友人の小説の悪役に転生したので王子とは絶対に関わらないようにしたい。
短編です。初めての悪役令嬢です。
よろしくお願いします!
夢を見た。
私はごく普通のOLだった。あの日、私は酔っ払って階段からすべって…
起きてすぐにすべてを察した。あれは私の前世の記憶。
着替えて家族に挨拶、朝食を済ませた後に自室で前世と今の私について紙に書き出した。
今の私
ルーシェ・ネヴァー 15歳。子爵家の娘。小説のなかの悪役。儚い系の見た目とは裏腹に、ことあるごとに主人公たちの妨害をする。徐々にエスカレートして家を巻き込む大事件を起こし、ラストは王子に断罪されて家は没落。ルーシェは牢獄に入れられる。そして死ぬ。
前世の私
今川穂乃果 享年25歳。 OL。 この世界の元となっている小説の作者の友人。
……今世はお酒に気をつけよう。
前世の私に関して書くことがなさすぎる。悲しいことかもしれないが、今は置いておこう。問題はルーシェが悪役なことだ。
作者である友人は、悪役の最期を残酷にすることが大好きだった。ルーシェが牢獄に入ってから死ぬまでの過程は小説内には書かれていない。普通に考えると牢獄に入れられたのだから、処刑の可能性が一番高い。ルーシェの死因が何であれ、あの友人の小説なのだから残酷な最期なのは確定だ。つまり、物語と違う展開にしないと私が死ぬのも確定だ。
まずは物語の内容をしっかり思いだそう。
この小説は主人公が魔法や自分磨きを頑張って王子と結ばれるお話。王道の恋愛ファンタジーだ。時々、友人の趣味全開で王道から覇道に変わりかけていたが王道だ。
悪役であるルーシェが退場させられるのはエルフィン魔法学園入学から3年後の卒業直前。今までの悪事を皆の前で暴かれるのだ。それに逆ギレしたルーシェは王子に魔法で攻撃。王子を庇った主人公に怪我を負わせてしまう。主人公は正式に王子との婚約を発表していたため、王子に攻撃、更には婚約者に怪我を負わせたとしてルーシェだけでなく家まで罰を与えられる。
ちなみに入学は16歳になる年…そう、なんと明日だ!
「詰んだ…」
16歳を迎える魔力持ちは皆、魔法学園に入学するという決まりがある。逃げることは許されない。
ここで実は私、前世では…!!と主人公とも王子とも仲良くなれる素敵な知恵があればいいのだが、残念ながら何もない。料理などの技術もない。仕方なし。
入学前に思い出せただけ良しとしよう。
……
現在、入学式が行われている。正直退屈だ。なのでもちろん、頭の中は死亡ルート回避法についてで一杯だ。
一番生存できる可能性が高いのは、王子と主人公に会わないこと。家柄同士の繋がりもあまりない。小説ではルーシェが入学式で王子に一目惚れするのだ。私は一目惚れなんてしない。だからフラグは折れるのかもしれない。
王子経由で主人公のことを知るのだから王子にさえ会わなければ大丈夫だろう。
…あれ?意外となんとかなるのでは?
希望が見えてきた!
「では、属性測定を行います。」
アナウンスと共に生徒が1人ずつ謎の板に手を触れていく。そして板から、その人と一番相性のいい属性を言われるのだ。私も何がなんだか分からない。板って喋るのか。
ともかく、その属性測定によって判明する属性に合わせてクラスを分けるらしい。以前は属性関係なくクラスを分けていたが、何かとトラブルが発生したらしい。属性ごとに有利不利がある関係だろう。
「次、ルーシェ・ネヴァー」
「はい」
他の皆と同じように板に手を触れる。…待って、ルーシェの属性って何?主人公は確か光。まぁ主人公といえば光属性だよな。そして王子は炎。ルーシェは?
「炎」
お、終わったー!!クラスメイト確定!
もう終わりじゃ…私がいじめてなくても「ルーシェがいじめてた!」て言われるんだ…今世こそ長生きしたかったです。
……
教室ではたくさんの人が和気あいあいと交流をしている。前世で一度学生を終えた私は、もうあのキャピキャピ感は出せない。毎日教室の隅で本を読むポジションに収まるとしますか。
ん?何か落ちた音がした。恐らく誰かが私の机の横を通りかかった時に落としたのだろう。鍵だ。
この学園に通う人はほとんどが貴族の子供だ。
自宅の鍵を持ち歩くなんてことはないだろう。何か大切な物をしまっている箱の鍵かもしれない。
あぁ、あの人か。後ろ姿だけでイケメンと分かる。
「あの、落とされましたよ」
声をかけると少年は振り向いて、「ありがとう」と言い…
げっ!こいつ王子じゃん!
「落としたことに気がつかなかったよ。ありがとう。名を聞いても?」
「ルーシェ・ネヴァーと申します」
「ルーシェか。僕はノーブル・エルフィン。これからよろしく頼む」
この男こそがエルフィン国王子。王位継承権第3位。私が絶対に関わってはならない男。
いや、まだ取り返しはつく。ここは軽く挨拶に留めて、印象を薄くする。そして3年間静かに過ごす…!
「は、はい。あ、まだお渡ししていませんでしたね。こちらを」
「あぁ、ありが…」
鍵を渡した瞬間、ノーブル王子の表情が一変する。
「僕はこれを落としていたのか」
「えぇ、はい」
ノーブル王子はその場に跪いて私の手を取った。その場に跪いて私の手を取った??何が起きた?
「この鍵が見えるということは、あなたが僕の運命の相手だ。結婚してくれ」
何をいっている?王子が奇行に走ったことでクラスメイトたちの視線がこちらに集中する。やめてくれ…!
「ど、どういうことですか?」
「おっとこれは失礼。嬉しさのあまりに大切なことをお伝えし忘れていました。この鍵は王族の者1人に1つ、『生誕の祝祭』の際に大精霊から渡されるものです。鍵の持ち主と、持ち主の運命の相手にだけ見えると言われております。つまり」
最悪の予想をしてしまいながら、次の言葉を待つ。
「この鍵が見えたあなたは、僕の運命の人だ。」
友人よ、もしかしてこれ…裏設定か?
読んでいただきありがとうございました!
補足
ルーシェ(今川穂乃果)の友人は、小説の中に「運命の相手を見つける鍵がある」という裏設定を作っていました。なぜ裏設定かというと、一度も小説本編に鍵が登場しなかったからです。主人公は学園生活の中で猛アプローチの末に王子を振り向かせています。
友人は、主人公に恋愛小説とは思えないレベルの様々な試練を乗り越えさせてからハッピーエンドにする作風で有名な作家でした。なので、「運命のアイテム」を作っておきながら、あえてそれを全く登場させなかったのです。
まさか自分の友達が作品の世界に転生し、その「運命のアイテム」に翻弄されるとは思わなかったでしょう。






