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ごめんね眠り姫

 眠り姫は、まだ目覚めない。


 世界は滅びた。ぼくが滅ぼした。今この『地球』にひとの形で生きているのは、ぼくと眠り姫だけだ。


 ぼくはこの銀河系に、いの一番に生まれ出た。光が欲しいと思うと、月や太陽や星が生まれた。もっと気のきいた星が欲しいなと思うと、この『地球』が生まれ出た。


 何か青いものが欲しいなと思えば水が生まれ、海が生まれ、緑のものも欲しいなあとちょっと思うと、植物がにょきにょき生えてきた。動くやつもいたらなあと思うと動物が土から湧き出てきて、言葉を話す、ぼくと同じような姿のもんも欲しいなあと思ったら、人間がぞろぞろ生まれてきた。


 でも、人間を創ったのは失敗だった。人間は姿こそぼくと似ていたけれど、ぼくのことが全然見えないみたいだった。彼らは勝手気ままに『神』のイメージをつくりあげ、「自分らの信じる神とは違う」と言い合って、宗教戦争ばかり起こした。


 そのうち宗教も何だかどうでもよくなったみたいで、いろんなそれらしい理由をつけては、勝手気ままに殺し合った。


 ぼくは何だかあほらしくなった。ぼくが神だか知らないが、こいつらぼくのことなんかちっとも考えちゃいないじゃないか!


 そんなある日、この星のかたすみにひとつの命が生まれ出た。ぼくはその子に目を奪われた。綺麗できれいでしかたなかった。ふわふわロングの金髪に、宝石みたいな青い瞳、透けるほど白い肌はもちろんだけど……その心! まるでこの子こそ神様みたいだ、ひとっかけらのきたないところも持っちゃいない!


 ぼくはその子に恋をした。その子にだけはぼくが見えた。ぼくたちはいろんな話をした。リスのこと、お魚のこと、リンゴのことやザクロのことを。ぼくはしまいに贈り物をしたくなって、その子にキスをしてこう言った。


『ねえ、ぼくはね、君のためにこんな世界を滅ぼすよ。こんな出来損ないの人間ども、生かしてたってしょうがない。ぼくは創った責任とって、いっぺん人間を滅ぼして、それから君をぼくとおんなじ神様にして、お嫁さんにしてずっと暮らすよ』


 言うなりぼくは返事もきかずに、人間をひとり残らず消した。よぼよぼのおじいちゃんも、胸をはだけたファッションの若いお姉さんも、生まれたばかりのふにゃふにゃ泣いてる赤ちゃんも、みんながみんないなくなった。


 目の前には、ひとりだけ生き残った女の子。ばんざいして喜んでくれると思ったその子は、青い目からぼろぼろと大粒の涙をこぼした。泣いて泣いて泣き続けて、ようやく泣きやんだと思ったら、ぱたりと倒れて眠り出した。


 ぼくがどれだけ名前を呼んでも、どれだけ激しくゆすぶっても、『お前も滅ぼすぞ』と神様らしくおどしてみてもダメだった。愛しい少女は眠り続けた。青い目を閉じて、眠ってねむって眠り続けた。


 ぼくが、いけなかったんだろうか。どれだけ出来が悪くても、自分たちであれだけ殺し合っていても、創り主として人間を愛して、やり直すチャンスを与えてあげなきゃいけなかったんだろうか。


 ……でも、ぼくはずいぶん待ったんだ。ずっとずっと待っていて、もういいかげん嫌になってしまったんだ。人間をいちど終わらせて、けちょんけちょんによごされてしまったこの星を、もういっぺんこの子と綺麗にしたかったんだ。


 分からない、ぼくには分からない。

 銀河をべるぼくみたいな神様がいて、宇宙を統べるもっと偉い神様がいて、その上にもそのうえにも、ずっとずうっと神様がいっぱいいらしたら……、


 何が、だれが、悪いんだろう。どうしてこうなっちゃったんだろう。


『……ねえ、神様になった君なら分かる? 目覚めてよ、もうゆるしてよ、ねえ、ぼくの眠り姫……』


 ぼくは彼女のために創ったひつぎ型のベッドのシーツをきつくつかんで、たまりかねて泣き出した。


 お日様の光はあたたかく、小鳥は愛の歌をうたい、風はそよいでぼくらのほおをでてゆく。


 人間はいない、ひとりもいない。神様になった少女の口もとは、のひとつも浮かべない。


 ――眠り姫は、まだ目覚めない。


(了)

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