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皇子4


 皇子と共に来た援軍は約500人。

 そのうちの半分は国境を越えず、ノルウィーク側で待機しているらしい。

 そして待機している兵士には祝福を持った騎士5人と魔術師4人が含まれる。


「まずは他に変質した魔物が出現していないかを調べる必要がある。連れてきた残りの半分の兵士とナフィタリア側の兵士を明日調査に向かわせたい。僕以外の祝福持ちは国境付近で待機しているから仮に強力な魔物が出ても対処できるだろう。今回は大隊長を二人連れてきている。ノルウィーク軍については彼らがうまく纏めてくれるだろう」

「えっと……アル……は明日は向かわれないのですか?」


 愛称で呼ぶようにと言われたが、親しくもない男性、しかもノルウィークの皇子をそのように呼ぶのは慣れない。

 呼び方にあわせて砕けた口調で話すべきなのかもしれないけれど、それで気分を害されても困るしもう少しゆっくりと関係を進めていきたかった。


「ああ、僕は例のオーガを少し調べたいんだ。それに君と……ナフィタリアには祝福持ちの魔術師が一人いるんだよね? もしもの事を考えて二人の動きを見ておきたいんだ」

「わかりました。その魔術師に伝えておきます」


 アシルの存在は彼にはまだ告げていなかった。

 けれど私の指定した祝福持ちの人数で推測できたのかもしれない。


 それにしても皇子が直々にアシルの実力を確認することになるとは。さすがに無言で押し通すのは無理だろう。

 急いでイヴォンに最低限の教育をお願いするしか……ううん、一朝一夕にどうにかなるようなことではない。

 ここは正直に理由を話して私が間に入って会話するしかないだろう。


「話さなければならないことは以上でよろしいでしょうか? そろそろ昼食の時間です。そ、その、アル……は国王陛下と一緒に昼食をとるのですよね」

「そのことなんだけど、昼食を君と二人でとることはできないかい?」


 彼の言葉に少し驚いたが、食事を共にすることは友好を深めるのにうってつけだ。

 それに彼の考え方を知れば理解も深まる。

 この先のことを考えると彼との時間を極力大切にするべきだ。


「かしこまりました。そのようにします」

「……シャーリィ、僕と話す時はそのような畏まった話し方はしなくていい。友人との会話にその話し方は相応しくないだろう」

「ですが……いえ、そのように……次から気をつけるわ」

「ああ、そうしてくれると僕も気が楽だ」


 嬉しそうに笑っているが彼との会話はどうしたってノルウィークという大国の存在がチラついてしまう。

 皇子と王女なのだ。利害関係のない友人にはなれないだろう。


「ところでシャーリィ、もう一つ君に話さなければならないことがあるんだ」

「ええ、何かしら」


 少し困ったように左手で髪に触れた皇子は、深呼吸の後に真剣な表情で私を見つめた。




「僕は…………君のことが好きなんだ」

「………………はい?」


 突然の告白に理解が追いつかない。

 今私は何を言われた??

 好き? ノルウィークの皇子が私のことを好き??






 その告白をナフィタリアの王女(わたし)は決して断ることができない。


 けれど私が彼の妻になることは難しいだろう。彼は皇太子の座に最も近いと言われている皇子だ。

 私がその立場を得るには国が弱すぎる。



 しかしノルウィークは一夫多妻制の国だ。

 だから彼が皇太子妃として相応しい誰かと結婚した後に第二妃として結婚することは可能かもしれない。が、それは何年先になるかわからないし彼が心変わりしない保証もない。


 それよりも国はどうなるだろう。

 もし私が彼の妻になれたとして、もし彼が皇帝になったとしたら。

 彼はナフィタリアとノルウィークを統合すると言い出さないだろうか。

 口実としては申し分ないはずだ。私はナフィタリアの継承権一位の王女なのだから。


「お互いの立場上、このように想いを告げるのは狡い行為だというのはわかっている。けれど……想いは滲み出てしまうものだ。僕の気持ちを察した君や周囲の人間が僕に忖度して……君の想いを捻じ曲げることがあってはならないと思っている」


 皇子は言葉を選ぶようにゆっくりと話した。


「だから最初に言っておくよ。僕は君のことが好きだけど、君がそれに応える義務はない。君の気持ちが今後の外交に影響を及ぼすことはないから安心してほしい」


 彼は優しく微笑んだ。

 その言葉を……私は信じるしかなかった。


「アル、私は……」

「まだ言わないで。心の準備が出来ていないんだ……。正直言うと……僕がこうやってここに居るのは下心有りきのもので……。君を助けたら、その、好きになってもらえるんじゃないかという打算があって……でもだからといってわざと君を危険な目に合わせたり辛い選択を強いたりするつもりはなくて……」


 皇子は国王陛下に名乗ったときとはまるで別人のようだった。

 顔を赤くして早口で言葉を並べ立てる。その様子は大国の皇子らしいとは決して言えない。


「だから待ってほしい。もう少し共に過ごして、僕のことをもっと知ってから…………。だからしばらくは告白のことは忘れて普通に接してほしいんだ。そうでないと……」


 彼の言葉はそれ以上続かなかった。

 苦笑してため息をつくその姿に、先程の告白は嘘では無いのだと、私をからかっているわけでも嵌めようとしているわけでもないのだと思えた。


「その気持ちは……いつから……?」

「二年前、君がノルウィークに来たときに。……僕の一目惚れなんだ」


 彼はその短い時間で抱いた恋心を二年間もずっと引き摺っていたのか。



 彼の境遇も想いも私に重なってしまう。

 私もあの一日の出会いをずっと大事に抱えて生きてきた。


 だから私と話している間ずっと嬉しそうにしてたのか。

 だから気を遣わないでと言ったのか。

 だから手紙を差し替える提案をしてくれたのか。


 彼の気持ちを知れば全ての言動に納得がいく。


 そして似ているからこそ彼と私の決定的な差が浮き彫りになる。


「アルは誠実なのね」

「…………違うよ。君に好かれたくて誠実な人間を装ってるだけだ」




 だとしても、立場が弱い私の事を想って行動してくれている。

 私はアシルに何も伝えていない。


 王女が平民に恋心を抱いているのだ。

 彼の本心とは別の理由で私の想いに沿う判断をする可能性だってある。

 私はアシルのことを好きだと言いながら、自分の事しか考えていなかった。


 私は人としても王女としても未熟だ。

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悪役令嬢は皇子様からの婚約破棄を望んでいたはずなのに script?guid=on
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