犬猿の仲の幼馴染が入院したので、毎日お見舞いに行ってみました
初めましての方は初めまして。赤井藍と申します!
本作は、「お見舞い」という風に話を始めていますが、割とメインではなくなっています。よろしくお願いします。
犬猿の仲の幼馴染が交通事故にあって入院したと聞いて、病院にお見舞いに来た。
いくら俺が嫌われていたとしても、幼馴染なのだ。心配にもなる。
深呼吸をしてから、羽奈の病室をノックした。
「……入るぞ」
「はぁ?!」
「大丈夫か? 事故にあったって聞いたんだけど」
羽奈は俺を見ると、嫌そうな顔をして体を起こした。
「何? バカにしに来たの?」
「いや、心配で……」
「はぁ? あんたが私を心配ぃ? ありえなっ。私が怪我して動けないのを嘲笑いに来たんでしょ?」
「なんでこうなったんだ……いや、そんなわけないだろ。そんなクズみたいなことしねぇよ」
ほんと、なんでこうなっちゃったんだろう。まぁ、おれが悪いんだろうけど。
俺は本当に心配で来たのに、羽奈は全く信じてくれない。むしろ、俺の事を軽蔑するような目で見てくる。
「あんたはクズなんだから、絶対そうに決まってる」
「……そうか。じゃあ、コレだけ。後で看護師さんとかに花瓶に入れてもらってくれ」
俺はそう言って、持ってきたベゴニアの花を机に置いた。
「……なにこれ」
「いや、お見舞いに来たから」
「………要らない!」
「あっ」
羽奈は余程俺から貰うのが嫌だったのか、机に置いた花を掴んで、床に叩きつけた。
花は無惨に散り、茎や葉がめちゃくちゃになってしまった。
……やっぱり、ダメだったか。一度嫌われたらもう、二度と元には戻れない。覆水盆に返らずってのはこういう事だな。
俺はベゴニアの花びらや葉を拾った。
「悪かった。またそのうち来る。……お大事に」
俺は病室を出ると、ため息をついた。
「ダメだな。もうちょっと言い方とか気をつけれればいいんだけど」
ベゴニアの花を見る。その見た目は、まるで今の俺の心の中のようだった。ベゴニアの花言葉は『片思い』。
☆
羽奈と俺の関係がこんなことになってしまったのは、元はと言えば俺のせいだ。
簡単に言えば、俺が羽奈をバカにして、それに反発してバカにし返してくる。その応酬が続いた結果、こんなことになってしまったのだ。
構って欲しくて、俺を見て欲しくて、羽奈にちょっかいをかけた。
花と同じ学校に行きたくて、高校も何とか同じとこに入った。
バカにすることはやめた。
褒めれるとこは褒めた。
出来るだけ伝えるようにした。
それでも、昔から積もり続けた俺への嫌悪感はいつまでも消えず、羽奈の中で残り続けた。
俺を見ると嫌な顔をするようになった。
入学式でため息をつかれた。
嫌味を言われ続けている。
悪口ばかり言われる。
一言も話しかけてこようとはしてくれない。
俺の中で羽奈を好きな気持ちが大きくなるのに対し、羽奈の中で俺を嫌いな気持ちが大きくなっていく。
その差は開き続けるばかりだ。
それでも、羽奈の事はどうしても嫌いになれなくて、諦めきれなくて。
でも、告白してもフラれるのは目に見えていて、告白もできない。
好きになってもらおうと努力しても、全て裏目に出る。
毎日、後悔が大きくなって、自室での反省会が行われる。
「……いつになったら、好感度プラスになんのかな」
その問には、誰も答えてはくれなかった。
☆
次の日も、その次の日も。またその次の日も、俺はお見舞いに行き続けた。
「帰れ!」
「要らない!」
「気持ち悪い!」
「死ね!」
いつもこんな言葉の後に
「ごめん……また来る。お大事に」
と言って、無惨な姿になった花と共に家に帰っている。家の中にはどんどん花が増え続けて、母さんに「花束何個分よこれ」と呆れられてしまった。
1週間くらい経ったが、それでも今日もお見舞いに来ていた。
病室をノックして部屋に入る。
「入るぞ……あ、寝てたか」
昼過ぎの温かい時間。入院中に大してやることがある訳でもなく、眠くなるのも当然の事だろう。
羽奈の近くに置いてある椅子に座り、羽奈の顔を見る。いつも俺と居る時には見れないような、穏やかな顔だった。
写真撮ったらまた罵られるんだろうな。次はもう犯罪者扱いになっちまう。だとしても、いつも不機嫌な顔しか見られない身としては、この顔を撮っておきたくなった。
これ以上キツく当たられたら本当に死にたくなってくるので、見るだけで我慢した。
どうせならと思って看護師さんに頼み、持ってきた花を花瓶に挿してもらった。
花は好きだった。羽奈と花。単純だけど、同じ読みだったから。
「羽奈は俺の事どう思ってるんだ? ……きっと嫌いなんだろうな。なぁ、俺頑張ったんだぜ? 羽奈がどんどん可愛くなるから、その隣にいても恥ずかしくないように勉強も運動もファッションも、美容もコミュ力も家事も、なんだって頑張ったんだ」
羽奈が寝てるからこそ、言えることだった。俺の1番正直な気持ちで、1番弱くて、1番気づいて欲しいことでもあった。
「でも、いつまでも正直にはなれないし、褒めるのも下っ手くそなまま。プレゼントだって気に入っては貰えるような物選べなかったし、いつもゴミ箱にホールインワン。そりゃあ、こんな奴嫌いだよな。」
あれ、なんか涙出そう。てか出てる。
「……なぁ、好きな食べ物は? 趣味は? 好きなスポーツは? 好きなマンガとかもある? 俺、羽奈のこと何も分かんねぇや。まともに聞けなかったしな……こんな時じゃないと言えないか、うん。……好きだ」
返事はもちろん帰ってこない。虚しいな。
何をするでもなく、俺は羽奈を眺めて、羽奈が起きるまで待っていた。
☆
……んぅ、あれ、私寝ちゃってた?
目を覚ますと、既にだいぶ日が傾いていて、結構な時間が経ったことが分かった。昼から記憶が無いから、半日無駄にしちゃった。
「あ、起きたか」
「…………はぁ?!」
最悪! なんでこいつがいんの?
「なんであんたがいんの?」
「いや、お見舞いに来たら羽奈が寝てたから、起きるまで待とっかなって」
「キッショ。何? もしかして私の寝顔見た?」
「……あぁ。悪い」
最悪最悪最悪! こいつに寝顔見られるなんて最悪! 気持ち悪くなってきた……。
「なぁ、ひとつ聞いていいか? なんで俺の事嫌いなんだ? 理由だけでも教えて欲しい」
「はぁ? なんでってそりゃーー」
あれ、なんでこいつの事嫌いなんだっけ? そう、昔色々あったのは覚えてる。でも、なんで今嫌いなんだろ。あれ?
「……とにかく嫌いなの! もう二度とお見舞い来ないで!」
「……分かった」
「え?」
鼻を啜るような音が聞こえて上を見ると、こいつは何故か涙を流していた。大嫌いな私と縁を切れて嬉しいってか? 失礼なやつ。
「………ぁ…何でもない」
掠れた声でそう言うと、こいつは病室を出ていった。何故かその時の悲しそうな、苦しそうな顔が頭から離れなかった。
☆
「おーい優斗、大丈夫かー?」
「……」
「無視すんなー」
もうダメだ。やる気が1ミリも出ない。ツラい。無理。
「振られたからってそんな負のオーラ全開にすんなよ。5限体育だぞ。もうちょっとテンション上げてこうや」
「嫌だ……10年だぞ? 10年……ここ数年はめっちゃ頑張ったんだ。それなのに『二度と来んな』って……」
「まぁ、うん。お前も悪いとこはあったしな。うん。気持ち切り替えてこうぜ? 今のお前はイケメン文武両道優男だからモテるぞ」
羽奈じゃない奴にモテても何も嬉しくないっつーの……。親友が励まそうとしてくれるのは分かるが、今の俺にそれはあまり役に立っていなかった。
「もう転校しようかな」
「?!」
「なんで同じ高校行ったのか分かんなくなっちまった。これ以上はツラい……」
「いや待てって! まだ告ってすらないだろ? まだワンチャンあるし、な? そんな転校するなんて言うなよ」
「でもあいつも俺と同じ学校にいるのもう嫌だろ。小学校からずっと同じクラスだぜ? しかも毎回嫌そうに見られるんだ」
親友……もう無理だよ。辛いって。
なんとも言えない苦々しい顔をした親友が、俺の事をじっと見つめていた。
☆
次の日から、あいつはお見舞いに来なくなった。他にお見舞いに毎日来るような暇人は居ないし、正直暇。
あいつどんだけ暇なの? わざわざ嫌いな人のお見舞いに来るとか頭おかしいんじゃないの?
「はぁーー……つまんない」
外を見ていても、アイツみたいな人影は一向に現れなかった。
☆
そして、ついに羽奈は退院した。つまりは、クラスに戻ってくるのだ。あ゛ぁー、ほんとにやらないとダメなのか?
「なぁ、ほんとにやらなきゃダメか? 成功率0%どころかマイナスな気がするんだけど」
「マイナスって何言ってんだお前。1回くらいは告れ。男見せろ」
「マジでヤダ。振られるの分かってて告白するとかマジで罰ゲームじゃん。しかもどうせこっ酷く振られるに決まってる」
そう。親友に「羽奈に告白しろ」としつこく言われていて、賭け(ジャンケン)に負けて告白することになってしまったのだ。くそぅ……。
本当に勝率が無いのに、暴言を吐かれると分かってまで告白したくは無い。羽奈に彼氏がいるとか聞いたことないからそこら辺は大丈夫だろうけど、やっぱりツラいものはツラい。
しかも同じクラスだ。これからの学校生活に大きな壁が出来るかもしれない。
マジで転校しようかな……。
そんな事を考えていると、羽奈が教室に入ってきた。すると、羽奈の周りにどんどん人が集まって、ついに羽奈が見えなくなってしまった。
「……人気だな」
「まぁなー。めっちゃ可愛いしなー」
「あぁ。いつまで経っても、横に並べるようにならないんだ。羽奈みたいに生まれながらに才能を持っていたわけじゃないから、全部頑張ってるんだけどな。羽奈みたいに人気者にもなれないや」
「……俺はお前のこと好きだぞ!」
何故か親友が泣きながら抱きついてきた。やめろ気持ち悪い。どこに泣きポイントがあるって言うんだよ。
親友は俺の制服に鼻水を擦り付けると顔を上げた。
「俺は応援してるからな! 頑張れよ!」
「……おう。やるだけやってみるよ!」
やっぱり親友は良い奴だ。人のために泣いてくれるし、応援してくれるしな。俺は、そういう人間にもなれなかった。そう思うと、ちょっと羨ましくも思えてきてしまった。
そんな事はさておき、まずは羽奈に話しかけないと。
……と思ったのだが、人が全然消えない。ヤバい、話せないぞ、コレ。
昼休みには他クラスからも人が集まり、全く話しかけられなかった。そして5限の後の休み時間、ついに羽奈の周りの人がいなくなった。
チャンスだ!
「あの、羽奈」
「…………はぁ。何?」
「退院おめでとう。もうよくなったんだな。良かった」
「あっそ。で、何? それだけ?」
相変わらず俺には当たりがきつい。この対応をされるだけで、もう振られる気しかしない。
「……っ、その、放課後、中庭に来てくれないか? ……話したいことがある」
「……はぁ? 何であんたのために行かなきゃいけないわけ? 嫌だけど」
「頼む! 時間はかかんないから! ちょっとだけでいいから……」
俺は腰を90度に曲げて羽奈に懇願する。振られるとわかっていても、せめてチャンスだけは……。
「……はぁ。分かった。分かったから。放課後に中庭に行けばいいのね」
「……! あぁ! じゃあまた後で!」
俺が顔を上げた時、羽奈は何故かニヤッとした笑みを浮かべていた。
☆
ついに放課後。いよいよ告白の時間だ。やばい、めっちゃ緊張してきた……吐きそう……。
そしてそのまま、10分が経ち、20分が経ち、1時間が経ち、2時間が経ち。日が落ちて、学校の職員に帰るように言われるまで待っても、羽奈は来なかった。
何でだ? 確かに来るって言った筈なのに。連絡しよう。
何かあったのでは大変だと思い、俺は羽奈に電話することにする。
すると、数回のコールの後で、羽奈の声が聞こえてきた。
『……何?』
「いや、いつまで待っても来なかったから。心配になって」
『何? もしかしてこんな時間まで待ってたの?』
「うん」
『はっ! ばっかじゃないの? 来るわけないじゃん、こんな時間に』
どういうことだ? 確かに来てくれるって言ってたし、間違えたとかでは無さそうだし。
『何を言うつもりだったのかは知らないけど、あんたのために取る時間なんてないのよ!』
……あぁ、そうか。わざと来なかったんだ。俺の事が嫌いだから。
でもせめて、覚悟を決めたんだから、これだけは。
「……羽奈」
『何? 今更あんたが何を言ったとしても行かないからね!』
「あぁ……………羽奈、好きだ」
『……………は?』
「いやごめん。コレ言いたかっただけだから。じゃあな」
『いやちょっと待って!好きってなーー』
俺は途中で電話を切った。これ以上罵られるのは辛かった。それでも、伝えることが出来たのは良かった。
ワンチャンも無いような勝負で、返事も貰っては無いけれど。それでも、それでも、伝えることが出来て良かったと、そう思う。
親友……俺、男見せたよな? 頑張ったよな? なぁ……?
俺は、目から溢れ出る涙を拭うことなく家路についた。
☆
「ーーってわけで、やっぱり案の定って訳だ」
俺は親友に結果報告をしていた。
本当は学校に行きたくはなかったけど、母さんと父さんに「行け。休むな」と脅されたので、仕方なく学校に来た。
「……そうか………もう、我慢しなくていいよな?」
「ん? なんつった?」
「いーや、何でも! そんなことより、放課後遊び行かね? 傷心の優斗くんの傷に塩を塗りたくってやろう」
「鬼かお前は。でもまぁ、パーッとカラオケでも行くかぁ」
「よっしゃ! 約束だからな?」
そう言うと親友は俺の腕に抱きついてきた。その豊満な2つのモノを押し付けて。親友の名前は天内咲良。俺の隣の席の、俺っ子の活発な美少女である。
その時、教室の扉が開き、羽奈が入ってきた。そしてどんどんこっちに近づいてきて……。
「ちょっと! 昨日告白して来といて、何ほかの女の子くっつけてんの?! 私返事してないでしょ?!」
「へーん! 早いもん勝ちだもんねーだ! 俺の優斗だからな!」
「ち、ちょっと優斗! 私の事、好きなのよね……? ね?」
ちょっと待て、何が起こってるんだ? 羽奈がなんかデレてる気がする。今までこんな感じじゃなかったんだけど? しかも、羽奈が俺の右腕にくっついてて、咲良が左腕にくっついてる。わぁ、めっちゃいい匂いする。
「……あれ、優斗? え、なんで気失ってんの!?」
「うっそマジで?! ほ、保健室!」
「私が運ぶ!」
「いや俺が!」
「私!」
「俺!」
「わーたーし!」
「おーれ!」
さっきまで悩んでいたのが嘘みたいに、信じられない状況になってしまった。幸せな気分のまま気絶したが、この先どうなるのか心配でしか無かった。
どうか、平穏な高校生活を送れますように……。
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