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17.女王の蛇 司令官代理

 魔術に精通した団体はこの世界にいくつか存在する。その中で注意すべき組織は4つ。

 名前のない“名もなき組織”は科学を使って魔力を制御することに精通している。また、いくつかの会社を所有しており、利益の一部が組織の予算として流れていく。いろいろなコネがあるため、行動力が非常に高い。科学者が多くいる反面、魔術師がほとんどいないことも特徴的だ。

 好戦的な魔術師が多く所属する“蒼月”は、強い者がすべてという思想を持つ。ときには一般人を相手にした事件を起こすことがあり、“名もなき組織”とは基本的に敵対関係になっている。一人ひとりが戦力として非常に優秀で何かしらの得意分野があることが多い。

 普段は宗教として機能している“天使の教会”は一般信者が多く所属している。魔術師を集めるようなことはしていないらしいが、幹部になると天使の羽根を持っていると言われている。また、最強の魔力を持つ女王(クイーン)を「神殺し」と称し、見つけたら殺すように指示しているらしい。

 そして最後、“女王の蛇”は女王(クイーン)を絶対の存在としている。女王を探し出し、御使いすることを目的にしている。女王(クイーン)と名称される存在は女性であることが多いため、女性の魔術師が多く所属している。強力な魔法でできた空間に拠点があると言われており、場所が不明とされている。

 不明とされている場所にヨルは足を踏み入れていた。

 “名もなき組織”と“女王の蛇”は目的次第で協力関係を築くことがあり、ヨルが唯一部外者で“女王の蛇”拠点を知っている人物だった。

 手ぶらで暗く風の冷たい空間を歩く。暗い空間に洋風な建物がぽつりぽつりを建ち並ぶ。彼はここを陰湿な場所だと思っている。魔法で好きな空間を作れただろうに、何故このような暗い場所にしたのか。

 先に進んで見えてきたヨーロッパ風の城と跳ね橋。この跳ね橋を下ろしてもらい、城門を開けてもらう必要がある。城門に出張っている出窓を見上げ、門番に挨拶をする。


「すみません、ここの司令官(コマンダー)に用があるんですが」

「アポのない者を通すなという命令だ。出直して来ていただこう」


 想定通りの反応だった。

 ヨルは跳ね橋を一瞥し、引き返し始める。

 跳ね橋の幅はおおよそ3メートル。長さはその倍の6メートル程度だろう。一般人が飛び越えることができる距離ではない。

 引き返していた足を止め、跳ね橋へ向きを戻し距離を測る。門番は引き返したところをみた時点で警戒を解いているようだった。

 軽く背伸びをしたあと、全力で跳ね橋へ向かって走り出す。魔力で体を強化できる存在にとっては、この程度を乗り越えることは造作もない。

 まるで空気抵抗を受けないかのように平然と宙に舞う。ヨルが向かった先は、門番がいる出窓だった。

 まさか、飛んできてガラスを蹴り破って侵入するとは思ってもいなかったようで、門番の女性は腰を抜かして床に座り込んでいる。

 表情を1つも変えずにガラスを手で払うヨルを見て、平常心に戻ったらしく部屋に備え付けられていた槍を握って構える。槍をヨルの喉にしっかり向けたが、彼にはあまり威嚇にはならなかった。


「新人か?」


 そう言ってヨルは首を傾げてみせる。


「こういうところに来るやつは普通じゃないんだ。姿が見えなくなった後もしばらくは警戒を怠るな」


 なんで侵入者に説教されているのかと言われている側は思う。


「あ、あと司令官に会いたいんだが、いるか?いないなら出直してくる」

「出直してくるぐらいなら窓ガラスを割るな!!」


 思ったことがそのまま素直に口から出てきた。この窓ガラスを修復してくれるのだろうか。頭の片隅で考えながら、彼女は自身の役目を果たすために、大きな声で答える。


「言っておくが私が死のうとも騎士団の連中が必ず......」

「はいはい、もういいわよ。槍を下ろしなさい」


 部屋に入室した第3者の声で、門番は槍を下ろし声の主に敬礼をする。

 黒いマーメイドドレスを着た女性が部屋の入口に立っている。腰まで伸びた長い髪を靡かせて門番に近づくと、口元に手を当てて微笑んだ。


「申し訳ありません、侵入を許してしまい......」

「構わないわ、私はこの男と客間に行くわ」

「え、侵入者ですよ!?」


 門番が衝撃したようで顔を歪めて見せた。

 マーメイドドレスを着た女性が部屋を出ていくため、ヨルはその後ろをついていく。

 覚えるのは苦労しそうな城内を進み、部屋に通される。警戒する様子を見せずに、適当にあった椅子に座った。

 絵画が並び、暖炉の中では火が燃えている。綺羅びやかな装飾品には興味を示さず、向かい側に座った女性に体を向き直した。


「久しぶりね、ヨル。穏便に済ませることはできないわけ?”女王の蛇”とあんたのところで戦争でも起こす気なのかしら」

「俺は今日、個人で来てる」

「そういう話じゃなくて......」

「レイ、まだ司令官なのか」


 ヨルは時々人の話を聞かない。この女性はそれを知っているようで、何も指摘しなかった。

 女王の意志を汲み、命令を下す役割を持つ実質トップの立場を持つ司令官。女王不在の場合は司令官の指示で組織は動いている。

 レイと言われた女性は先程の微笑みとは違った、豪快な笑いで否定した。


「世代交代したわよ流石に。歳いくつだと思ってんの。歳とらない連中とは違って人間なのよ」


 見た目は30から40歳くらいに見えるが、おそらく実際は50歳は越えているのだろう。歳の話を口にすると女性はいい顔をしないことを学んでるヨルは特に触れなかった。

 彼女が指を鳴らすと、テーブルに紅茶が現れた。レイは口をつけるが、ヨルは見向きをしなかった。


「じゃあ今は誰が司令官を?」

「あぁ、今はいないわよ。と、いうか数年帰ってきてない。私は代理よ代理」


 代理を立てても機能しているくらいには、司令官を信用しているらしい。どういう人物が司令官になっているのか、非常に興味は湧くが、最初から答えないということは幾ら訊いても言わないだろう。


「で、何しに来たわけ」

「最近の蒼月について知ってることを教えてほしい」

「はぁ?なんで。知りたいならそっちから答えなさい」

「“蒼月”がうちの組織に...喧嘩を売っているのかもしれない」


 新聞の一面を飾った電車内で起きた殺人事件に関しては、レイも読んでいた。一般人の目を気にせずに人とかけ離れた力で物事を起こすやり方は“蒼月”そのものだ。

 ヨルは最近“蒼月”と何があったのかを隠さずに話した。何一つとして隠さずに。


「もしかすると近々“蒼月”と一悶着あるかもしれない」

「“蒼月”ね。残念だけど特に何も知らないわよ。おとなしかったのに急ね。上層部でも入れ替わったんじゃない?」

「それはあり得る。何も知らないならいい。本題はそれじゃない」


 ヨルは紅茶に目を落とし、コップのフチを左手でなぞる。時々目線を床に向けるような場面もあった。そんな彼の様子を見て、レイは無理やり聞き出す気にはなれずに、黙って話し始めるまで待つ。


「もしも、だ」

「......」

「俺に何かあったら、家にいるユノという女子高生を保護してほしい」


 “女王の蛇”に向かって、この台詞を言った意味を理解できてないはずがない。

 ユノが女王であると認め、居場所を告げた。女王欲しさに襲うかもしれない可能性があるにも関わらず真実を託した。

 ヨルがレイを信頼したうえでの発言である。

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