単身赴任
「パパー! 見える? 画面映ってるー?」
「ああ、見えるよ! お前の可愛い顔が……となりに映る美人は誰かな?」
「もう、あなたったら! こっちの画面にはハンサムな殿方が映っていてよ……あなた、そちらの生活には慣れました?」
「慣れた……と言いたいとこだがね、正直ひどい場所だよ、ここは! 暑いところは無駄に暑いし、寒いところは極限まで寒いんだ! 食べ物もあまり良くないね、死者の生肉に血のワインときたもんだ! 君の手料理が恋しいよ!」
「まあ、あなたったら……もう少しのしんぼうよ、人手が足りなくてそちらに派遣されたけど、もうじき任期が終わってこちらに帰ってこれたら、めいっぱい手料理をごちそうしてあげますからね!」
「それにねー、今のお仕事してるパパも、何かめっちゃくちゃカッコいいよ!」
「はは、そう言ってくれると嬉しいけどね、何かちょっとフクザツだなあ……単身赴任はツラいねえ……!」
そうこぼして一時的に地獄で務めている『カッコいいパパ』は、はああと大きくため息した。
「がんばって、ルシファー……」
「そうだよ、パパー! パパがんばれー!! おっきなツノにこうもりの真っ黒い羽根いっぱいのパパ、カッコいいー!!」
「ははは、そうだね、がんばるよミカエル……はぁああーーっ」
水晶のスクリーン越しにはげましてくれる天使の妻子に、魔王の父は笑った後で深くふかーく息をつく。ああもう……『最後の審判』が待ち遠しい……!!
魔王は任期を終えて天界に戻り、愛しい妻子と再会するのを、心から願いつつ血のワインをぐいっとあおる。鉄のにおいに絵に描いたようにむせっかえり、「ああぁあ神酒が飲みたいよー!」と今度はほんとに泣き出した。
窓の外、地獄の火山が笑うようにぼんぼんと激しく火を噴いて、そのすぐそばで氷の山が白い冷気を放っていた。
(了)