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呪いは解けた?

 



 ヴェネットがテオドールと婚約したのは10の時。

 両家は昔から付き合いがあったため婚約の話もすんなりまとまった。


 初めての顔合わせでひどく緊張していたヴェネットに同い年のテオドールは優しく話しかけてくれた。


「その髪色、とてもきれいだね。お花みたい」

「えっ…?」


 ヴェネットの、赤毛に一部桃色の毛が混じる変わった髪色を綺麗だと褒めてくれた。

 それまで自分の変な髪色が好きではなかったヴェネットだが、この時初めてこの色で良かったと思った。




    ◇




 新学期の朝、いつもより早く学園に着いたヴェネットは緊張しながらテオドールが来るのを待っていた。


 長期休暇中に婚約解消して以来テオドールとは顔を合わせていない。


 しばらく待っていると友人と玄関から建物の中に入ってくるテオドールを見つけた。

 金に近い薄茶色の髪にヘーゼルの優しげな瞳。ヴェネットの大好きなテオドールは友人と何か楽しそうに会話していた。



 大きく深呼吸したヴェネットはテオドールの前に飛び出す。


「あっ、テ、テオおはよう」


(っ信じられない!!普通にテオに話しかけられたわ!)


 呪いのせいでヴェネットはテオドールに挨拶されてもいつも素っ気なくしてしまっていた。自分から挨拶したのなんて何年ぶりだろう。



 一方、ヴェネットに気さくに話しかけられたテオドールは信じられないものを見たという表情で固まっている。


 2人の不仲は学園の多くの生徒に知られているので、周囲にいた生徒らもざわついている。



「おーい、テオ大丈夫か?」


 隣にいた友人が声をかけたことでやっと我にかえったテオドールはできるだけ冷たい声で言った。


「…ヴェネット嬢、なんのつもりか知らないが、もう僕たちは婚約者でもない。親しげに愛称で呼ばないでほしい」


「あ…ごめんなさい。それじゃあ、あのテオドール様?」


「…忙しいから、それじゃあ」


 いつもと様子の違うヴェネットを残し、足早にテオドールはその場を去った。




「あの女、今さらどういうつもりなんだ。あんなにテオのこと冷たくあしらってたのに」

「……わからない」

「――――?」

「………」


 混乱するテオドールの頭に友人の言葉は上手く入ってこない。

 婚約解消を告げた日だってあんなに横柄で冷たい態度を彼女は崩さなかったのに、いったいどういう心境の変化なのだろうと理解が追いつかなかった。





 テオドールが去ってからもヴェネットはその場にうつむいて立ちどまっていた。



「あの2人、休みの間に婚約解消したらしいわよ」

「まあ、時間の問題だったわよね。あんなに今まで婚約者に冷たかったんですもの」

「さっきの態度見た?婚約解消されて今さら惜しくなったのかしら?」

「逆に冷たくあしらわれていい気味ね」



 周囲の言葉はヴェネットの耳には入ってこない。ヴェネットは今、どうにも緩んでしまう顔を隠していた。



(う、嬉しいわ!!)


 これまでは呪いの影響でテオドールが挨拶してくれても無視したり、冷たい言葉を返したりするばかりだった。

 それが、今、信じられないことに普通に親しげに挨拶することができたのだ。テオドールは困惑していたようで、かなり一方的な感じにはなってしまったが。


 思ってもないような冷たい言葉を吐くこともなかったし、なんなら笑顔をみせることができた。


(やっぱり呪いが解けたんだ!)


 その場でぴょんぴょん跳び跳ねてしまいたいくらい嬉しかった。



 ヴェネットたちは今学期から学園の最終学年になった。

 学園生活の中でテオドールと何かいい思い出を残したい――それは入学してからずっとヴェネットが願ってきたことだった。

 呪いにかかっているうちはそんなこと夢物語だったが、解けた今ならできるかもしれない。


 そのためにはまずテオドールとの関係を修復しなければならない。

 嫌われている相手に難しいことはわかっていたがこの1年の間に関係を修復して、彼の婚約者…は無理でも友人の一人くらいになれないだろうか。





 それからヴェネットはできるだけ毎日テオドールに話しかけた。


「テオドール様、おはよう」

「……おはよう」


「よかったらランチを一緒に――」

「失礼、急いでいるんだ」


 挨拶を返してくれることはあるもののテオドールは素っ気ない態度のままで、距離は今のところ縮まりそうにない。


(…悲しんでいい立場じゃないわ)


 今までと立場が逆転したようなものだ。

 婚約者時代、テオドールは冷たく素っ気ない態度のヴェネットにいつも優しく接してくれた。


 だから今度は自分の番。笑顔で話しかけ続ければ優しいテオドールなら許してくれるかもしれない。




「ねえ。あなた、どういうつもりなの?」

「え?」


 急に声をかけられ振り返るとそこにはストレートの黒髪が美しい女生徒が立っていた。





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