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23.選べない2択

 頭の上に広がる青黒い空を見上げて、マリは思考と感情の整理がつかないまま途方に暮れていた。

 2人の仇をとりたい。一緒に育った大事な友人を殺された恨みを相手に向けて一矢報いることができるだろうか。ジェーンとボムが短時間で殺した相手を、1人で対峙して勝てるとは思えない。何もできないまま殺されるだろう。

 生きるためには廃ビルから離れ、“蒼月”から逃げ続ける道もある。任務を放棄した存在を組織は容赦しない。必ず処分を行うために誰かを派遣してくるだろう。

 それでも生きるための道を選びたい。

 マリは廃ビルの屋上から移動しようと試みる。強化された体なら、隣のビルに飛び移ることも飛び降りることも容易。

 しかし、足を踏み出すことができないまま立ち尽くした。

 死んだ2人のことを引き摺っているのだろうか。マリには自分が動けない理由がわからない。屋上に自分を殺しに来た存在が来たことを察しても、動くことができない。


「逃げないんですか」


 この問いかけになんて答えるべきか。


「ここで逃げても“蒼月”に追われて、ここにいてもあなたに殺されると。だったら一矢報いるのも悪くない」


 いつの間にかマリは、自分の今後の方針を固めて喋り出していた。つい先程まで思考が絡まって方針が決まらず立ち尽くしていたはずだった。

 ガイアは左手で口元を隠した。彼にとって彼女の行動や発言がおかしくて、笑いそうになってしまう。彼女は大真面目に発言しているから、大笑いすると失礼だろう。

 銃を手に取り構えるマリを見て、ガイアは耐えられなくなり堪えていた笑みが漏れた。

 敵から馬鹿にされたと感じた、彼女は大きな声で怒鳴りつける。


「一体何がおかしい!!」

「“蒼月”がどういう命令をしたのか。私にはわかりませんが、おそらく3人共ここから離れられなかったと思いますよ」


 言葉の意味がわからなかったが、銃を下ろすことなく構え続ける。


「どういう設定が組まれているのか知りませんし、どうでもいいですけど。“蒼月”からの命令に逆らったことはありますか」


 実験体にされてから“蒼月”への恐怖に支配されていた。そのため、逃げ出したいと話すことすらしてこなかった。同じように実験体にされた3人が常にともに行動していたら、誰かが脱出計画を試みようと提案してきても不思議ではない。


「生まれた場所を正確に言えますか。幼少期に語り合った笑い話が何か1つでも出てきますか」


 何を言っているのか。マリはそっと銃を下ろす。自分の頭が考えることを放棄しようとしている。


「その思考と感情が自分のオリジナルであると、確信がありますか」


 震える声でマリは言う。


「まさか、私...いや、私達は...自動人形だというの?」


 “蒼月”と“そうめん同窓会”は、人間とほとんど差異のない自動人形を作る技術を有している。魔術に精通する者や勘が非常に鋭い者は、おかしいと気がつく程度の差しかない。

 魔術の勉強し、実際にある程度の魔術が扱えるガイアはすぐに彼らの正体に気がついた。

 自分たちが人間ではないことを知らされていなかった理由を、ガイアは推測する。いくつか候補が出てきたが、答えてやる必要性を感じず何も言わなかった。

 ガイアにとって、彼女が人間ではなかったことを知ったとき、どういう行動を起こすのかに興味があった。


「“蒼月”の望み通りになんかなってやるもんか!!」


 敵の言葉を信じれるくらいには心当たりがあった彼女がとった行動は、飛び下り自殺だった。

 廃ビルから体を投げ出し落下する。地面に叩きつけられた鈍い音が響く。

 任務を投げ出せず、この場にいても殺されるくらいなら、死に方やタイミングは選び取りたいということだろう。2つの選択肢の狭間に立たされたときに、自殺を選ぶことはおそらく“蒼月”の予想の範囲。同時に“蒼月”にとっては失敗作。

 ため息をつき、ガイアは来た道を引き返し主人のもとに戻る。道中で遺体を見せないようにどうやって廃ビルを出るかを考える。

 ユノとレナはガイアの言うことに従って同じ場所で待機していた。

 もしも移動して遺体を見てしまったら、平和な日常を過ごしている2人にとって耐え難いストレスを与えてしまう。ガイアは血まみれの右手を隠しながら、2人の無事を見てホッとした。

 しかし、安堵はすぐに消されてしまう。


「ガイアさん、無事だったんですね!!」


 友人のレナがガイアに真っ先に反応する。このセリフでユノもガイアが戻ってきたことを認識した。

 ユノとガイアは目が合う。このとき、ガイアは悪い予感が過った。

 彼女の顔が気が抜けて泣いていた顔ではなかった。目を開きどこか確信のようなものを持った目で、しっかりと見つめてくる。


「無事だったのね。良かった」


 しばらく間があった後、ユノは強い口調で言う。


「ねぇ、ガイア。あの3人はどうなったの?」


 この先のセリフを言わせてはいけない。


「まさか、殺し……」


 とっさに左手を前に出して、2人に魔術をかけて寝かせてしまった。不法侵入者が来たときのように札を使えば消費魔力を抑えられたのだが、急なことで頭が回らなかった。

 自分の主人がただの素直な女の子ではなかったことに感心する。一方でいつまでもユノの置かれた現状を隠し通せないと確信する。

 自分が小説に出てくるような魔法使いになれると知ったとき、ユノは何を選び取るのだろうか。出来ることなら普通で平和な日常を送る道を選んでほしい。

 考えてもすぐに何か変わるわけではない。今考えなければいけないことは1つ。

 3人の遺体や叩き壊されたコンクリートの処理に頭を悩ませることになった。

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