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理由




 宣言通り次の日も魔術師の塔にやってきた。


 今日もイヴォンが後ろをついてきている。もちろん理由は護衛のためだ。

 イヴォン曰く、魔術師達が私に失礼なことをしないよう目を光らせておくためとのこと。

 どうしてそんなに張り切るのかさっぱりわからないけれど、どうせなら魔術師達がアシルを虐めないように見張っていてほしい。


「今日は昨日行けなかった階をまわりましょう」


 アルベリク卿の案内のもと塔の中を見て回る。

 昨日と違って普通の速度で歩いている。

 やっぱりあれはわざとだったようだ。





 六階から九階まで順に案内してもらった後、昨日綺麗にした応接室で休憩することになった。


 なんでも最近の研究内容について説明してくれるらしい。

 私は魔術師の研究には興味ないのだけど、魔術師のことを知るためという言い訳を使った手前断ることができなかった。

 ちょっとめんどくさい。

 でもこれもアシルとの会話の種になるかもしれないし頑張って聞かなければ。



 イヴォンがいれてくれた紅茶を飲みながら魔術師の研究内容とやらに耳を傾ける。

 魔物の爪や角から魔力を取り出す研究やそれらを武器として加工する研究、魔力によって個体を識別するための研究、新しい魔術の研究。

 どれも大切な研究だとわかるのだけれど、どうやったって説明が頭に入ってこない。


「ところで、例のコボルトの件は騎士団の方ではどのような対応をなさるのですか?」


 説明が一段落ついたところでアルベリク卿は雑談のついでというように軽く切り出した。

 授業の休憩として話すのならもっと楽しくて頭を使わない内容の話題にしてほしい。

 難しい話続きで頭が疲れてしまっているのだから。


「……昨日も言ったけれど、他に似たようなコボルトがいないか調査をしているわ。今の所そのようなコボルトがいたという報告は受けてないわね」

「その他には?」

「特に何も無いけれど……」

「そうでしたか。今回のコボルトの件は個体差で片付けることはできないと思っております。あれらは偶然生まれたわけではなく、何らかの影響を受けて生まれたのでしょう。原因によっては他の魔物にも同じことが起こらないとも限りません」

「けれど調査範囲を広げるにはあまりにも情報が少ないわ。コボルト以外の魔物まで調査すると人手が足りない……」


 コボルトの生息地域はただでさえ広いのだ。

 普段の業務を行いながらの調査は騎士達にとってかなりの負担となる。

 最近はコボルトの異常以外にも魔物の活動が活発になっている地域がいくつかあるのだ。

 調査にかまけすぎていると被害が拡大してしまう。


「件のコボルトが出たのは国境沿いの街道でしたな。まずはその周辺を調査しましょう」

「……あの辺りで大々的に調査をするとなるとノルウィークとの交渉が必要になるわ」


 魔物との戦闘でもし騎士達が国境を超えてしまったら、追いかけていた魔物がノルウィーク側に逃げてしまったら。

 そしてそのせいでノルウィークの民に被害が及んでしまった場合こちらが責任を問われることとなる。


「本当にその必要があるのかしら?」

「ええ。例のコボルトのような魔物はノルウィーク側にも出現している可能性があります。こちら側が申し出ればノルウィークも対応するでしょう」


 例のコボルトが出現したのは国境からたった200メートルしか離れていない場所だ。

 確かにノルウィーク側にも被害が出ている可能性は高い。

 魔物に国境などという概念はないのだ。

 人が通りかかれば襲うだろう。


「もちろんその可能性は騎士団も考慮したわ。けれどコボルト達が逃げた先はノルウィーク側ではなくベルタ川近くの洞窟だった……。もちろん周辺はくまなく調査したし、現場に魔術師も派遣したはずよ」


 仮にノルウィーク側にも被害があったとしても、それが同一のコボルトの仕業であるのならもう終わった話だ。

 件のコボルト達は六頭全て討伐済みなのだから。

 そして周辺にはそのコボルトのように知性を持った魔物はいなかった。


 短期間ではあるがそれなりの人数を動員して調査したのだ。

 可能性はゼロではないけれど、限りなく低いと思っている。


「ええ。当然手に入れたコボルトの死骸は確認しております。調査した魔術師の話によると洞窟の中にはコボルトが巣にしていた形跡が残っていたそうです。けれどそこにはそれだけでした。コボルトが変質するような要因は何一つ見つかっていません」

「つまり他の場所で何らかの異変が起こってあれらのコボルトが生まれたと……。アルベリク卿はその異変を突き止めるためにノルウィークと協力して調査すべき、という考えなのね」

「その通りでございます。今回は低級魔物であるコボルトだったために被害はほぼありませんでした。が、中級以上の魔物が知性を持つようになったとしたら我が国の戦力で対応出来るかどうか……。可能な限り早くノルウィークと協力体制を築くべきでしょう」


 もしナフィタリアで対処出来ない魔物が出現した場合、ノルウィークに助けを求めなければならない。

 そうなったときどれほどの見返りを要求されることやら……。

 事前にノルウィークとこの件における協定を結んでいれば不利になる恐れはない。

 むしろ早く動いたことによって恩を売ることができるかもしれない。

 彼の言葉は確かに一理ある。

 しかしそれだけでは国を動かせない。


 国境付近に騎士や魔術師を派遣するのだ。

 一歩間違えばナフィタリアの立場はもっと悪くなる。


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悪役令嬢は皇子様からの婚約破棄を望んでいたはずなのに script?guid=on
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