15.魔術基礎講義 その1
どんな知識も基礎が理解できていないと、応用はできない。これは魔術でも同じことが言える。魔術が使えないとしても、対策や対応を考えるにあたって重視される。
戦闘部隊の隊員は残念なことに基礎が分かっていない。何かが起きたら、力任せに解決させようとする事が多い。知識を使うような問題は、隊長であるヨルに押し付けようとする。
若い隊員が先輩達を真似するようになってはならない。
こうして開催されることになった魔術基礎講義。
アサヒとキヨマサは参加を義務付けられている。別の部門の人たちでも時間さえ合えば、自由に参加できるようになっている。
どれだけの人数が集まったのだろうかと思いながら、ヨルはミーティングルームの扉を開ける。
学校のようにテーブル1つにつき2人座れるように配置された部屋。まばらに席に座っているようだ。
見ただけで人数が少ないことが分かり、入室してすぐに舌打ちが漏れた。
舌打ちに驚き、部屋にいた全員が振り向く。このことに気がついていないのか。ヨルは若干目を細めた顔のまま、部屋の奥に入り、一番前の空いている席に座った。
重い空気の中、ノック音が聞こえ白杖を持った男が入室する。まぶたを閉じて鉛筆のように杖を持って、部屋の奥までやってくる。
「...隊長のいる前で講義するなんて聞いてないんですけど」
「ユエには言ってなかったからな」
盲目の男どころか、ここにいる誰も戦闘部隊の隊長が来ることは知らなかった。ユエという盲目の男は苦笑いをするだけ何も言い返さなかった。
マイクを手に持ち、ユエはこの部屋にいる隊長を除いた14人に向けて挨拶をする。
「えぇー、知っている人もいるかもしれませんが、第1戦闘部隊の戦闘員をしているユエといいます。今回基礎講義といっても戦闘員向け講義になるのでご了承ください」
アサヒとキヨマサは初対面である。初対面の2人に向けた講義が行われる。
前から2番目の座席に座っているスーツ姿の女性が、真っ直ぐ右手を挙げる。テーブルにはノートとシャープペンを置いており前髪はヘヤピンで留めている。
彼女は調査隊所属のモモ。調査隊に配属されて大体1年が経とうとしている。
「発言をしてもよろしいでしょうか」
「はい、どうぞ。調査隊のモモさんですね」
名前を言われたモモは少し目を大きくしたが、すぐに立ち上がろうとした。
「あぁ、立たなくていいですよ」
少し上がっていった腰をモモは下ろして発言をする。
「ありがとうございます。調査隊所属のモモと申します。この組織に所属すると、最初に魔力や魔術の基礎を叩き込まれると思います。失礼ですが、戦闘員のみなさんはされていないのですか」
かなり棘のある言い方である。アサヒとキヨマサがすでに基礎を終えていないことを、遠回しに指摘しているようだ。
隊長は気に留めないのか、わかっていないのか。しばらく首を傾げていたが、話し始める。
「アサヒとキヨマサがいるから、初歩的なことから話していくが。この本部以外にも支部があって、それぞれ戦闘部隊を有している。隊員の選別方法は各隊長に一任されている」
戦闘部隊は他の部門と関わる機会があまりなく、孤立した存在になっている。比較的関わる機会のある調査隊の人たちでも全容が掴めない部門に該当する。その為、閉鎖的で近寄りがたいイメージついている。
「第1戦闘部隊の選別方法は、若いそこの2人を除くと......」
隊員であるユエにとってはよく知ってる方法。
「スカウトだな」
「良く言えば、ね」
付け加えられた言葉に、聞いていた全員が各々の発想を巡らせようとする。
しかし、すぐにヨルが話し始める。
「コウなんかいい例だろう。殴り倒して部下にしたいい例だ」
乾いた笑いが部屋に響く。
第1戦闘部隊は魔力の存在を理解し戦える人たちを、隊長自ら拳でスカウトしている。その為、集まっている隊員たちは感覚で理解しているような者達が多い。
だからといって、学のない人ばかりでは困る。隊長不在時の指揮をとれる人を作らなければならない。
「結果として戦闘員のカリキュラムはないようなものになっている。だから今日は馬鹿に来てほしかったんだが、来なかったな。胸ぐら掴んででも連れてくるんだった」
言いたいことを隊長は言い終え、「以上だ」と付け加える。質問者のモモは礼を言いながらお辞儀をした。
次の質問者がいないなら話をしようと思ったユエだったが、キヨマサの大きな声で遮られる。
「はいはーい。ユエさんは弱視なんですか」
全盲以外にも弱視の人も白杖を使うことやモモのことを認識できていた為、キヨマサは疑問に思い発言した。気になっても訊くことができない人は、この部屋に何人かいたかもしれない。
「あぁ、全盲だけど。なんで認識できているかって話を訊きたいのかな。それは後ほどやるとして...じゃあ早速本題に入りましょうか」