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12.彼女は女王

 アサヒはミーティングルームに向かって歩く。

 今日はどうしても言いたいことや聞きたいことがあり、組織に来る日ではなかったがヨルに会いに来た。アポイントは想像していたよりもあっさり取れた。

 戦闘部隊の隊長であり、この支部の室長を兼任していることを最近知った。自分の入隊の最初から関わり、発言力が非常にある人物であると思っていたが、室長であると判り納得ができた。

 だからこそ聞きたいことがあった。

 呼ばれた部屋をノックする。中から返事が聞こえ、アサヒは扉を開ける。

 ノートパソコンをいじっていた隊長が顔を上げて、無言で近くの席を指さした。座れということだろう。

 席につくと隊長はノートパソコンを閉じて、アサヒと目を合わせてくれる。何から話すか考えていたが、緊張して少し内容が飛んでしまった。

 深呼吸してから話を始める。

 

「今日はお時間をいただきありがとうございます」

 

 とりあえずよくある挨拶から始めたが、相手から返事がなかった。さっさと本題に入ってほしいと言うことだろう。

 

「隊長にどうしても質問をしたいことがあります」

 

 頷いて再びノートパソコンを弄り、なにか納得した様子でまた頷く。

 不思議に思いながらアサヒは、言いたいことをかなり簡潔にして言う。

 

「同じクラスのユノという女子生徒は何者ですか?」

 

 隊長が何を最初に言うのかが気になり、しばらく無言のまま時間が過ぎる。しかし待っても何も返事が帰ってこない。

 アサヒは痺れを切らして続きを言う。

 

「彼女の制服に魔術が掛かってますね?最初は見間違いかと思いましたが、そうじゃなかった」

 

 初めてユノと会ったときに制服に対して違和感を感じた。意識して見ないとわからない魔術が掛かっている。なぜ魔術が掛かっているのか理解ができなかったが、見間違いではないと確信した理由があった。

 保護者会で彼女の保護者としてやってきた青い和服の男を見たときだ。ユノの制服に掛かった魔術と男から感じた魔力が同じだった。

 ユノの制服に気がつかなければ、男の魔力に気が付かなかっただろうほど魔力をしっかり隠している。

 そして隊長であるヨルと同居し、組織管轄の学園に入学している。理事長も担任教師も用務員も、組織職員である。当然このことを知っているはずだ。

 アサヒのこの予想は残念ながら外れている。

 ユノの制服に気がついた人物は、学園に配備された職員の中では誰もいなかった。それくらいバレにくいように加工されている。

 気がついてくれる優秀な戦闘員がいて嬉しいと思いつつ、ヨルは面倒なことになったとも思う。

 

あれ(・・)女王(クイーン)だ」

 

 アサヒは想定外の返答が来て息をのんだ。

 女王(クイーン)という存在は魔力や魔術の存在を知った者が最初にたどり着く都市伝説のようなもの。

 世界に1人だけ生まれる膨大な魔力を持つ存在。伝説では世界の理を塗り替えることが可能な存在と言われている。魔術に精通するものなら、喉から手が出るほど欲しがるだろう。

 女王(クイーン)が実在すると知れば、ほぼすべての団体が襲ってくる。彼女の生死に関わらず利用価値があるのだから。

 同時にアサヒは秘密を何があっても守り抜かなければならないと気がついた。

 “蒼月”という団体が存在する。魔力や魔術が使える強いものが上に立つべきだという思想を持つ集団だ。万が一彼女が“蒼月”の手に渡ってしまったら、一般人を殺戮する兵器にしてしまう可能性がある。

 ヨルはアサヒの顔色を伺う。彼がどこまで考えが至ったか探っていた。女王に関する情報を知っている人物は少人数にすることで、情報漏洩を避けたかった。

 

「アサヒ、これから命令をする。期間は無制限」

 

 

 聞くことになる命令をとっさにアサヒは想像する。

「ユノの監視、警護。及び人類の敵だと感じたら処分。当然口外は組織の人間でも、誰であっても許さない」

 

 命令内容に憤り、アサヒは立ち上がった。

 監視と警護、口外の禁止は納得できる。組織の内部から漏れてしまう危険性を考えれば、知っている人間は少ないほうがいい。

 しかし、処分ということは殺害を意味している。ユノをあれ(・・)と呼び、まるで物のように扱っていることを怒らずにはいられなかった。

 

「隊長は、ユノを躊躇わず殺せるんですか」

「聞きたいことはそんなことか」

 

 即答だった。

 本当は理解している。大きな力が敵対する可能性があるなら、人類の為に自分の身を守る為に、殺すことが必要である。しかし、気持ちを受け入れるには難しかった。

 何も言い返せないまま、アサヒは背を向けて歩き出す。部屋を出る前に最後の質問をする。

 

「キヨは、キヨマサは知らないんですか?」

「あぁ、気づいてない。それにユノとお前たちが友達になったのはあくまで偶然だ」

「良かった」

 

 この質問で少し冷静になったようで、アサヒは頭を下げて退出する。

 1人になったヨルは自分が出した命令の意地悪さに苦笑いする。

 ユノの殺害をアサヒが出来るとは一切思っていない。実行の有無ではなく力量不足だと判断している。掛かっている保護用の魔術を突破すれば、魔力の使い方を知らない一般人でしかない。殺すことは容易い。

 しかし、万が一彼女を殺そうとすれば、黙っていない人物がいる。

 ガイアである。

 どこの組織にも属さず、個人でユノを守るためにやってきた彼をまず退ける必要がある。彼の素性を把握しているため、何があってもユノの命を最優先すると確信している。

 ここにいる戦闘員でガイアを殺せる可能性がある人物は、隊長であるヨルだけである。彼を理解しているからこそ、勝てるという程度の可能性。

 ヨルは自身のスマートフォンを見て、ユノから連絡はあることに気がついた。

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