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Ep1-10 拉致

昇降口の人だかりにトラブルを予感した英太は桔花への返事を先延ばしにして帰宅することに。だが、行く手にはより大きな災難が待ち構えていた――

 昇降口でなんだか人だかりが出来ていたから、靴だけ持って校舎の非常口側から抜け出した。校舎の前庭から車寄せへと続く正面階段を迂回して教職員用駐車場につながるスロープから帰ることにする。

 住宅街を駅の方角に向かい、裏通りへ。飲食店に隣接する狭い路地を抜けて改札口のある目抜き通りに出る。少し遠回りだが人通りが少ないのでのんびり帰る気分のときにときどき使うルートだ。

「昼間の警告、何だったんだろう」

 初対面の人からの警告。

 検索結果から表示されなくなった一連のウェブサイト。

 携帯許可を得ているとは思えない特殊警棒を構える少女。

 明らかに日常から外れた何かが起きている。

「あの人だかり、きっと片梨さんがらみだよね」

 昨夜はそこに飛び込もうと決意したけれど、いざとなると日和見して避けてしまった。

 俺は本当に非日常に飛び込む覚悟が出来ているのだろうか?

 魔法のような現象があるということは魔物のような存在も居るのだろうか。命の危険は?

 あの夜の鳥のような形をした炎の塊が脳裏に浮かぶ。

 急に足下から冷気が立ち昇ってくる気がした。


 考えながら歩いていたせいで蹴とばした石が、狭い路地をふさぐようにしてしゃがみ込んでいたガラの悪い男たちの足に当たる。

「何だコルァ。痛てぇじゃねえか」

 やば。何でこんなところに不良が?なんか最近、俺の身の回りって治安悪くなってない?

 立ち上がった眉なしの男が英太の蹴とばした石ころをつかんで投げつけてくる。

「わっ、と」

 反射的にパシッとキャッチする。

 それが気に入らなかった様子で男の額に青筋が浮かぶ。

「なンだ、てめぇ。舐めてんのか?」

「え、いや、すみません」

 ほんと、たまたま偶然なんです。石を蹴ったのもキャッチしたのも……などと言い訳しても聞き入れられるはずもない。

「こっちゃあ、むしゃくしゃしてンだ。かねはあとでいいから一発殴らせろや」

 えー、殴ったあとでお金も盗るのー。

 余裕ぶっているけれど内心はびくびく、心臓はバクバクだ。

「オラァ」

 眉なしの男が殴りかかってくる。

 ボコボコにされる!

「ひっ」

 バシッ

 あれ?痛くない。

 うっすらと目を開けると、切れ長の鋭い目つきの男が不良の拳を素手で受け止めていた。


 反対の手で透明なプレート越しに俺を覗き込み、モールド部分の緑のLED表示を見てニヤリと笑う。人懐っこい、少年っぽさの残る笑みだった。

「ビンゴだな」

「なンだてめェ」

「わりィな。こいつに用があんだ」

「あ゛あ゛?あとからしゃしゃり出てきてトボけたこと言ってんじゃねぇ!」

「てめェこそシロウトに手ェ上げてんじゃねえよ。ダッセェな」

 不良に向ける視線は険しく、短めのウルフカットを軽く逆立てた髪で威圧するよう睨みつける。

「こっちは先に手ェ出されてンだ。シロウトなんて言い訳が利くか、あ゛あ゛?」

「石コロひとつでぎゃーぎゃー騒ぐなって。小学生かてめェは」

「ンだとこの野郎ォ。順番にシメてやンから、すっこんでろ!」

「おめぇ、どこの高校だ?」

「ヒーロー気取ってんじゃねぇぞ、ゴルァ」

 いつの間にか、かばってくれた男にターゲットが変わって不良連中が集まっていく。

「いまどき流行はやんねぇ鎖なんかつけてよォ。ワンコかおまえは」

 男がベルトに付けた太いチェーンを揶揄する。

「質問は一人ずつにしてくれや。こっちは聖徳太子じゃねンだからよォ」

「あ゛あ゛?」

 ペッと唾を吐いて一人が殴りかかる。

千手せんじゅ工業高校だよ。地元じゃねぇから知らねーかもだけどよォ」

 ガシッと固い音がして殴りかかった不良がくたりと崩れ落ちる。

「やりやがったなぁッ!」

「ヒーローは好きだぜ?でも堅ッ苦しいのは苦手だなァッ!」

 ゴキッ。どさっ。

「オラァッ」

コレはオレのいましめなんだ。流行りは関係ェねぇ!」

 ぐはっ。

「こ、こいつもしかして狂犬ケイタじゃ」

「よせやい、そんなハズイ呼び名は中坊で卒業したよ」

「ヒィィ」

「わかったンなら、こいつは連れて行かせてもらうぜ。遊びたくなったらいつでもガッコに来な。相手してやンからヨ」

 窮地を救ってくれた男が俺の肩に腕を回してそのまま路地を進んでいく。


「あのう、助けてくれてありがとうございます。それじゃあ、俺はこのへんで……」

「つれねぇなぁ。ちょっとは付き合ってくれてもいいじゃねぇか」

 う、なんか嫌な予感。

 片耳にシルバーのリングピアス。太いチェーン付きのベルト。黒のマーチン風レースアップブーツ。そして臙脂色えんじいろの裏地の改造学ラン。この人も絶対堅気じゃないっす。

 一段低い声で男が囁く。

「おまえ、最近ヘンな石を手に入れなかったか?」

「ぎく、何のことかな……あはは」

一昨日おとといの午前三時、新宿西口」

「なぜそれを」

 しまった。

「あーあ。見ちゃって、拾っちゃって、持って帰っちゃったわけだ。ちょっとこい。話がある」

「え、ちょ、ちょっと待っ――」

 いつの間にか近くに止まっていた白い商用バンのドアがスライドし、中に押し込まれる。

 運転席にはひょろっとした背の高い男性がいて、安心させるように明るい口調で話しかけてくる。

「はぁあい。こんちわ、驚かせてごめんねー。ウチの聞かん坊が迷惑かけるねー。ちょっと話が聞きたくてウチに来てもらうよー」

 明るく装っても事実は変わらない。これは拉致だ。

 いつの間にか車は走り出していた。

 俺、どうなっちゃうの?


自身を取り巻く急転回になすすべもなく流されていく英太の運命は――

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