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誕生日プレゼント

 



 テオドールとの関係が思うように改善しないまましばらく経ち、気づけば来週は彼の誕生日だった。

 魔女の呪いにかかってから約5年、呪いのせいでテオドールのために誕生日のプレゼントを用意することもお祝いの言葉を口にすることさえできなかった。


 せっかく呪いが解けたのだから、今年こそ何かプレゼントしたい。


 ちなみにずっと冷たい態度のヴェネットにテオドールは毎年誕生日プレゼントを贈ってくれたが、呪いのせいでヴェネットはそれらをいつもいらないと突き返していた。最低だ。




(プレゼントは何がいいだろう…テオが喜びそうなもの…?)


 一生懸命考えても何も思いつかなかった。10の時に婚約して付き合い自体は長いのに呪いのせいで冷たく素っ気ない態度ばかりとってしまい、会話だって全然続かなかった。だからヴェネットはテオドールがどんなものが好きなのか全然知らなかったのだ。


 あまりに思い付かないので、クラスメイトで最近よく話すハンナを頼る。


「ハンナ様。男性にプレゼントするのに何が喜ばれますかね?」



―――

――――――



 学園が休みの日、ヴェネットはハンナが薦めてくれた街の皮製品の専門店に来ていた。ハンナは以前この店で購入した皮の手袋を婚約者にプレゼントしたらしい。


 一時間かけて店内のものを物色し、悩みに悩み、結局使い勝手がよさそうで無難な皮の小物入れにした。


(テオ、喜んでくれるといいな…)


 店を出たあと、久しぶりに街に来たヴェネットはすぐに帰らず散歩がてら街並みを見て歩くことにした。



 婚約者だったころよくテオドールはヴェネットに街に遊びに行こうと誘ってくれた。でも呪いのせいでそのほとんどを冷たく断ってしまい、たまに一緒に出掛けてもつまらないような素っ気ない態度しかとれなかった。



 ふと花屋が目に入り、引き寄せられるように近づく。

 陳列されたたくさんの花の中から、ヴェネットは婚約解消を告げられた誕生日の日、テオドールがプレゼントしてくれた花を探す。

 あの時、ヴェネットのせいで床に散らばった花はすべて拾い集め花瓶にいけて部屋に飾った。それもすでに枯れてしまったけど。


「これください」


 花屋の陳列された花の中から同じ花を見つけ、赤とピンクを数本ずつ買った。


 そのままもう少し通りを歩く。



「――――だろ?」

「ふふふ」


 楽しそうな笑い声が聞こえ、視線を移すと、数メートル先を若いカップルが仲良さそうに手を繋いで歩いていた。


(……私もあんな風にテオと歩いてみたいな)


 呪いを受けていなかったら、今ごろヴェネットもテオドールとあのカップルのように手を繋ぎ歩いていたかもしれない。


 いや、ヴェネットはそんな甘い考えをすぐに打ち消した。

 そもそも魔女の呪いを受け入れていなかったらヴェネットはあの日、大破した馬車の中で死んでいたのだ。そうしたら今この場にこうしていることさえできなかった。


 呪いを代償に命を助けてもらったことに後悔はない。だけど呪いのせいでたくさんテオドールを傷つけてしまったことは本当に申し訳なく、後ろめたく思っている。


 誕生日プレゼントを贈ることで、ヴェネットの長年の冷たい態度の、少しでも罪滅ぼしになるだろうか。




 ◇




(直接渡したいけど、受け取ってもらえるかな)


 テオドールの誕生日当日。

 ヴェネットはどうやってテオドールにプレゼントを渡そうか悩んでいた。

 せっかく自分で選んで買ってきたので、できればテオドールに使ってもらいたい。迷った末、ヴェネットは彼の机の上にプレゼントを置いた。

 顔を合わせると受け取ってもらえない気がしたからだ。


 テオドールが教室に戻ってきてヴェネットのプレゼントに気がつくのを物陰から見守る。


(喜んでくれるかな?――あっ…)


 乗り出しすぎてテオドールと目が合ってしまった。

 すぐに視線が逸らされ、テオドールがプレゼントの包み紙を開けていく。中には皮の小物入れと簡易のバースデーカードが入っている。


「……やる」

「え?いらないのか?誕生日のプレゼントだろ?」

 テオドールのそばにいた友人が驚いて聞き返す。


「ああ。僕は使わなそうだから、よかったらもらってくれ」

「そうなんだ。じゃあもらっちゃおうかな。金を入れるのにちょうど良さそうだ」



「………」

(失敗したな…)


 ヴェネットはくるりと反転し、壁に背をつけてうなだれた。


 どうせバレるのなら直接誕生日のお祝いを言って渡してみればよかった。

 一生懸命考えて用意したプレゼントをいらないって言われることがこんなに傷つくなんて。

 呪いにかかっていた時、何度もヴェネットはテオドールの贈り物を拒絶していた。どんなに彼を傷つけていただろう。



 しばらく動く気になれず、教室の出口付近でぼーっと立っていたヴェネット。そこに急に影ができ、反射的に見上げると、教室を出ていくテオドールと目が合った。視線はまたすぐに逸らされ、テオドールはそのまま背を向け遠ざかっていく。


 冷たい瞳。

 婚約者だったころ悲しげな表情で見られることはあってもあんなに冷めた目で見られたことはなかった。



 せっかく呪いが解けたのに。全然うまくいかない。

 本当はもっと話したい。笑顔がみたいのに。


 でもそんなヴェネットの願いが今のところ叶いそうにないということを遠ざかるテオドールの背を見ながら改めて思い知った。


 いろいろあったけど長い付き合いだったから、これまでのことを謝れば仲直りできると簡単に考えていた。いくら嫌われたとしても、優しいテオドールならきっと許してくれる、と。



(どうしたらいいんだろう…)




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