はじまり
「やあ、なんとも素晴らしい夜ですな! 今夜この時から、銀河を越えた『星と星との友好関係』が始まるというわけですな!」
『いや、まったく! 我らの星と、あなたがたの星との距離がとんでもなく遠いからこそ……遠いがゆえの友情ですな!』
「まさにそう……あなたがたの星は遠く銀河の外にある、科学の進歩で星間通信は可能だが、ロケットを飛ばして侵略に行くのは馬鹿げている! あまりにコストがかかりすぎるから! ゆえにお互いの星の侵略はありえない!」
『いやいや、まったく! 距離が遠いがゆえの友情、遠いがゆえの友好関係! 互いに互いの科学技術や文化を、この『鏡型プロジェクター』で互いの言語を瞬時に翻訳し、伝え合い高め合っていきましょう!』
「それでは、乾杯!」
『かんぱーい!!』
大きな鏡型プロジェクターの向こうとこっちで、各国の首脳が勢ぞろいして酒のグラスをいっせいにかかげ、全員が笑顔で美酒を飲みほした。
* * *
「やっぱり、一生逢えないのね、わたしたち……」
『ああ。……今夜この時、お偉方が酒の入ったグラスを手に、笑顔で断定してるんだよ。星と星とは決して行き来は出来ないが、互いに仲良くしましょうねって』
「じゃあ、やっぱりもう望みはないのね?」
『ああ。ぼくと君とは、決して逢えはしないんだ。同じ空気を吸うこともない、一生キスすら交わせはしない』
「それじゃあ……乾杯……」
『ああ……生まれ変わって、今度こそ同じ星のもと、結ばれようね……』
地球のかたすみと、遠く銀河の外にある星のかたすみ。遠く離れた、手もつなげない恋人たちは……小さな鏡型プロジェクターの向こうとこちらで、グラスの毒酒を飲みほした。それぞれに赤い血と青い血を吐き、はたりと倒れ込むふたりの近くにある窓から、月の光がさしていた。
ちかちかしきりに星のまたたく、それは美しい夜だった。この夜こそが、銀河を越えた『星と星との友情』と、忌まわしい『星間心中』文化の始まりだった。
地球の月はひとつ満月、遠い星の月は三日月と十六夜月のふたつ……無数の星をしたがえて、白い光をこぼしている……。
(了)