祝福
皇子は私の左手をまじまじと見つめている。
なんだか嬉しそう……な気がする。
私の祝福の痣は剣が二本交差したものだ。
この形に何の意味があるのだろう。
「剣の祝福は単純でわかりやすい。この剣の本数を見れば才能がわかるんだ。シャーリィは二本だね」
「それは良いの?」
「かなり良い。今のノルウィークには女性で二本の剣の痣を持つものはいない。男性も含めるとそれなりにいるけれど、それでも珍しいことには変わりないからね。一番いいのは三本の剣で、その痣をもつものはノルウィークでは第四皇子のオズワルドだけだ」
ということは私は剣の祝福を持ったものの中でも才能がある方なのか。
嬉しい。これを国王陛下が知れば私のことを見直して下さるだろうか。
「次はアシルの祝福についてだね。魔の祝福は剣より複雑でまだわかっていないことも多い。痣の形によって得意な属性が変わることと形状の複雑さで魔力の量が変わることがわかっている。アシルの痣は渦巻状の炎だから祝福持ちの中でも魔力が多い方だ。魔力は使えば使うほど多くなるから必ずしも痣の通りとは限らないけど……」
皇子の痣は雫型で、アシルの痣と比べるとシンプルな形をしていた。
彼が今の立場を手に入れるためにどれだけ努力したのかはわからない。けれどその努力は誰もができるものではないのだろう。
「祝福持ちは大きく二つのタイプに分けることができるんだ。吸収が早い学習型と何でもすぐにできる天才型。話を聞いた限りではシャーリィは僕と同じ学習型だね」
「吸収が早いと何でもすぐにできるは同じように思えるけど違うの?」
「学習型は習わなければ習得できないんだ。天才型は習わずとも勝手に習得していく……。ノルウィークでは天才型の方が優れていると言われている。先程のオズワルドがこの天才型なんだ」
第四皇子の話をするときに彼は少しだけ眉根を寄せた。
皇太子の座を争う相手だから色々思うところがあるのだろう。
「アシルも天才型だと思うよ」
「でも俺は魔術以外のことは何もできないよ」
「けれど魔術に関しては何でもできるだろう? 大して習わずに魔術が使えたり、説明を聞く前に理解できたり……。心当たりはないかい?」
「ああ、確かに……」
「私は剣以外のことも比較的早く上達するのだけれど、これも祝福と関係しているの?」
「そうだね。ノルウィークではあまり重視されないんだけれど、学習型は他の分野に影響がある人もいるんだ。僕はそのおかげで剣でも戦える。もちろんオズワルドにはどうやっても敵わないけれどね」
皇子は自嘲気味に笑った。
ところで皇子はいつまで私の手を握っているつもりなのだろう。
剣の祝福の話はとっくに終わっているはずなのに。
あれ、これなんか恥ずかしくない??
皇子が平気そうな顔しているからなんだか余計に恥ずかしい。
「ということで天才型のアシルはきっかけさえあれば勝手に上達していく。学習型のシャーリィは先達に学ぶことで上達していく。…………先程の情報に対する対価はこの程度で充分だと思うけど、どうかな」
「もちろんよ。本当に助かったわ。ありがとう」
「このことは正式に記録に残さなければならないだろうから、調査討伐が終わったら改めて話す時間をもらえるかな」
笑顔で頷く。
まだ手は握られたままだ。話は終わったのに離してくれる気配がない。
振り払うのは論外だし、尋ねるのは……私が皇子に触れられるのを嫌がっていると思われかねないから駄目だ。
隣にアシルがいるのに他の男性といつまでも手を繋ぐのは嫌だ。でも皇子に嫌な思いをさせるわけにもいかない。
どうすればいいのか。
自然に手を離してもらうには……。
そうだ、魔術の話をすればいい。
「そういえばさっき雷の魔術を見たいと言っていたわよね」
「見せてくれるのかい? 本当に?? あ、でも……それこそ魔術の機密に触れることになるから……。もう既に見た後だけど、さっきは僕もうっかりしてたというか周りが見えていなかったというか……」
一瞬目を輝かせた皇子は、しかし頭を抱えながら独り言を呟きはじめた。
そんな状態でもまだ手を話してくれない。
これもうっかりなんだろうか。
「雷の魔術ってそんなに凄いの……? アシルは半日で使えるようになっていたけれど」
「凄いなんて言葉では表せられないよ。雷は神の力なんだ。人間では扱うことの出来ない神秘なんだよ。そもそも雷という現象を想像することが不可能だ。遠目で見ることしかできないしすぐに消えてしまうし……。シャーリィはどうやって雷の魔術を使えるようになったんだい?」
「試しに使ってみたら使えただけだからよくわからなくて……」
「試しに使う……? すごいな。シャーリィの祝福は剣なのに……」
皇子はまた私の左手を見つめだした。そして今度は痣のある部分を指で触っている。
なんだか余計に酷くなった……!
どうしよう。この状況で皇子を止められる人はいない。
彼が飽きるのを待つしかないのか。
「アシルはシャーリィの魔術を再現したと言っていたけれど、どうやって再現したんだい? 先程僕も観察していたけれど雷の性質はわからなかった。何か特別なことをやったのかい?」
「ううん。俺はシャルロット様に雷を出してもらって触ってみただけだよ」
「雷に触った……?」
「もちろん弱めてもらったけれど。体感すればイメージしやすいと思って。でもそのせいなのか俺の雷の魔術はシャルロット様のより弱いんだけど……」
アシルは笑顔で答えているが皇子の顔は若干引き攣っている。
あの雷を見たらそうなるのもわかる気がする。
触ると痛そうっていうか死んでしまいそうだもの。
実際に昨日は私の方が怖がってなかなか出来なかった。
人間の身体の六割くらいは水分でできてるというし、もし彼に何かあったらと思うと恐ろしかったのだ。
なのにアシルは嬉しそうに私に迫ってくるし何を言っても諦めてくれなかった。手もずっと握られたままで……とにかく大変だった。
日が落ちる頃にようやく出力を下げた状態の雷の球を出すことが出来るようになったけれど、それすら強すぎたみたいでアシルの腕に火傷を負わせてしまった。
思い出すだけでも胃が痛くなる。
皇子は私の左手を強く握りしめた。
そして期待に満ちた目で私を見つめる。
「シャーリィ……君さえよければ僕にも」
「む、無理よ! そんなこと出来ないわ……」
ノルウィークの皇子に怪我を負わせてしまったら、例え彼から言い出したことであっても大変なことになってしまう。
あまりにも恐ろしくて必死に首を横に振った。





