Ep2-6 シーシュポスの岩(2)

意気揚々とギミック解除に挑戦するケイタ。ここで先んじればお宝争奪戦で優位に立てると意気込む――

「ようし、いい感じでギャラリーも増えたからいっちょうやってやりますかぁ」

 コキコキと首を鳴らして肩をほぐし、ケイタが丸石に挑戦する。

「ふんぬっ」

 ちょっとやそっとでは動かない。一筋縄ではいかないようだ。

「うぎ、ぐぬぬ、むぐぐぐ、ぬがーぁっ!」

 ごろり、と重い音を立てて石が動く。

「うぎぎぎぃ」

 腕で押していた石を肩を当ててさらに押し上げる。

「ふんっ、がぁぁぁっ!」

 丸石を円錐に彫られた溝に沿って押し上げながら、一歩、また一歩と斜面に刻まれた段を登る。

 力を抜いたら全重量がケイタに返ってくる。飛びのく時間はないから大怪我は免れないだろう。かといって手伝おうにも下手に手を出したらそれこそバランスを崩してしまいそうだ。

「がんばれ!」

 手に汗を握りながら応援することしかできない。

「むぎぎぎ」

 岩肌が肩に食い込み、全身の骨が軋む。

「あと半分」

「ふんごごごぉ」

 筋肉が悲鳴を上げ、膝が笑う。

「もう一息!」

「ふぉぉぉぉ」

 滝のように吹き出す汗で岩肌が滑る。

 あと一センチ!

「うぉぉぉっ、ふんがぁ!」

「やったー!……あ、ああ?」

 最後の山を越えて頂上の受け皿部分に乗り上げた丸石は、そのままゆっくりと転がり続る。

「ぇ、ちょまっ、待てよっ、ああ、てめェ……」

 丸石は無情にも、ごろりと反対側の縁を越える。

 ごろん、ごろん、ごろごろごろ――

 円錐の後ろ側に彫られた溝に沿って、丸石が転がり落ちていく。

 壁に切られたフラップ式の扉を押し開けて丸石が姿を消す。

 ゴオォォン……

 重い音が床を揺らしながら壁の向こう側から響く。

「これでよかったのか?」

 こういうとき、第一声がフラグになるよね……。


 ゴロゴロゴロと重い音を立てて別のフラップ扉から丸石が現れ、富士山の裾野をなぞるように円錐の周囲に彫られた溝を伝ってぐるりと戻ってくる。最後に元の位置までくると、大きめのくぼみにゴトンと落ち着いた。


「な、んじゃ、こりゃあああ!」

 ケイタが心からの叫びをあげる。

「あっははははは」

 桔花きっかが涙を流しながらお腹を抱えて大笑いしている。

「ご苦労様。とんだ無駄骨ねぇ」

「う、うっせぇ……」

 さすがのケイタも息が切れていて返す啖呵に勢いがない。

「頂上の受け皿の真ん中にボッチがあるぞ。これ、上で止めさせる気がないのかな?」

 トオノが富士山に登って受け皿の様子を確かめて言った。

「ふ、ざけんな。ぜってー、成功、させて、やる」

「いやでも、これ、きっと他に攻略法があるんじゃないかな」

「かんけーねぇ。舐められたままで終われっか!」

「あたし知ってるー。これって『シーシュポスの岩』でしょう。あっちの故事で『徒労』を意味するヤツよね」

 桔花は近くにあった石柱の残骸に座り、嬉しそうに足をぶらぶらさせて言った。

 こんなに煽られてケイタが暴走しないか心配になって顔色をうかがう。

 しかしそこには怒りを闘志に変えて燃やしている漢の貌があった。

 桔花の煽りなど耳に入らない様子で御影石の球を見据える。

「いくぜ……」

 ぼそりとつぶやき、丸石に手を当てる。

「ふっ、ぬおおおおぉ」

 二度目だというのに先ほどと負けないくらい、いや上回る勢いで丸石を押し上げていく。

「ぬおぉぉりゃあぁぁぁ」

 すごいぞ、ケイタ。あんたは漢だ。だけどこのまま進めてもさっきの二の舞だよ。

「ねぇ、この歌、聖歌の逆再生なんじゃない?」

「確かに。でもなんて言っているのかわからないな」

「逆転再生したら何かのヒントになっているのかも」

「ありそう!でもセンサーには反応しないから逆再生したくても録音できないし……」

「聞こえるんだから耳コピーで歌って録音すれば?」

「「それだ!」」

 さっそくトオノが録音できるガジェットに向かって頭にだけ響く逆再生の聖歌をなぞって歌い始める。

 ケイタはすでに五合目を越えて、さらに上へと丸石を押し上げていた。

「……と、これでどうかな?」

 さっそく逆再生して聞いてみようとするトオノ。だが、トオノの歌い終わりと同時に、床の魔法陣が激しく光り始めた。

「えっ?なにが……うぐっ」

「わ、ちょっと。重い……」

 なんだこれ?

 バックパックの重量が急に増える。全身が重い。

「ぬ?これは?」

 カサギさんが腰を落として踏ん張る。アサルトライフル型デバイスも持っているのが精一杯の様子だ。

「じゅ、重力が……、重力加速度が増大、して、、、」

 バックパックの重みに床に潰れるようにして寝ころぶトオノさんが測定器の表示を見て懸命に報告する。

 俺も思わず膝をつき、両手で体を支える。

 自分の体重だけでもこんなに重いのに、ケイタは?無事か?

「ぐきぎぎぎぎぃ」

 目は血走り、食いしばった唇の端から血がにじんでいる。

 額に浮いた青筋は今にも破裂しそうだ。

 それでも残り指の先ほどのところまで来ている。

「ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛がぁ゛あ゛っ!」

 だが重力加速度は一秒ごとに増加し、押し上げる丸石の重量はそれに比例してますます重くなっていく。ケイタはもはや丸石を支えるだけで精一杯、いや、すでに限界を超えているだろう。丸石の重量が支える力を超えたとき、ケイタの身に大惨事が襲いかかる。

「ケイタ、逃げ、ろ、、、」

「ふっ、ざっ、けっ、ろっ、やぁっ、タコがあっ!」

 ぶちぶちっと筋肉が断裂するような音を立ててケイタが最後の一ミリを押し上げる。

 ゴトン、と頂上の受け皿に乗った丸石が勢いに任せてぐらりと向こう側へ揺れる。

 だが次の瞬間、重量が増大した丸石は受け皿の中心のボッチを押し込み、頂上にとどまった。

「やってやったぜ、こんちくしょー!」

 両手の爪は割れて血がにじんでいる。それでもケイタは最後まで膝をつかずに立っていた。

 ケイタが血塗れの握りこぶしを天井に向かって突き上げた。

 ガコンッ

 床下で何かが外れる音がした。

 立ち上がろうと踏ん張った両手から抵抗感が抜け、全身が浮遊感に包まれる。

「へ?うあぁぁぁ……」

「ひゃぁぁぁ……」

「きゃー……」

「くそっ……」

「そりゃねえだろが、こらあぁぁぁぁ……」

 俺達レムナンツ・ハンズは、ぱっくりと開いた床に吸い込まれるようにして奈落へと落ちていった。


思わぬ邂逅を果たした英太と桔花。だか、レムナンツ・ハンズはギミックの解除に失敗し、奈落へと消えていく――

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