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漏洩


 皇子はポケットから小さな赤い宝石を取り出した。


「魔術は鉱石に保存することが出来る。その保存量は鉱石の特性や質によるけれど……希少で価値の高いものがより多く保存できると考えてくれて問題ない。このルビーには火の魔術が保存されている。小さいからそんなに量は多くない」


 

 彼がそのルビーを握りしめると小さな火の玉が出てきた。


「こんなふうに使える。この魔術を保存した宝石を使ってより使いやすくしたものが魔道具だ」

「ナフィタリアは今魔道具を作ることに注力しています。アルベリク先生がその方針を決めたんだけど、これは俺が現れたからなんだって。最終的に俺と同等の魔術を出せる魔道具を沢山作って戦力を補いたいらしい」

「それは……いや、確かにナフィタリアの魔道具の技術は素晴らしいけれど、祝福持ちに比肩する程の魔道具なんて作り出せるとは思えないな」


 アシルの言葉に皇子が反論した。


 訓練場の片隅で私は今二人の講義を聞いている。

 講義というか二人の議論というか……。


 教えられるのは基礎の部分とノルウィークの魔術だけだから、と皇子の提案でアシルも一緒に教えてくれることになったはずなのに。

 どうしてこんなことをしているのだろう。



 最初は仲良く教えてくれていたのに途中から脱線して私のことを忘れて二人の議論がはじまる。これで三回目だ。

 皇子は私と話す口実が欲しくて提案してくれたのだと思ったのだけれど、実際はアシルと話したくて言い出したのかもしれない。



 この勘違いは物凄く恥ずかしいしいたたまれないし惨めだ。

 仕方ないので私は入口付近にいたイヴォンを呼び寄せた。

 一人で立っているより一緒にいた方がマシだと思ったからだ。

 けれど二人で立っていても虚しさはあまり変わらない。


「今はそうだね。でも回路上に魔力を増幅させるための宝石を置くことで従来の魔道具よりずっと高性能な魔道具を作れるようになったんだ。この技術は最近発見されたものだから、もっと研究して精度を高めればそう遠くないうちに実現できるはずだ」


 そういえばアルベリク卿がそんな話をしてくれていたな。難しくて細かい部分は全然覚えてはいない。

 けれどそれは最新の研究内容ではなかったか。


「精度を高めればと言うけれど、そもそも宝石にも限界はある。増幅させてもその限界を超えてしまえば魔力が暴走して大きな事故が起こってしまうだろう」

「うん。確かにそれは課題だね。これまでは宝石だけを魔道具に使っていたけれど最近は魔物の爪や」

「アシル! それ以上は駄目」


 慌てて制止する。

 けれどもうほとんど話してしまった後だ。


「宮廷魔術師の研究内容は国家機密よ……」


 アシルは真っ青な顔で固まってしまった。

 騎士団のメンバー相手なら笑ってなかったことに出来るけれど、さすがに国外の魔術師に話したことは揉み消せない。揉み消してはいけない。


 詳細は喋っていないけれど、概要だけだったとしても魔術師ならば様々なことを推測できるだろう。

 魔道具の研究は各国との戦力差を埋めるために国として進めている研究だ。

 ここにかなりの予算と時間をつぎ込んできた。そこで得た成果を漏らすことは罪となる。


 これは止められなかった私にも責任がある。

 アシルは魔術のことになると他のことが見えなくなるのだと知っていたし先程から話に夢中になっているのはわかっていたのに。


 後悔しても時間は戻らない。

 これをどう処理するかを考えなければ。


 …………何も思いつかない。


 周囲の空気がどんどん重くなっていく。


 ええと、とりあえず皇子の口止めをして……でもそんな事しても黙っていてくれる保証は無いし情報を漏洩したという事実もなくならない。

 何かいい方法はないものか。


 


 悩んでいると皇子が申し訳なさそうに小さく息を吐いた。


「……これは僕にも責任があるね。ではこうしよう。ナフィタリアの研究内容を教えてもらった対価としてノルウィークの研究内容も開示する」

「でもそれは……」


 確かに一方的なものではなくなるけれど、それは情報の価値が等価である必要がある。

 魔道具の研究はナフィタリアにとって最も重要で価値のある研究なのだ。それと等価の内容を教えて貰えるわけがない。


「ノルウィークでは魔道具は重要視されていないんだ。祝福持ちの魔術師が多いからね。だから今僕が聞いた内容は今のノルウィークにとっては大きな価値はない。けれどナフィタリアにとって価値があるのはわかるよ。対価として差し出すなら同様のものがいいだろう」


 皇子は左手で顎に触れ、少しだけ考え込む。

 そんな都合のいいものなんてあるわけがないのに。


 しかし彼は直ぐに口を開いた。


「僕からは祝福の研究について教えるよ。これはノルウィークにとっては最も価値があり、これまでに多くの時間と予算を費やして研究してきたものだ」

「その研究内容はナフィタリアにも価値があるものよ。等価にはならないわ」

「問題ない。僕が今から君達に教えるのは祝福の痣の意味と祝福の特性だ。ノルウィークではそれを教育やランク付けに使っている。祝福持ちが二人しかいないナフィタリアには今は必要のない情報だ」


 皇子は優しく微笑んでくれた。


「まず剣の祝福の意味について教えよう。シャーリィ、手を貸してくれるかい」

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悪役令嬢は皇子様からの婚約破棄を望んでいたはずなのに script?guid=on
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