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あしをかえして

 愛しているから、足を奪った。

 愛しているから、そのにらみつけるまなざしを。

 愛しているから、そのオパールのようなにじの瞳を。


 愛しているんだ、その涙も出せないそれは冷ややかな表情を。

 愛しているんだ、その足を失ってどこにも行けない哀れな君を。

 ……愛しているんだ、こんな僕をそれでも愛してくれる君を誰より……


「――ヤンデレごっこはいいかげんにして、返していただけません? 私の足」

「えーえ、もうおしまい? せっかく気分が盛り上がってきたとこなのに、」

「たいがいにしねえと自由な腕でしがみついてのど元にかぶりつくぞこの変態」


 本当にやりかねない目でにらまれて、ぼくはしぶしぶ彼女の両足を運んできた。黒いスカートをたくしあげて、最上級のボルトとナットでちょこちょこと……、


「はいいっちょあがり! いやー、やっぱぼくは腕が良いねえ! さすが天才ロボット工学者」

「自分で自分のことを声高に『天才』とか言い散らすやつに天才のいたためしがねえ」

「おーん、相変わらず口が悪いねえ! ぼく泣いちゃうよ?」

「泣くふりすんな、可愛くねえぞ」

「……君ってば、つくづく()()()()()キャラだねえ。ま、そうプログラミングしたのはぼくだけど!」


 からから笑うぼくを見て、虹のきらめくオパールの瞳がありありと『この馬鹿』と語っている。そのほおにそっと手を触れると、ぼくの造った美少女の姿のロボットは急に無口になってしまった。


「悪いとは思ってるよ、ちょくちょく君の足を外して『ヤンデレごっこ』するような変態工学者で……でもさ、」


 ぼくはちゅっと彼女の人工皮膚のほおにキスして、黒髪のボブを優しくぜる。猫の子を撫ぜるように指をすべらし、オパールの瞳をまっすぐに見てささやきかける。


「――そういうぼくが、好きなんでしょ?」

「…………そうプログラミングしたのは、あなたでしょう」


 白い皮膚にぽうっと人工血液リキッドの色をのぼせて、彼女はそっと目線をそらしてつぶやいた。かけも素直じゃないところも、何ともどうにも愛おしい。


「……あなたもたいがい物好きですね。結ばれても子孫を残せる可能性ゼロの、こんな機械人形を……」

「ははは、大丈夫! ぼくは天才工学者だからね、人間と機械でも子どもを授かれるように、天才的頭脳でただいま絶賛研究中さ!!」

「――……ええかげんにせえ、このド変態――っっ!!」


 顔を真っ赤にした彼女が、本気の本気でぼくの横面にパンチをくらわし、ぼくの歯を二三本へし折った。あ、快感……愛されてるなあ、ぼく。


 へらへら笑いながら口から血を出してしゃがみ込むぼくを、彼女はさんざ毒づきながらも親身に介抱してくれる。『割れ鍋にぶた』とかいう海の向こうの国の言葉が、ふっと脳裏に浮かんだけれど……意味を教えると殺されそうで、ぼくはへらへら笑いながら、こっそり言葉を吞み込んだ。


「……君は、嬉しい? ぼくとの子どもが産めそうなこと」


 彼女がぐっと黙り込んで、きゅっとくちびるを噛みしめる。虹色の瞳にぼくを映してこっそりう彼女のことが、『壊したいくらい』愛おしかった。


(了)

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