Ep2-4 教会遺構(2)
競合チームに先行するバロック・ドッグス。順調に見えた侵攻だったが、いつの間にか部隊を分断されていた――
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チャーリーチームの三人はレンガ通路に入ってしばらく続く直線の途中に簡単なトラップを仕掛けた。そのせいで前のブラボーチームの姿は見えなくなり、足音だけが前方から響いている。
「少しピッチを上げるぞ」
チャーリーチームのリーダーがメンバーに声を掛ける。通路は枝道はないがところどころ直角に曲がっており、前を進むチームの足音は聞こえるがヘッドライトの明かりは見えない。
「全然追いつきませんね」
ピッチを上げてからもう三分くらいは進んだだろうか。早足の速度はバロック・ドッグスの全員が同じペースになるように訓練を受けている。だからよほど離れているか、相手もピッチを上げて走っているのでなければすぐに追いつくはずだった。
「こう角が多いと方向感覚が狂うな……」
「ちょっと待て。さっきからずっと右に曲がっていないか?」
はっとして三人が足を止める。
すると、途端に周囲が静かになった。
先ほどまで響いていた先行チームの足音は自分たちの靴音がレンガ通路の壁に反響して返っていた木霊だった。
「どうなってやがる……」
三人は歩数を確認しながら角を曲がる。
きっかり四十歩で次の角が現れ右に折れる。
四つ目の角から先を照らしてみると、やはり三十メートルほど先に右に曲がる角が見える。
顔を見合わせて三人同時に元来た道へと戻る。が、四十歩進んだ先にあったのは右に折れる通路だった。
「うわあああ」
一人がパニックになって走り出す。
慌てて二人が追いかけ、腰にタックルして仲間を止める。
「待て、パニックになるな。三人で固まって行動するんだ」
「う、うん」
きょろきょろと落ち着かない様子で視線をさまよわせながら答える。
リーダーはほっと息をつき、立って周囲を警戒している仲間の顔を見上げる。
彼は暗い通路の中でも分かるくらい真っ青に血の気の引いた顔で呟いた。
「なあ、俺達、どっちから来たんだ?」
***
ブラボーチームは先ほどから続く段差の低い階段を上っていた。
あまり先行しているアルファチームを見上げるとヘッドライトの明かりが階段の上に潜む敵に見つかる可能性があるため、できるだけ足下の階段のみを見るようにして歩く。ときおり後方からちらり、ちらりとチャーリーチームのヘッドライトの明かりが届く。やはり見上げる動作は控えたほうがいい。
しばらくして違和感に気づいた。
先ほどからずっと上りが続くが、一体どこまで続いているのだろうか。こんなに登ればそろそろ地表に出てもおかしくないが、いっこうに階段が終わる気配がない。
先を見上げたくなる気持ちを理性で押さえ込んで、インカムに話しかける。
「アルファ・リーダー、そちらの状況を教えてください」
しかし、インカムからはサーッというホワイトノイズが聞こえるだけだ。
「おかしい……。止まれ」
ブラボーチームのリーダーがメンバーに号令をかける。
ブラボーチームが停止したことに気づいたのか、先行するアルファチームも足を止めた。
「アルファ・リーダー、聞こえますか?」
今度はインカムを使わなくても直接聞こえるくらいの声で話しかける。
だが返事はない。確かに前方に人の気配はあるのだが……。
上を探ろうとヘッドライトの明かりを向ける。
「……おまえ、チャーリーチームじゃないな?誰だ?……」
メンバーの震えた声が後方から聞こえ、思わず後ろを振り向いたとき、今度は上から同じ声が聞こえた。
「……おまえ、チャーリーチームじゃないな?誰だ?……」
なっ
驚いてバッと階段の上にいる男の顔にヘッドライトの光を向ける。
同時に背後からアサルトライフル型デバイスを発射する連続音が聞こえ始めた。
「わぁ「わぁぁぁっ」ぁぁっ」
ヘッドライトに照らされて目を見開いた男の顔が浮かび上がる。
それは自分の二つ後ろを歩いているはずのチームメンバーの顔だった。
「待っ……ぐふっ」
身をよじって後方の味方に警告を発しようとしたブラボーリーダーの体を複数の銃弾が打ち据える。弾丸はボディアーマーに着弾すると同時に麻痺術式を展開する。対抗してボディアーマーに内蔵された魔法陣が起動するが、着弾数が多くて麻痺術式の無効化が間に合わない。
「がっ」
硬直する意識の中で、中段を進んでいたブラボー・ツーが上方にいるブラボー・スリーにそっくりな男に向けて発砲するのが見えた。驚いた顔で崩れ落ちるブラボー・スリーの背後に背を向けた男の姿がもう一人、見える。
(だめだ、そいつは、おまえ自身……)
だが警告は発せられることなく、ブラボー・ツーは自分自身の背中に向けて、フルオートで銃弾を撃ち込んだ。
***
地下遺構の罠にはまり戦力の約八割を失ったバロック・ドッグス。だが先行するリーダーはまだそのことに気づいていなかった――




