表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/57

墜ちる

 このごろ天使のあいだでは『墜落』がっているらしい。


 彼らは白く群れを成して、天からまっすぐにちてくる。初めは雲と区別がつかず、やがて青空に浮かぶちっぽけな白い点々になり、雪の矢のようにひょうひょうと羽音を立てて墜ちて墜ちて墜ちてきて、地面に激突する寸前に――、


 ひゅ、っと音立てて旋回し、まっすぐに天に帰っていくのだ。


「ありゃあ危ない」

「いや、あんまりに冒涜的だ。神様もいずれお怒りになるに違いない」

「でもさ、見てると綺麗だよな! 音楽なしのショートフィルムみたいでさ!」

「いやいや、やっぱり危ないって! 俺ら人間と衝突したらどうする気だよ!!」


 地上の人々はさまざまなことを言いながら、頭のどこかで誰もが『墜落』を楽しみにしていた。綺麗だったのだ、それは確かに。


 ある日、また『墜落』が始まった。初めは雲と区別がつかず、やがて青空にぽつぽつと白い点々になり、ひょうひょうと羽音を立てて雪の矢のように墜ちて墜ちて墜ちて墜ちて――羽が一気に溶け落ちた。白い綿のように一瞬光って消え去った。


 地面にぶつかる!!

 地上の誰もがそう思った刹那、天使のひたいに角が生え、黒いコウモリの羽が生じた。赤いくちびるに切れ長の目、妖しくも美しく変じた生き物たちは、地を突き抜けて消えていき……二度とは戻って来なかった。


「言わんこっちゃない。神様の罰が当たったんだ」


 人々は口々にそう言った。言いながらそのほおは紅潮し、そわそわと地面を盗み見ていた。


 ――綺麗だったのだ、今までで一番。目にした人間の誰もかれもが『もう一度見たい』と思っていたのだ。


 けれどもそれっきりもう二度と、天使は墜ちては来なかった。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ