【プロローグ】死神転生
あなたは死神と聞いて何を想像するだろうか──。
全身骸骨で、真っ黒のローブに鋭い大鎌。
深夜に現れては先の短い人間の命を奪い、己の寿命を引き出せば願いを叶えてくれたりする。
──とまぁこんなところだろうか。場所によっては「死神」という存在の在り方、風貌なども違ってくるだろうから言い始めては切りが無いだろう。
人間の想像により生み出された虚構物、例えば神話というものは文字通り人間が非現実的で崇高な存在を仮定して当時の人間の意識を統制するような、何かと都合良く作られたものに過ぎない。死神に至ってもそうだ。
──だが、本当に死神が存在したら。はたまたそんな虚構の産物だったはずの存在が異世界に転移してしまったら……。
これは“元”人間だった死神の二人が、魔法の飛び交う異世界の安寧を目指す為に、どんな手段をも厭わない白黒混じった物語。
深夜12時。住宅街は仄かな月明かりに照らされながら静かに眠っている。縦横に貫く道にはジージーと唸る電灯が並立する。
永遠と続く均質で空虚な空間。だが、そこには二体の“異質”が混じっていた。その正体はどちらも“骸骨”。それぞれ白と黒のパーカーを着ており、とある金持ちの家の門の前で様子を伺っている。
「えぇと……今日の仕事場はこの豪華な家だね」
そのうちの一体、白いパーカーの骸骨が家の外観をじっと見て確認する。
彼の名前は「ソーラ・ゼレネイア」
──彼は『死神』だ。
一応「相良秀太」という名前も存在したが、ソーラはその名前はとっくの昔──人間を辞めたあの時に捨てていた。
人間だったときはいくらでも思い出せる。しかし思い出すと寂しさが込み上げる。
ソーラは不幸にも恵まれた人生では無かった。両親は彼を産んで間も無く早死にした。祖父母も他界していたため叔父の家に引き取られることになったが、人並みの愛は享受されなかった。叔父はそこまで経済的に余裕はなかったため大学に行くことはできなかった。
大人になった相良が就けたのはブラックな職場。平気で部下を罵ってくる上司の監視下で毎日パソコンと向かい合う。終わる頃にはほとんどの店も閉まっており、人の姿もない。帰り道では電灯の光が寂しげに相良の背中を照らし、俯いた彼の真っ黒い陰を地面にありありと映し出す。そんな毎日だった。
ソーラは目の前に見える豪華な家を見て今更ながらふと思う。
──両親が早死にしなければ。そしてお金があれば、と。
ここまで聞けばソーラの人生は酷いものだと感じるかもしれない。社会の端っこで生きるソーラが可哀想だと感じるかもしれない。
──しかしソーラはこれまでの境遇に“感謝”をしていた。人間だったころ、数多の不幸が積み重なったからこそ、今の幸せがあるのだ、と。
そして数多の不幸は、彼をとある“運命”へと誘ったのである。
これは25歳の誕生日を迎えた日の深夜0時のことだった。
相良は左手にコンビニで買ったショートケーキを持ちながら帰り道をとぼとぼ歩いていた。静かな住宅街である。しかし相良はこの静けさの中、ぼそぼそと日頃の恨みを吐き出していた。
「誕生日だから残業手当出してやる……? ふざけんな。いつも出すのが当たり前だろ」
残業代なんてまず出ない。しかも上司は『会社の為に働くことこそ個人の幸せに繋がる』だなんて豪語しては、自分だけ偉そうに座ってるだけ。上司の顔を思い出すだけで嫌気が差す毎日だ。
「死んでくれねぇかな。あいつ」
また息を吐くように呟いてしまった。“死ね”だなんて今まで何回呟いてきただろうか。数え切れないが、その対象の内訳のほとんどは上司か会社に対してであることは分かる。
とぼとぼと歩いた先には馴染みの交差点。昔、友達と公園へ遊びに行く時ワクワクしながら赤信号を待っていたっけか。今は待つにしても苛々の念しか募らないが。
そんな事を考えてふと前を見ると青信号。力の入らない足を引き摺るように歩き出す。
「──人生ってつまらないな」
そう虚ろに呟いたその時だった。横断歩道を渡る相良の左側から強烈な光が照らされた。あまりにも眩しくて認識するまでに時間がかかったが、目を凝らして良く見ると、それは──トラックだった。止まる気配はない。
ソーラは避けようとはしなかった。その現実を快く受け止めるかのように。
──ゴシャーン。
あまりに一瞬の出来事だった。鈍い音を立て、体がふわっと空中に浮かび上がる。視線の先には美しいようで不気味な満月が浮かんでいる。
(この程度だったんだな。俺の人生……)
朦朧とした意識で過去の自分を嘲笑した。親は早いうちに亡くなり、叔父には叱責の毎日。上司にはこき使われ、一日で体力はほとんど削り取られる。相良は笑顔で目を閉じた。やっとこのクソな人生が終わったんだ……。
──終わってない……?
眼下に横たわっていたのは”屍”──自分自身だった。周りを見渡すと複数の警察官、そしてトラックの運転手らしい人間が屍を見ながら立っていた。どうやらこちらの存在には気付いていないらしい。
(じゃあ俺は幽霊か……?)
困惑しつつも己の新しい体を確かめる。白色無地のローブを着ているみたいだ。
しかし不思議なことに、なぜか左手には大きな鎌を持っている。しかもその手は完全に白骨化していた。手を何度か握ったり開いたりしたが、やはりこれは自分の手だ。
(どうなってんだ……俺の体……)
既に人間でないことは薄々分かっていた。最初に感じたのは、死神っぽいな、ということ。ソーラは死神という存在自体を否定していたが、こんな姿になってしまっている以上、納得するのに時間はそこまでかからなかった。やはり死神なのだろうか。
(それにしても死神って……)
ソーラの死神に対する印象は良いものでは無かった。生きる人間を無碍にも殺し、人間の魂を玩具のように弄ぶ存在──こんなところだった。
しかし、どうにもそんな感じがしない。それほど悪意が湧かない。人間を嬲り殺そうだなんて全く思わない。
そして、自ら死神になったからだろうか、自分がすべき事が何と無く分かる。そんな風に思案を巡らせる。
ふと上を見上げる。おかしい。先ほどみた不気味な満月がどことなく笑っている。ソーラは誘われるように満月のある方向に歩き出した。自分の死体と現場に居合わせる人々はすでに視界から消えていた。
こうしてしばらく何者かに心を奪われたかのようにゆらゆらと歩いていた。明かりを目指す夏の虫が如く。しかし次の瞬間ソーラの背後に何か鋭い重圧のようなものを感じた。自我を取り戻す。これは振り向いてはならないと咄嗟に判断できた。
「ほう、また人間が死神になったのか……興味深いものだな」
背後から重々しい声が背中に突き刺さる。はっとして振り向くとそこには巨大なホログラムがあった。
それは5mほどもある巨大な骸骨の”化け物”だった。赤く薄暗い光を全身に纏い、深々と玉座に座っている。着ているのは真っ黒いボロボロのローブだ。いかにも死神らしい。骨が見える右手には全方面に髑髏のついた杖を持ち、玉座の肘掛けからはみ出した手で地面につけている。目の奥には赤く輝く2点の光が見える。
これだけの巨体でも人間には見えていないらしい。
「あなたは……?」
「私は死神の長。再び人間が死神になったというのでな。重い腰を上げて来てみたのだ。今思念伝達を行っているのだが見えるみたいだな」
一言一言に恐ろしいほどにドスが効いている。骨全体に声の振動が伝わってくる。人間だった頃にこんなのを聞けば威圧でショック死するかもしれない。
しかし人間が死神になると伝達が行くような仕組みでもあるのだろうか。この死神の長とか名乗るホログラムは始めから自分の存在を知っているかのような口ぶりだ。まぁそんなことは今はどうでも良いのだが。
ソーラは失礼の無いようにと真っ直ぐにそのホログラムへと体を向けた。
「えぇ、見えます」
「そうか、それでは”精神世界”の存在を知っているか」
「はい、なんとなく」
死神になってからというものの、様々な事が既に知っていた事のようにソーラは感じていた。
「よし、知っているのならば、お前の脳内で精神世界を思い描いてみろ。私はそれを読み取る。死神になっているのならこれぐらい分かるだろう?」
──あぁ、繊細に分かるさ。
まずは精神世界というものの存在。別世界というよりは、現世と同じ場所に存在するもう一つの世界である。つまり精神世界と現世の地面は一体化しているとも言える。ちなみに現世から精神世界を見ることは“例外”もあるがほぼ不可能だ。
基本的に生物が死ぬと、屍から『精魂』が抜け出してくる。
知能が低く『情』を持たない生物の『精魂』は屍から勝手に抜け出してくれる。
たが、知能が高く、はっきりとした『情』を持つ生物の『精魂』は簡単には抜け出してはくれない。
例えば──人間。人間は死んでも『情』を持っている。だから、現世に未練を残していれば、そこに留まろうとするのだ。ただし、人間による儀式、もしくは死神による仲立ちが行われる事で、人間の魂は『情』と分離して『精魂』となり、この問題は解消される。
こうして分離した『情』は微微たりとも精神世界に影響を与える。
例えばこの『情』が安堵や喜びに満ちていたとき、それは精神世界へ良い影響を与える。
しかし『情』が恐怖や不安に満ちていたものだった場合、これは精神世界の汚れへと変貌する。
『情』と分離した精魂は精神世界を彷徨うことになり、この精神世界は精魂が再び“生”を受けるのに必要な準備場所となる。精魂は通常青い火の玉となるのだが、たまに異常変異を引き起こして人間らしい姿となったり、はたまた恐ろしい化け物の姿になったりする。
これは本当にごく稀のことなのだが、現世と精神世界が繋がってしまう事がある。これが例外である。精神世界に穴が空いてむき出しとなった空間──『異常空間』ができるとたまたまその空間にいた精魂は現世からも見えてしまう。そして異常空間に現れた精魂の姿こそまさに人間がいう幽霊という存在だ。
「よし、それならば死神としての仕事は分かるな……?」
「はい」
恐ろしい。ブラック企業に勤めてた時なんて仕事を覚えるのに3ヶ月はかかった。それでもソーラは死神のすべきことが手に取るように分かる。
第一に『人間の死体から精魂を分離させること』である。
通常、人間はお葬式といった儀式を通すことで『精魂』を分離させることができる。ただし、そうもいかない場面もある。例えば──身内のいない老人。こういった人間は正式な儀式が行われない可能性が高く、精魂が分離しない。そこで、死神が仲立ちを行うのだ。《セパレート・スピリット/精魂分離》という『死術』をかけてやる。そうすることで精魂を分離させることができるのだ。
第二に『精神世界の浄化』である。
恐怖や不安に満ちた『情』が精神世界を汚した場合、この汚れを取り除くのも死神の仕事だ。ちなみにこれを取り除くのには《クリーン/精神世界浄化》という死術を使う。これである程度の範囲の汚れが取り除ける。
第三に『異常変異体の正常化』である。
先述した通り、精神世界には異常変異体が発生する。異常変異体は輪廻転生のシステムに悪影響を及ぼすため、青い火の玉の状態に戻してやる必要がある。そのために死神は圧倒的な力を以て、異常変異体を滅ぼすのだ。倒された異常変異体はすぐさま青い火の玉に変わる
第四に『異常空間の閉鎖』である。
異常空間も、精神世界の流れに悪影響を与えるため、早急に封鎖する必要がある。この対処については《デリート・アノマリー・スペース/異常空間削除》という死術が有効だ。ちなみに、その逆、《クリエイト・アノマリー・スペース/異常空間作成》という死術も死神は持っているが、ほとんど使うことはない。
ちなみに『死術』というのは、死神のみが使うことを許された魔術のようなものである。死術は生命を操るものから、精神的に負荷を与えるもの、中には死神に娯楽を与えるものまである。死術は基本、精神世界でのみ使うことができる。それは死神が精神世界にのみ存在するからだ。現世に生きる人間に対して使用することはほぼ不可能なのだ。
──それにしても、どうしてこんなにも理解が早いのだろう。死神になったせいか?もともと死神の方が俺に似合っていたのか?そんな事がソーラの頭によぎる。
「よし、お前が死神であることは確証がついた。そういえばお前に名前を授けていなかったな。お前の人間の時の名前を教えてくれ」
「あぁ、えぇと、相良秀太です」
さてはてどうしようか、と化け物は腕を組む。暫く考え込んで俯いていたが、良し、と言わんばかりに頭を何度か頷くと、再び顔を上げ勢いよく席を立った。そして杖を突き出し、ソーラにその先を向ける。
「お前の名前はソーラ・ゼレネイアだ。ソーラはお前の名前から取った。ゼレネイアは、過去にお前と同じく人間から死神に転生した者の名前から取った」
「私以外にも死神になった者がいたのですか」
「あぁ。“ゼレネイア”がこちらの世界に来たのは確か今から約1200年前のことだ。その時ほぼ同時に“デストリーネ”という人間も死神へと転生した。つまりは、二人同時に死神に転生した、ということなのだよ。人間が死神になるのは本当に稀なのだが、これは興味深い事だとは思わないかね?」
悪役に似合いそうなフハハハハという不気味な笑い声をあげて、再び玉座に腰をかける。ソーラはそれを聞いて様々な思案が頭に浮かんだ。なぜ俺が死神になったのか。そして、“ゼレネイア”や“デストリーネ”とかいう死神は今も存在しているのか。
「何か聞きたい事があるのだろう?何でも聞くが良い」
ソーラの心中を察したのだろうか、そう言って化け物は温かみを孕んだ視線を送る。ソーラは思い切って聞くことにした。
「どうして俺なんかが死神になったのでしょうか」
「ふむ……。分からないな。こういうのは“選ばれた”というべきなのか?何か運命の力が働いたのかもしれないな」
「……なるほど」
ソーラは一度深く考えるように硬い顎を撫でる。
というのも、ソーラは初めはこの回答に納得できなかった。なぜこの現世に見捨てられた俺が選ばれるのか。
ソーラにとって運命というのは単なる虚像だった。例え成功したとしても、それは偶然の産物だ、と捉えるに過ぎなかった。
──しかし、この状況をソーラはきっと望んでいた。死神になってからと言うものの、精神的にもかなり楽になっていることを感じていた。そう考えると運命ということで割り切ってしまっても全く支障はなかった。
──これは運命なんだ。
ソーラは落ち着いた心持ちで次の質問を繰り出す。
「先ほどの答えは納得できました。ありがとうございます。それでは次なんですが、ゼレネイアやデストリーネという死神は今も活動しているのでしょうか」
「さぁどうだろうな。もう消えているとは思うのだが。実はゼレネイアもデストリーネも300年ほど前から行方が分からないのだ」
行方がわからない? それに消えた?
どういう事だろう。もしかすると死神にも死という概念が存在するのだろうか?
「その二人は死んだのでしょうか」
「まぁ、死神の常識に従えばそういう事になるはずだ。まず前提として言っておくが、この世界での死神は約1000年のサイクルで輪廻転生をする。死神の中でのみ、だがな」
なるほど、死神も輪廻転生をするのか。とはいえ、輪廻転生は死神の中だけで行われるから、人間に戻ることはないということか。
これは、もはや人間に後戻りはしたくないと考えていたソーラを幾許か救った。
「1000年の役目を終えた死神は通常とは違う赤い精魂として精神世界を彷徨い、また新しい記憶を持った死神に生まれ変わる。──だが、これは通常の話だ。行方不明となった彼らの件もある。何があるか分からないから気を付けたほうがいい」
ゼレネイアもデストリーネも自分と同じく元は人間だ。もしかすると自分も同じような目に合うかもしれない。
──そんな事を考えていると、化け物は切り替えるようにコホンと咳払いをする。
「さて、お前に紹介したい奴がいる。3ヶ月前まではお前と同じ人間だった死神だ」
化け物はそう言うと、その指をパチンとならした。その瞬間──
「やっほー」
背後から甲高い女の子の声が聞こえたと同時にがっしりと肩を掴まれた。一瞬びくっとしながらも振り向くとそこには黒いローブを着た“同業者”がいた。どうやら身長はこちらの方が大きいみたいだ。だいたい160cmぐらい…か?
「私の名前はキルル。キルル・デストリーネ。それでぇ、あなたの名前は?」
そう言うと、キルルは頭をカクリと横に傾ける。
──コイツはやばい、ソーラは最初そう感じた。声しか聞けてはいないが印象としては確実に地雷系。声質からすると前世は高校生、中学生といったところか。
だが、こりゃまた死神にぴったりだな、とも思った。
「俺はソーラ・ゼレネイアだ。よろしく」
「ソーラ・ゼレネイア君かぁ。いい名前じゃーん。あ、ちなみに私のこと名前で呼んじゃっていいからねぇ。死神になってからどーせ3ヶ月しか変わらないんだし」
「おう、それじゃキルルって呼ぶせてもらうよ。俺のことはソーラで構わない」
表情は分からないが、キルルが屈託無く笑っているのを感じる。侮蔑の笑顔でも作り笑顔でもない。本当に心から許しているそんな笑顔。
お互い打ち解けたムードでソーラは肩の力を抜く。しかしまだ心の中には一点の蟠りがあった。
それは“キルル”という名前。ソーラは前世で聞いた事があった。詳しくは思い出せないが、少なくとも良い印象ではない。
「キルルの人間のときの名前はなんだい?」
「えっとねぇ、若宮希瑠々っていうんだけど……わかるぅ?」
「あぁ……!」
本名を聞いてソーラは絶句した。そう、ソーラはキルルをテレビで見たことがあったのだ。
若宮希瑠々。彼女は『殺人犯』だ。
若くして人間を甚振る事を覚え、その可愛らしい顔でネット上の男どもを釣っては家に呼び込み、息の根が止まるまで“遊び”尽くす。
何よりも恐ろしいのはその身体能力の高さ。足の速さも勿論、軽々とした身のこなしで、警察五人を相手にしても簡単には捕まえられないらしい。
そして彼女はまだ10代後半だ。普通なら今頃は高校生というわけだ。
「──キルル……良く死神やってられるね。人間を殺そうとか思わないのかい?」
「うん! 思うよぉ! でも人間は無理じゃん? だからおばけを倒すので今はじゅうぶん!」
「うぇ……」
まぁ基本、死神が住む世界は精神世界。死神が現世に住む人間に対して直接手を下すことはできない。
とはいえ、その代わりに異常変異体がこの子に弄ばれてしまうというのもまぁ……可哀想な話ではあるよ。
しばらくして、眠っているように静かにしていた化け物がふわりと立ち上がる。
「さて、それでは私はそろそろ失礼する。仕事場となる家は私が直に思念伝達で伝える。何かあれば思念伝達で呼んでくれ」
じゃあ、と言うと化け物のホログラムは一瞬のうちに闇に吸い込まれていった。
この化け物へのソーラの評価としては、とても面倒見の良い上司というところだった。親近感が湧くと共に尊敬の念を抱く。職場の上司とは比べ物にならない。
「さて、仕事行きますかぁ!」
先ほどの余韻をかき消すかのようにキルルはこちらを向いて合図した。そして再び体を前に戻して大鎌を道の先へと向ける。大鎌の指す先には今にも顔を出しそうな太陽の明かりが広がっていた。
何度も言うが、俺はこの結果をきっと待ち望んでいた。そして、これが俺の運命ならばやる事はたった一つ。
それは、「この世界の秩序を守る」ということ。
己の屍と周りを囲む人間たちを背にしてソーラは歩き出した。
読んでいただきありがとうございました!ブックマークや評価をしていただけると励みになります!