20.帰ってこないご主人
学校帰りに寄り道をして帰宅が遅くなり、保護者に怒られるという経験を多くの者がしたことがあるだろう。
ユノも同じ経験を中学時代にしたことがあり、ガイアから1時間ほどの説教をされたことがある。それ以降、携帯電話で寄り道をする時は連絡をするようになった。
今日は教室で寝てしまって学校を出る時間が遅くなったことは、メールで連絡があった。
連絡があってから1時間半が経過したが、一向に帰ってこないユノを心配してガイアは電話をかけるが、繋がらずメールの返事も来ない。いつもは電話に出れなくてもメールで返事をくれる。携帯電話のバイブレーションを切ることは授業中以外はしていないため、気が付かないことは稀である。
心配して気持ちが落ち着かないガイアは、キッチンをウロウロして意味もなく冷蔵庫を開けてみる。そして3度目の電話をすることを決める。
呼び出し音が鳴るだけで、電話に出てくれない。
ユノの制服にかけている魔法は、物理的ストレスの中でも暴力を振るわれた場合に守護をする役割を持っている。発動すると、発動した地点にガイアがワープできるような仕組みになっている。
発動する要素がない場合、彼女の居場所が把握することができないと言い換える事ができる。
魔術が発動しない状態で、ユノの居場所を把握できるだろう人物に渋々電話をする。
電話を切られてしまったが、1分もしないで折り返しの電話がかかってきた。
「おい、会議中だったんだが何かあったか」
声のトーンが少し不機嫌そうなヨルだが、気にすることなく用件を言う。
「主が帰ってこないのです。電話やメールの返事がなく……」
「少し待ってろ、かけ直す」
非常に短い用件だったが、彼らにはそれで十分だった。
ガイアはヨルを嫌っている。
一方的で信頼はされていないが信用はしている。実際にヨルは必要最低限の会話だけで、今の状況を把握して必要な行動を起こしてくれる。
会議室を出て廊下のベンチに座り込み、スマートフォンを操作する。
制服のスカートとブレザーに小型GPSを仕込んでいる。組織が開発したGPSの中では型落ちモデルを使っている。処分予定の型落ちモデルをヨルが貰い受け、個人的に改良しスマートフォンと連動させている。
制服を脱がされていなければ、居場所を把握できるはずだ。
画面に映し出された地図と丸い点を見る。丸い点が速い速度で移動していた。電車の線路上ではないため、おそらく車で移動している。
「魔術反応を起こさず車に連れ込む...出来なくはないか」
口元に手を当てながら独り言を言う。
ガイアにも知らせようと思い、メールを送る。返事は来ない。居場所や状況を知ればすぐにでも行動を起こすだろう。
彼が戦闘になった際にどれくらい立ち回れるのか、ヨルは知らない。分かっていることはそれなりに強いだろうということくらいだ。
しかし、彼は組織のメンバーではなくただの一般人。何か大きな問題を起こした場合、処理を自分自身で行わなければならない。負けることはなくても、事後処理はどうするつもりだろう。
ヨルは自分のスマートフォンの電話帳を眺め、ため息をついた。