Ep2-4 教会遺構
装備の質と物量に物を言わせて弱小レイドチームを蹴散らし争奪戦の先頭をゆくバロック・ドッグスが古い地下教会で遭遇したものは想定外の敵だった――
バロック・ドッグスは三人ずつ三チームに分かれて少しずつ間を開けて壁に開けた通路に入っていく。分岐に出くわすまでの一本道の区間は早足で進む方針だ。
古いレンガの道は予想に反して荒れてはいなかったが当然明かりがなく、人ひとりが武器を持って走るにはギリギリの幅しかない。敵に見つかるリスクはあるが、自分たちの最新装備の防御力を信じてヘッドライトを点けて進んでいく。狭い通路に何人分もの軍靴の足音が響くのだ。明かりを見るまでもなく自分たちの接近は相手に伝わるだろう。
何度か左右に曲がった先に自分たちのヘッドライトとは別の明かりが見えた。
「止まれ。ライト消灯」
前方の明かりは近づいてこない。どうやら狭い通路を抜けて広い場所に出る出口のようだ。
「隊長、後続がいません」
「むっ?」
確かに、アルファチームの三人が立ち止まった途端に靴音が止んだ。
何かトラブルか、と考えて無線に耳を澄ますがサーッというホワイトノイズが聞こえるだけだった。
「時間がない。先に進むぞ」
隊長を先頭に明かりを目指す。たどり着いた通路の出口から外の様子を観察する。
その先は広めの回廊になっていて、高い天井からはロウソクか何か吊り下げ式の照明がまばらに設置されている。ゆらゆらと揺れる薄暗い灯りはむしろ壁の影を濃くして潜伏に持ってこいの状況を作り出していた。
偵察をしていた隊員がハンドサインで敵影二名の発見を報告する。
隊長は突入して相手が攻撃態勢を向けるまえに銃撃で制圧する作戦を選択した。
メンバー二人がそれぞれ一人ずつを狙い、隊長がバックアップだ。
無言の合図で三人が回廊に突入する。
(遅い!)
戦闘モードに入っている隊員達の意識には、物音に振り向くローブ姿の人影の動きがスローモーションのようにはっきりととらえられた。
構えていたアサルトライフル型デバイスから三点バーストで発射、意外なほど軽い反動を利用して狙いを少しずつずらし、続けて二回引き金を引く。
麻痺術式を盛り込んだ弾丸が灰色のローブに迫る。一人当たり都合九発の弾幕が敵の体を打ち倒した。
が、次の瞬間、隊員は目を見開く。
倒れた灰色のローブの男たちがゆっくりと立ち上がる。はだけたローブの下には何もつけておらず肌が露出している。そこには魔法陣の刺青がびっしりと刻まれていた。
「なにっ、麻痺術式の無効化だと?規定違反じゃないか。こいつら、正規のレイドチームじゃないのか?」
麻痺術式を無効化したとはいえゴム弾の直撃を喰らってダメージがないはずはなかった。だが、なおも向かってくるローブの男たちはダメージを感じさせない動きで迫ってくる。
「ちっ、卑怯者めっ!」
規定違反はチートも同然だ。憤慨した隊員がローブの男にフルオートで弾丸を叩き込む。
再び跳ね飛ばされるように倒れるローブの男に、ざまを見ろとばかりに向けたニヤついた顔が、次の瞬間驚きに引きつった。
ローブの男がバネ仕掛けのように飛び起き、くねくねと不気味なカーブを描く刃を振りかざして走ってくる。そのスピードはアスリートのそれだった。
「ひぃっ」
再びフルオートで引き金を引くが、ローブの男は射線を読んで素早くステップを踏み、全弾を交わして隊員に肉薄した。
一瞬反応の遅れた隊員の胸部に短剣の切っ先が音もなく吸い込まれていく。
バロック・ドッグスの装着しているベストは防弾はもちろん防刃性能も一級のものだった。が、ローブの男たちが振りかざす短剣は苦も無く隊員の胸を貫いていく。
「げふっ」
隊員が苦悶の表情を浮かべて泡を吹いて昏倒する。
倒れた隊員の胸に傷跡はなく、引き抜かれた短剣にも血の跡がない。しかし、貫かれた隊員は明らかに重度のダメージを負っている。
最初の銃撃で麻痺術式が無効化されたのを見て、隊長はマガジンを換装し特殊弾を装填した。
隊長が肉薄するローブの男に特殊弾を叩き込む。今度は弾丸がローブ男の肉体に接触すると術式が発動し、男の全身を電撃が走る。雷撃の術式を組み込んだ弾丸である。強烈な電撃が全身の筋肉を硬直させ、ローブ男の意識を奪う。
残る隊員が別の角度から襲いかかってきたローブ男の短剣を辛うじて避け、返した銃床で敵の胸を突き飛ばす。すかさず突き転がされていたローブの男に近づいて直上から床に向けて三発撃ち込む。ローブ男は熱い焼き物にかけたカツオ節のようにくねくねと手足をばたつかせて動かなくなった。
「なんなんですか、こいつら。撃っても撃っても起き上がって、弱るどころかどんどん素早くなりませんでしたか?」
「下がれ!」
倒れていたローブ男が再びむくりと上半身を起こす。
すかさず隊長が男の額を打ち抜いた。
電撃がローブ男の頭蓋を這い回る。男は白目を剥き泡を吹いて気絶した。
「アルファ・スリーは置いていく。後続のチームに任せよう。マガジンを雷撃弾に交換しておけ」
「了解」
灰色のローブの男たちを後ろ手に拘束して念のためにもう一発ずつ雷撃弾を撃ち込む。
倒れた仲間の首に手を当てて即死ではないことを確認した隊長は、彼を上がってきた通路の出口に隠して残りの隊員と二人だけでさらに奥へと進んでいった。
Ep2-4 教会遺構〔つづく〕




