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11.出会いは...

 学校という場所で変に目立つことを恥ずかしいと思うことは、私が子どもだからだろうか。

 ユノは学校の廊下に設置されたベンチに座って、頬杖をつきながらため息をついた。

 保護者会のお知らせの紙を渡さずに鞄にしまったままにしていた。

 しかし、ガイアはどこからか保護者会の情報を仕入れてきた。ヨルもガイアも容姿が整っているため、学校に来てしまうと騒がれやすい。そのたびに色々な視線を浴びることに対してユノは不快に感じていた。時には嫌味を言われることもあった。

 教室の前で瞬く間に保護者の奥様方に囲まれてしまったガイアを見て、機嫌を一層悪くしてしまう。

 ベンチに1人で座ったユノを発見したガイアは、奥様方に挨拶を終えて駆け寄って来る。保護者たちの視線が一気にユノに向き、ひそひそと小声で話し始めたことを彼女は見逃さなかった。

 

「主、こちらのいらっしゃったのですね」

 

 嬉しそうに笑うガイアに顔を向けられず、機嫌の悪さを隠す事もできなかった。

 

「来なくていい」

 

 ニコニコしていた顔が一瞬にして困惑へと変わる。

 

「...わ、私、迷惑ですか」

「うん」

 

 即答されたことに目を丸くさせる。視線を下に落としたガイアは次に続けるべき言葉を探している。

 

「先に帰宅されても大丈夫ですので」

 

 眉間にシワを寄せたユノは、自分の機嫌の悪さをぶつけたことを心のなかで反省する。スマートフォンで時間を確認してた。

 

「今13時。1時間位で終わるでしょ。保護者会、終わってからおやつ食べに行きたい」

 

 外食を要求したことがそこまで嬉しいことだったのか。満面の笑みで返事をしたガイアは、教室へと消えていった。

 保護者会が始まって静かになった廊下のベンチに座っていると、マヤが廊下の曲がり角から顔を覗かせる。話しかけるべきか悩んだユノだったが、悩んでいる間にマヤが隣に座る。

 

「ねぇねぇ、ユノ。嫉妬してるの?」

「...してない」

 

 ぶっきらぼうに答えるユノに吹き出しそうになりながら、口元を押さえて堪える。

 

「てかガイアさん歳いくつ?いつ会っても見た目あんま変わらなくね。出会いとかも聞いたことないし」

 

 出会いは小学校5年生のことだった。

 雨の中、小学校から帰宅すると叔母が家の前に立っていた。叔母はユノを見るや否や傘を放り出し駆け寄って抱き寄せた。何も状況のわからないユノだったが、自分の両親に何かあったことを悟る。

 家の前に停まっていた車に案内された。叔母から両親が交通事故で亡くなったことを告げられ、しばらく叔母の家で生活することになると説明された。

 叔母の家は比較的裕福な家らしく、買って一度しか着なかったという衣類を色々くれた。サイズは大きめではあったが、デザインは若者向けでベルトなどで締めれば着れるようなものばかりだった。

 葬儀に着る服もマナーもすぐに準備してくれた。叔父は気持ちさえあれば大丈夫とユノの緊張を解そうとしてくれた。

 葬儀の際に親族の誰かと金髪の男が話をしていた。あれがヨルだった。親族は交流があるようだったが、初めて見る男だった為、むやみに近寄らず基本的には叔母の傍を離れなかった。

 告別式のときに、今と変わらない和服を着た眼鏡の青年がやってくると、場の空気が大きく変わった。ざわめく人たちに耳を傾ける。

「あの男は呼んだ覚えがない」という話があちらこちらから聞こえた。彼は花入れのみを行いその場を去った。

 次に彼が姿を見せたタイミングは精進落としのときだった。肉や魚を避けた精進料理が一般的だが、現代ではあまり気にされないようで色々なものが用意されていた。

 叔母はガイアを見ると慌てたように立ち上がり、彼を連れて別室へ消えていった。寡黙な叔父が気を使って話しかけてくれたが、意識は別室で話す2人に向いた。

 1人になれたタイミングでユノは、祖母とガイアがいる別室の戸を少しだけ開けて中の様子を確認する。

 中にはヨルと祖母とガイアの3人がいた。叔母の手にはコップが握られており、ガイアの顔が濡れていたことからどうやら揉めていたと思われる。コップを持った手を振り上げたところを、ヨルが手首を掴んで制止した。

 

「彼の言うことが真実なら、ここで揉める事はあまり意味がないかと」

「わかってるわ、でも姉さんの子どもなのよ。家族なのよ。ぽっと出のあんたらに取られてたまるもんですか」

 

 叔母が声を荒げると同時にヨルとガイアと目が合う。遅れて叔母が部屋を覗いていることに気づく。

 何かを言って場を収めるべきなのだろうかと、ユノは必死に頭を働かせる。人生経験の少ない彼女には適切な台詞が出てこなかった。

 

「あ、あんまり揉めないで。私は別に施設送りでも」

 

 声を震わせながら話すユノに、叔母はとっさに対応できないほど動揺していた。

 ガイアはすぐさま目線を合わせ丁寧な口調で微笑みながら話す。自身の印象を良くしようという試みであることに叔母は気がついたようで、より一層動揺したようだった。

 

「そのようなことを致しません。親族の方から貴女にお仕えするようにお願いされており、そのお話をさせていただいておりました」

 

 話し終えるとガイアは着物の袂から何かを取り出し、叔母とヨルに突きつけた。それは1枚の紙だった。用紙を見た叔母は怒鳴りつけようと口を開けたが、ユノがいることを思い出し一歩後ろに下がる。

 

「俺は構わないが、お前は俺の条件を飲むんだな?」

「えぇ、どうぞ」

「アヤメさんは構いませんか。契約(・・)自体は信頼していいと思いますが」

 

 これは叔母にとって決定事項を告げられたようなものだったのだろう。吐き捨てるように「えぇ」と返事をする。

 第1印象が最悪の出会い方だったと思い返す。このやり取りだけではわからないことが多く、時々質問することがある。

 ユノに仕えるようにお願いをした親族とは誰のことなのか。ヨルとガイアの条件とは何であるのか。突きつけた用紙には何が書いてあったのか。

 2人ともいつか教えるしか言ってくれない。深く聞こうとは思わなかった。

 思い出にふけることをやめて、マヤからされた質問を返す。

 

「歳ね。聞いたことなかったわ。結婚はしてないんじゃない?恋人がいるか聞いたことはないけど」

「いたらユノがヤキモチ焼くと思うけどなぁ」

「しないって」

 

 くだらない話をしながら保護者会が終わるまで待つ。

 果たしてガイアとヨルは独り立ちするまでに自分たちの話をしてくれるのだろうか。

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