人妻の『ベッドのお相手』は、七大天使の名をつけられた愛玩奴隷
「おいで、ミカエル……もっとこっちにおいで、愛しいミカエル……」
バビロンという名の貴婦人は、絹のシーツのベッドから愛玩奴隷の名を呼んだ。ミカエルと呼ばれた、金色の長髪に青い瞳の青年奴隷は、うやうやしげに女主人の手をとって、白い手の甲に口づけた。
「奥様、月曜日の今夜は、このわたくしが『閨のお相手』を務めさせていただきます……」
「いやだわ、ミカエル! 主人は戦争で留守なんだし、今夜はあなたがこの屋敷の主人なのよ。もっと横暴にふるまってかまわなくてよ!」
とんでもない、とあくまで丁重にミカエルは首すじにキスをして、遠慮がちに、かつ熱を帯びたしぐさで貴婦人をベッドへ押し倒す。愛玩奴隷の文化はこの国ではなお健在だ、ましてや戦地にいる夫は、ベッドでは『男として役に立たない』、何をはばかることもない。
甘く熱い一夜を過ごし、バビロンは遅い朝食をとり、昼は食べず、軽く午後のお茶でスコーンとダージリンをたしなみ、官能小説を読んでから少し寝て、夕食の後にシャワーを浴び、またしても愛玩奴隷を呼びつけた。
「いらっしゃい、ラファエル……今日は火曜日、あなたが相手よ……」
「望むところだ、奥さん、今夜は寝かさねえぜ? しかし俺の相手は週一度、火曜日の夜だけってのは解せねえなあ。一週間ぜんぶ俺とだけ付き合っちゃあくれねえか?」
「それがそうもいかないのよねえ……なんせわたくしの愛玩奴隷は『七人』もいるんですからねえ……!」
「ちぇっ、まあ良いや! 一晩じっくり楽しもうぜ、奥さんよお!」
ラファエルは燃え立つような赤毛を揺らし、新緑色の瞳に笑みを含ませて、乱暴なしぐさで『奥さん』をベッドへ押し倒す。ミカエルとは違う粗暴な愛撫に身をまかせ、バビロンは一睡もせずに夜を明かした。
* * *
こうしてまるまる一週間、月曜はミカエル、火曜はラファエル……順にガブリエル・ウリエル・アリエル・アズライル・カマエルと、『七大天使』の名をつけた愛玩奴隷たちと、貴婦人は夜を楽しんだ。
奴隷たちは誰ひとり、他の誰にも似ていない。髪の色、瞳の色、貴婦人へ向けるまなざし、態度、抱きしめ方に愛し方……バビロンは『七人分』の愛撫を受け、それぞれのやり方で愛されて、ますます美しくなっていく。
夫が戦死でもしてくれれば。そう思いながら、バビロンと言う名の貴婦人は毒花のように婀娜に咲き誇ってゆく。
……次の月曜、貴婦人はふっと思い立ち、地下倉庫へと『七人』の愛玩奴隷たちの顔を見に行った。
倉庫のすみには七人分の生首が、綺麗な顔立ちで一列に並べられていた。ミカエル、ラファエル、ガブリエル……首から下のない顔たちは、ひたすら静かに目を閉じている。
「さあて、今夜は月曜、ミカエルの首と楽しもうかしら……良い時代になったものね! 機体はひとつでも、首さえあれば七通りの男と夜を楽しめるんですもの!」
未来世界の妖婦はからからと笑いを放ち、『愛玩奴隷』ロボットたちに端から順に口づけをする。目を閉じたまま、七つの生首は今は限りなく清らに見えた。
(了)