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Ep2-6 シーシュポスの岩

回廊の終点は教会の入り口のような広場になっていた。そこに設置されていた謎解きギミックに挑戦するレムナンツ・ハンズだったが――

 回廊の終点は広間になっていた。

 広間の床は大理石が敷かれており、魔法陣のような模様が描かれている。

 教会だというのに正面の壁に十字架はなく主祭壇のような礼拝を執り行う設備も置かれていない。一般的なキリスト教会の最奥にある内陣と呼ばれる空間ではなく、どちらかというと教会の入り口のような印象だ。ただし、扉はどこにも見当たらない。

 広間には特徴的な物体が二つ存在した。

 人の背丈ほどの高さの円錐と、大男がやっと一抱えできるほどの大きな丸石だ。

 円錐の正面には溝が彫られており、その左右には足場となる階段がある。

 円錐の頂上はわずかに受け皿状のくぼみがあり、富士山を連想させる。

「こいつを押して登れってことだよな」

 ケイタが直径五十センチはあろうかという御影石の球を手のひらでぺたぺたと叩く。

 俺が興味本位で少し押してみたがびくともしない。

「いや、無理でしょ、これ」

「ンな女子みたいなへっぴり腰じゃあな。まあ、オレ様に任せろって」

 リーダーのカサギさんは周囲を警戒している。トオノさんは何やら装置を使って測定をしている様子。メイさんは……特に何もせずに周囲を見回している。

 どうやらこういうギミックはケイタの担当ということでチーム内に合意ができているらしい。

「ねぇ、何か聞こえる……」

 とくに何もするふうでもなく周囲を見回していたメイさんがつぶやいた。

「ン~?何も聞こえないよ。空耳じゃね?」

 何やら装置をいじくっていたトオノさんが視線を上げずに返す。

「何か聖歌のような……でも言葉が分からないわ……」

 本当だ、意識を集中しないと聞き逃しそうな細い歌声がする。

 意識を向けると歌声は徐々に大きくなってくる。

「センサーには何も検知していないよ。音波、電波、赤外線どれも反応なし……。あ、でも聞こえる……。ってことは思念波かな?」

 トオノさんとメイさんが測定器を覗き込んで何か話をしている。

 ケイタはガントレットを外して石を押す準備を進めている。

 そのとき、背後の回廊の警戒に当たっていたリーダーのカサギさんが声を上げた。

「後方から敵襲。警戒態勢」

 とはいえ、広間の真ん中で出来ることは少ない。とりあえずアサルトライフル型デバイスを持ったリーダーとサブマシンガン型デバイスを肩に掛けているトオノさんが前面に立って俺とメイさんが富士山の後ろに隠れる。

 武器を手にしていないケイタがなぜかずいっと前に出て腕を組んだ。


「誰かと思ったらレムナンツ・ハンズの御一行じゃない」

 暗闇から進み出てきたのは赤いプロテクティブスーツに身を包んだ小柄な少女だった。片梨かたなしさんだ。驚きの声が出そうになるのを手で押さえて円錐の後ろに身を隠す。

「よう、赤毛女。遅かったなあ。ここは俺達が先にいただいた。文句があるならかかってきな」

「おい、無駄に徴発するんじゃない」

 カサギさんがケイタに小さく注意したあと一番前に出る。

「ノクターナル。俺たちはギミック解除に挑戦中だ。紳士協定に基づき俺たちのトライが終わるまで停戦か、それともこのままやりあうか。そちらの意志を聞かせてもらおう」

 影からもう一人が姿を現す。

 二十代前半の中性的で整った顔立ちの男だ。黒に近いダークグレーの髪、すべてを透徹するような切れ長の瞳、細身だが油断ならない攻撃力を秘めた体躯。ノクターナルのリーダ、玖条くじょうれんだ。

「了解だ。現時点でこちらに交戦の意思はない。そちらのトライアルが終わるまで下がっていよう」

 富士山の陰で交渉を聞きながら隣で隠れているメイさんに話しかける。

「思ったより紳士的なんですね」

「そう。レイドは殺し合いじゃなくて奪い合い。自分でギミックを解除しなくてもあとで奪えばいい」

 ……なるほど。紳士にもいろいろあるんですね。

「へっ、そこで指をくわえて見てな」

 何か因縁があるのか、ケイタは桔花に噛みつくように言った。

「だから徴発するなって」

「いいわ。お手並み拝見と行きましょう」

 仁王立ちで腕を組み、ニヤリと笑う。魔王の笑みだ。

「あんたたち、気付いてる?その円の中、すでに結界が発動しているわよ」

 なんだと、という台詞を何とかこらえてレムナンツ・ハンズの三人が目を見合わせる。

 ……この歌!

 ノクターナルの登場ですっかり意識が逸れていたけれど、思い出したとたんにはっきりと聞こえ始める。ただ、人の声なんだけどなんかヘンな感じの発音でうまく聞き取れない。

「神経戦ってやつか?へっ、オレには効かないぜ」

 桔花が勝手にどうぞ、と肩をすくめる。

「英太、そこにいちゃ危ねぇからこっちで控えてろ」

 あちゃー、ここで呼ばれちゃ、顔を隠しても遅いじゃん。

 恐る恐るという感じで富士山の前に出る。

 ぽかん、という表現がぴったりの顔を張り付けた桔花が大声を上げる。

「あんた、英太じゃない!こんなところで何やってんのよっ!」

 えー、はい、その、借金返済のためにアルバイトやってます……。

「知り合いか?」

「あー、まあ、同じ学校の同窓生です」

「あんた、あれだけ忠告したのにこんな雑魚チームに引っかかって!あたしと組むって言ったでしょっ!」

 言ってないと思うんですけど……まあ、はい、言いたいことは分かります。

「ざーんねんだったなぁ。オレと英太はダチなんだ。おままごとは嫌なんだとよ」

「ムッキーッ!こっちが先約のはずよ。この泥棒犬ッ!」

「かー、やだねぇ。痴話げんかみたいに。男の友情に先も後もねぇンだって。な?」

「え?はい、いや、その……」

「ちょっと、バカ英太!はっきりしなさいよ!」

 桔花がずかずかと近づいて来ようとするところを、漣が肩をつかんで引き留める。

「紳士協定を宣言したんだ。それに結界が動いている。下手に近づくな」

「……分かったわよ」

 俺を睨みつけてフンと顔を逸らし下がっていく。視線だけで殺せそうな睨みだった。明日学校で逢ったらコロサレルかも……。


Ep2-6 シーシュポスの岩〔つづく〕

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