捜索2
森の奥へと進んでいく。
未だに魔物とは遭遇していない。
たしかこの辺りはコボルトやゴブリン、アルミラージなどの生息地だ。
調査隊によって討伐されたか危険を感じて身を隠しているか……。
いずれにしても魔物が居ないことは都合がいい。
程なくして開けた場所に出た。
いかにも何かが出てきそうな場所だ。
日本のゲームならきっと中ボスが出てくるだろう。
空き地の中央に立つ。
魔道具の針は……ぐるぐると回っている。
どうやらここに何かがあるようだ。
「シャルロット様、ここには何も無いようです。少し戻ってノルウィーク軍を待ちましょう」
「不安なら着いてこなくてもいいのよ。私は一人でも行くわ」
「それはなりません。何があるのかわからないのです。万全の体勢で挑みましょう」
「その時間はないの。…………石が不自然な場所にあるわね」
イヴォンに答えながら周囲を探索すると、空き地の隅に大きめの石が置かれていることに気がついた。
空き地を囲うように五箇所、まるで何かを封印しているかのように置かれている。五芒星だろうか。
日本のゲームであれば、この石を全て破壊すれば道が開かれる。
この世界ではどうだろうか。
剣を抜きいつものようにコマンドを選択する。
バチバチと弾けるような音とともに剣が雷に包まれた。それを振って斬撃を飛ばし石を破壊する。
壊しても目に見える変化は無い。
「シャルロット様、何を……?」
怪訝そうに声を掛けてくるイヴォンを無視した。
どうせ説明なんてできない。
ひとまず全て壊してみるか。近くにいる仲間に当たらないよう気をつけながら石を壊していく。
三つ目の石を破壊したところで異変は起きた。
空き地の中央の空間が割れ、下級魔物が溢れ出てきたのだ。
「なっ……! シャルロット様、一度引きましょう! 大隊長がこちらに向かってきてくれているはずですから合流して……」
「必要ないわ。みんなは下がっていて」
剣を構えてイヴォンに答える。
こいつらが出てきたということは、きっと私の推測が当たっていたのだ。
だとしたらこれらを殲滅して早くアシル達の元へ向かわなければならない。
アシルも皇子も雷は神の力だと言った。
人智を越えた力なのだと教えてくれた。
けれど私は知っている。
雷は電気であると。電気とは電子が移動することで、神秘などでは無く、人が簡単に扱えるものなのだと。
そして生物の身体は水分が多く、電気を通す。
先程出てきた魔物はコボルトとゴブリン、アルミラージ。
人間と同じ身体構造をもつ魔物達だ。心臓があり、身体中を血液が巡っている。
電気は効くだろう。
剣を振り雷の斬撃を魔物の群れに打ち込む。
斬撃を受けた魔物はもちろん、その魔物に触れたものも感電して倒れていく。
困惑している魔物の群れに飛び込み剣を振るう。
魔術を使わなかったときよりも魔物を倒すのが容易だ。
魔物にも血が流れ、脳があり筋肉で身体を動かしている。電気は火や氷より何倍も効果的だろう。
程なくして出現した魔物の掃討が終わった。
呆気ない。
この『神の力』とやらをもっと上手く使えていたら皇子は私の到着を待ってくれただろうか。
戦力として見てくれただろうか。
……今更こんなことを考えても仕方がない。
「シャルロット様……」
「イヴォン、離れてて。少しでも雷に当たると貴方も危ないわ」
彼が下がったのを確認して残りの二つの石を破壊する。
空間が歪むような気持ちの悪い感覚の後に、目の前に洞窟が現れた。
「なんで……さっきまで何も無かったし魔力なんて感じなかったのに……」
後方にいた魔術師が困惑したように呟いた。
魔術師の塔にも小さく見えるような結界をはっているはずだけれど、また違うものなのだろうか。似たような魔術に見えるのに……。
まあそんなことは考えても仕方ない。
洞窟の中に足を踏み入れる。
「シャルロット様、お待ちください!」
イヴォンが私の手を掴んだ。
いつもならこんなこと絶対にしないのに。彼も動揺しているのかもしれない。
「貴方達はここに残りなさい。大隊長達が来て準備が整ってから中にはいるのよ。私は先に行ってアシル達を探しているわ」
先程の雷の魔術を使うのなら近くに誰もいない方がいい。
イヴォンは大切な幼馴染だ。失いたくないし怪我をさせたくもない。
それに私についてきてくれた騎士や魔術師も。
彼らにも大切な人がいる。彼らを大切に思っている人がいる。
先程のようにイヴォンの手を振り払おうとしたけれど、手をしっかり握られていてそれは叶わなかった。
「そのようなことはおやめ下さい。すぐにノルウィーク軍が来ます。それまで待ちましょう」
「嫌よ。今行けばまだ間に合うかもしれない。もう後悔したくないの」
「なりません。貴女はナフィタリアの王女なのです。貴女の身に何かあれば国の一大事です。自暴自棄になるのはおやめ下さい」
「……私は冷静よ。泣いてもないし諦めてもいないわ」
早くアシルを探しに行きたかった。
もしかしたらまだ助けられるかもしれない。
こうやって言い合っている間にも苦しんでいるかもしれないのだから早く行かないと。
「いいえ、冷静ではありません。何が待ち構えているかわからない場所に一人で乗り込むなど、普段の貴女なら絶対にやらないことだ。上級魔物が出てきたらどうするのです? 一人では倒すことはできませんよ」
「それは……そうだけど、でも……」
「シャルロット様が焦って生命を落とすようなことになればアシルは悲しみます。体勢を整える時間くらいあいつも許してくれるでしょう。だから落ち着いてください」
けれど私が立ち止まっている間にも時間は進むのだ。
アシルや皇子がどうなっているのかわからないのに。
「でもっ……じっと待ってるだけなんて出来ないわ。アシル達が危ない目にあっているかもしれないのに」
洞窟の中に入らなければ何も確かめられない。
入口で立っているだけでは何にもならない。
「王女殿下、私達に任せていただけないでしょうか」
声をあげたのは後方にいた魔術師だった。
「火の魔術を使えば洞窟内部を照らせます。どの程度奥まで見えるかはわかりませんが、ただ待つよりは得られる情報も増えるかと思います」
火球を進ませて暗い洞窟の奥を照らすのか。
それで確認できるのは数十メートル程度だろうが、それでも何もやらないよりはマシだ。
「お願いするわ」
少しでも時間を無駄にしたくはなかった。





