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案内



 食事が終わり皇子に王宮内を案内することになった。

 イヴォンは相変わらずかなり後方を歩かされている。この距離では私達の会話を聞くことはできないだろう。


「シャーリィは普段はどこで訓練をしているんだい?」

「王宮の端に訓練場が二箇所あるの。今から向かう第一訓練場でいつも訓練をしているわ。最近はそこで騎士団と魔術師団の合同訓練をしていたの」

「ナフィタリアは騎士と魔術師の仲がいいんだね。羨ましいな」

「そうなの……と言いたいところだけど、本当は仲は良くないのよ。今回のことがなければきっと会話すら満足にできなかったわ」


 それでも協力して国のために努力してくれている。

 今はそれで充分だと思う。


 全てが終わったら改めて両者の関係改善に尽力しなければならない。


「そういえば私の動きを見ると言っていたけれど、どうするつもりなの? 騎士団長との模擬戦を見せればいいのかしら」

「僕と手合わせしてもらうつもりだよ。それが最も君の力を知ることができるからね」

「アルと……? でも貴方は魔術師なのでしょう?」

「ああ。でも僕は剣も使える。ノルウィークでは魔術より剣の方が価値があるんだ。剣の祝福を持った騎士たちと毎日訓練しているから君とも対等に渡り合えるはずだよ」

「そうなのね……」


 彼のその言葉に落胆してしまった。


 剣と魔術の両立。それは私が目指していたものだ。

 既にノルウィークにそれを実現している人がいるなんて。

 しかも彼は剣の祝福を持ったものと対等に渡り合えると言った。一方、私の魔術はアシルの足元にも及ばない。

 比べるまでもない。

 皇子は私の……そう、確か上位互換というやつだ。

 杏奈の時に覚えた言葉がこんなにピッタリな人に出会うとは。


 彼は私に似ている。

 しかしその能力は私よりも数段優れているようだ。

 どうしたって落ち込んでしまう。私に価値がないのではないかと不安になる。

 これ以上努力しても意味が無いのではないか……。

 




 駄目だ。落ち込んでいても何も変わらない。


 彼は私と同じ発想で結果を出したのだ。

 だから私も頑張ったら彼のように周囲に認められる王女になれるかもしれない。


 まずは彼に認めてもらえるような動きをしよう。


「ここを抜ければ訓練場へ着くわ」


 いつもの訓練場へ向かう道を進んでいく。

 気は重いけれどきっと大丈夫。私はこれまでずっと頑張ってきたのだから。


 程なくして訓練場の入口に辿り着いた。




 ノルウィークの援軍が来たから今日は騎士団の訓練はお休みのはずだ。そこには誰もいないはずだった。

 けれど中央に人影がある。

 モーリスかと思ってよく見ると、その人影は宮廷魔術師のローブを身につけていた。そして黒い長い髪をひとつに括っている。

 アシルだ。




 心臓が跳ねる。

 皇子は私の事を好きだと言った。けれど私はアシルの事が好きだ。そしてそれを隠したままここにいる。

 嘘をつき続けるための心の準備がまだ出来ていない。


「あれは……魔術師だね。彼はここで何を?」

「えっと、訓練……かしら」

「ただ立っているだけに見えるけれど……」


 アシルは私達に背中を向けているから何をしているのかはわからない。そして彼は私達に気が付かない。


 ここで鉢合わせしてしまったのだからアシルを皇子に紹介するべきだろう。

 彼が平民だと伝えて、皇子に失礼がないように私が間に入って……。


 そんなことを悩んでいるとアシルの身体からなんとなくぞわぞわとするものが発せられていることに気がついた。

 それの正体はわからない。

 けれどなんだかすごく嫌な感じがする。


「確かに訓練をしているようだね。……魔力の量が多いようだけれど、彼がナフィタリアの祝福持ちの魔術師かな」

「え、ええ」


 私が頷いた直後、アシルの頭上にバチバチと音を立てて青白い光の球が出現した。よく見るとそれは電気の塊のようだ。


 昨日私が使った雷の魔術、もう使えるようになってる!!!

 あれだけ凄いって言ってくれたのに、半日程度で使えるようになるんだ……。

 もしかして雷の魔術って誰も使わなかっただけで、案外簡単に使えるものなのかも。


 胃のあたりがずーんと重くなる。

 やっぱり私駄目かもしれない。


「あれは……! シャーリィ、ちょっと彼に話を聞きたいんだけどいいかい?」


 声を上げたのは私の隣に立っていた皇子だった。

 視線をあげると嬉しさを堪えきれないというように頬を紅潮させ目を輝かせている。

 私が首を縦に振ると皇子は更に嬉しそうに笑った。そして私の手をとる。


「早く行こう。ゆっくりしている時間が勿体ないよ」


 皇子は私の手をひいて足早に進んでいく。

 まさかこんなことになるなんて。心の準備が全然できていない。


 ああ、もうどうにもならない。


 アシルの立っているところまであと5メートルの位置まで近付いて皇子はようやく足を止めた。


「アシル」


 私が名前を呼ぶと彼はゆっくりと振り返った。

 濃い蜂蜜色の瞳が私と皇子を捉える。


「シャルロット様、どうしてここに……?」

「ノルウィークのアルフレッド皇子に王宮を案内していたの。アル、紹介するわ。彼はアシル、ナフィタリアの祝福を授かった魔術師よ」

「はじめまして。僕のことはアルと呼んでくれ。さっそくだけど先程の魔術をもう一度見せてくれないかい?」


 皇子はいつぞやのアシルと同じようにキラキラした目で魔術を見せるよう要求した。



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悪役令嬢は皇子様からの婚約破棄を望んでいたはずなのに script?guid=on
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