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積み立てられた孤独

作者: 事務屋青龍

 執筆にあたり生成AIを使用しました。

 第一章 静かな終焉


 近未来の日本。80代の男性が病院で静かに息を引き取った。彼を看取ったのは医師と看護師のみであり、家族や親族は誰一人として臨終の場に立ち会わなかった。


 Aさんと呼ばれるその男性は、安アパートで一人暮らしをしていた。質素な生活を送り、食事は魚や野菜中心。酒もタバコも(たしな)まず、日課は散歩と新聞を読むこと。家賃は毎月きちんと払い、公共料金や税金の滞納も一切なく、周囲に迷惑をかけることもなかった。


 しかし、彼には家族がいなかった。結婚の際、両家の猛反対を受け、親族と絶縁。長らく子供を授かることはなく、ようやく懐妊した妻も、産まれることのなかった子供とともに病死した。その後、彼は再婚せず、亡き妻と暮らしたアパートを(つい)棲家(すみか)とした。


 第二章 遺されたもの


 Aさんの葬儀には、町内会長やアパートの大家、住人らが参列するに留まった。彼の相続財産管理人に指名されたのは、大家の紹介による弁護士Bだった。


 Bは遺品を整理しながら、Aさんが本当に質素な暮らしを続けていたことを確認する。しかし、彼の通帳を見た瞬間、驚愕する。


 年金の振り込み記録とともに、毎月決まった額が証券会社の口座に送金されていたのだ。不審に思い、証券口座を調査すると、そこには二億円相当の投資信託が積み立てられていた。Aさんは亡くなる直前まで資産を積み増していたが、ほとんど取り崩した形跡がない。


 二億円あれば、毎年3%を取り崩すだけで600万円(税引前)の収入が得られる。年金と合わせれば、余裕のある老後を過ごすことができたはずだ。しかし、Aさんは一切資産に手を付けなかった。


 第三章 投資と恐怖


 Bは考える。Aさんはおそらく、老後の貧困を恐れて積立投資を始めたのだろう。しかし、家族との絶縁、妻の死といった悲劇を経験するうちに、資産を増やすこと自体が目的になったのではないか。資産が減ることへの恐怖が、消費を許さなかったのではないか。


 Aさんは、それで本当に幸せだったのか。Bにはわからなかった。


 第四章 金が呼ぶ争い


 Bの混乱は、さらなる騒動によって加速する。Aさんの財産が二億円と判明すると、絶縁していた親族たちが突如として相続権を主張し始めたのだ。


 かつて彼を捨てた兄弟姉妹、その子供たち。さらには亡き妻の親族までが現れ、それぞれが「自分こそが最も正当な相続人だ」と主張した。


 そこに加えて、「Aさんの隠し妻」と称する女性たちが次々に名乗りを上げ、自分たちにも権利があると訴えた。相続争いは次第にエスカレートし、ついには暴力沙汰にまで発展する。


 親族たちは互いに責任を押し付け合い始めた。


「実はAの結婚に賛成だったんだ。でも、みんなが反対するから仕方なく……」

「俺だって、親に言われたから従っただけだ!」

「そもそも、あの時もっと強く言っていれば……」


 そんな中、Aさんの甥の一人が声を上げた。


「Aおじさんを追い出したくせに、お金を持ってるとわかったら、手のひらを返して親戚(づら)するの? みっともないよ」


 親族たちは一瞬沈黙したが、次の瞬間、彼に集中砲火を浴びせた。


「何を知った風な口を!」

「生意気言うな!」

「お前にわかるわけがない!」


 家族というものが何だったのか、Bにはもはや理解できなかった。


 第五章 遺された問い


 Bは思う。Aさんはこのような事態を望んでいたのか。お金は、適切に使ってこそ意味を持つのではないか。


 Aさんは、資産を蓄え続けることで安心を得たのかもしれない。しかし、その財産は彼の死後、争いの火種と化した。


「本当に大切なものは何だったのか?」


 Bは、Aさんの通帳を見つめながら、答えの出ない問いを繰り返した。


(了)

【参考資料】

カン・チュンド『100年生きても大丈夫! つみたて投資の終わり方:人生後半に向けた投資信託の取り崩しメソッドを解説!』電子書籍

ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』ダイヤモンド社

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