魔術3
魔術の訓練をはじめて5日が経っていた。
私は魔術の才能がないわけではなさそうだ。一通りの魔術を使えるようになった私は次の段階へ進んでいた。
昨日からイヴォン相手に剣と魔術を駆使して練習試合を行っている。
今日の結果は一応私の三連勝だったけれど、いつものような完勝ではなく辛勝だった。
ちなみに昨日は魔術を使うことに気を取られすぎて五敗もしてしまった。イヴォン相手には五年ぶりの黒星だ。
「剣を使いながら魔術を使ってみた所感はどうですか? 昨日よりは上手く使えていたように見えましたが」
「やっぱり難しいわ。魔術を使おうと集中すれば相手への反応が遅れてしまうし、間合いをとった状態で魔術を使うなら魔術師にお願いした方が効果が高い……」
相手の剣を捌きながら魔術を行使するのだから質も低くなるし不発も多かった。
そしてどうしても隙が出来てしまう。
今はイヴォン相手だから怪我をすることはないけれど、魔物相手にこれでは命がいくつあっても足りないだろう。
「出来るなら相手の隙を作るために使いたかったのだけど……。もう少し使い方を考える必要があるわね」
「でも強化魔術を状況に応じて重ねがけするというのはかなり効果があるように思えます。戦闘が始まれば魔術師が傍にいることの方が稀ですから」
「確かにそうなのだけれど……」
アシルが初日に言っていた事は当たっていた。
私は強化魔術に関してはゲームのコマンドをイメージせずとも使うことが出来た。そして発動までの時間も極わずかですむ。
もちろん瞬時にかけた魔術は効果が低くなるのだが、そこは重ねがけすることでカバーできた。
この使い方はアシルやアルベリク卿も想定外だったらしく沢山褒めて貰えた。
魔術を重ねがけするという発想は今までなかったらしい。
そして魔術師達からも一目置かれるようになった。
けれど閃いたのはそこまでで、その後はさっぱり。
私の短い時間で効果の弱い魔術を発動させる方法を利用して効果を出したのは隣で訓練していた魔術師達だ。
騎士との連携において4秒のタイムロスは致命的だ。
これまではお互いの動きをある程度決めておいて行動するようにしていた。
けれど弱い魔術でいいのならもっと早く発動できる。そして柔軟に動きを変えることが出来る。
魔術師達は騎士達に有利になるように魔術を使う方法を編み出した。弱い魔術で魔物の動きを制限したり注意を逸らし、隙をついて騎士が魔物を仕留める。
そうやって騎士と魔術師はより高度な連携を取ることができるようになった。
みな私のおかげだと褒めてくれるが、それを考え実践したのは私ではない。それに私ではそんな活用の仕方を思いつくことは出来なかっただろう。
ちなみに隣で私の事をずっと見てくれていたアシルはこれを応用して並列で魔術を扱う術を編み出した。
彼曰く並列で使うと威力が落ちるとのことだったけれど、どう見ても他の魔術師の魔術と同等以上の威力を出していた。
祝福を授かった魔術師というのは桁違いの能力を保有しているらしい。
ナフィタリアの戦力が向上することは大変喜ばしいことだが、私もそろそろ何かしらの戦果がほしいところだ。
「火でも水でも氷でも瞬時に撃つことができたらもう少し活用できるのに……」
「シャルロット様は魔術を習ってまだ5日なのです。練度を上げればできるようになるかもしれませんよ」
「けれどそれがいつなのかはわからないわ。明日までに習得出来ればいいのだけれど、そんな保証はないのだもの。練習は続けつつ他の方法も考えないと」
私が使える魔術のほとんどはゲームで見た魔法だ。
理屈はよくわからないけれど、コマンドを思い浮かべて選択していけば魔術を使うことが出来た。
そして魔術の発動箇所は決まっていた。放出する系の魔術は右手からしか出ない。
怪我を治す魔術は意識せずとも怪我した場所で発動する。他人に施す場合にはやっぱり右手から。
この特性をどう活かせばいいだろう。
アシルも原因がわからずにずっと悩んでいる。
「少し休憩しましょう。行き詰まった時には違うことをすると新しいアイデアが浮かぶものです」
イヴォンは私の手から優しく剣を取り上げた。
「さあ行きましょう。今日もあちらに休憩できる場所を設けるよう指示しております。少し早いですがこの時間ならもう用意が出来ているでしょう」
イヴォンに促されるままに歩を進める。
魔術の訓練をするようになってから、イヴォンは私を無理やり休ませるようになった。
アシルもイヴォンに追従して休むよう言ってくるので逆らうことも出来ず、かなりの頻度で休憩をとっていた。
本当はもう少し頑張りたいのだけど二人がいないと訓練ができないために仕方なく我慢している。
別にアシルとお話するのが楽しいからではない。
「本日はシャルロット様の好きな紅茶と苺のプリンを用意させました」
「イヴォンに好きなものを伝えたことあったかしら」
「ありません。ですがずっとお傍にいるのですからそれくらいわかります」
でも私特に好き嫌いないし、苺のプリンなんて前はいつ食べたかもわからないくらいなのに。
そもそも食事なんて栄養がしっかりとれていればそれで充分なのだ。
おやつはただのエネルギー補給。食べられればなんでもいい。
だからもしかしたらイヴォンは誰か別の人の好みと勘違いしているのかもしれない。
訓練場の隅にある大きな木の下にピクニックシートが敷かれている。
昔から訓練で疲れた時にはここで休憩していた。
モーリスと初めて会った時にみんなのお気に入りの場所なのだと聞かされ、私もここを大切なお気に入りの場所にしようと思ったことを覚えている。
そんな場所でアシルとの時間を過ごせるのは幸せ以外の何物でもない。
定位置に座るとイヴォンとアシルがお茶の準備をはじめた。アシルが紅茶用のお湯を沸かしてイヴォンが美味しい紅茶を淹れてくれる。
四回繰り返したおかげなのか、二人の動きはスムーズだ。アシルが慌ててお皿を割ることもない。
二人を見ながら魔術の活用方法を思案する。
私の魔術の使い方は他の人とは大きく違う。強化の魔術にしても念じるだけで完結するのだ。
普通に考えていてもいい案は出ないだろう。
そもそもどうしてゲームのイメージで魔術が使えているのか。
火の魔術も氷の魔術もコマンドを選んでいるだけなので特に違いはない。魔力の流れとやらもよくわからない。
それならば片っ端から試していって使えそうな魔術を探すべきだろうか。
いやでも変なの使って迷惑掛けたくないし……。
幻術とか毒の魔術をうっかり使って誰かを傷付けてしまったら大問題だ。
そもそもそんな魔術があるのかどうかわからないけれど。
「シャルロット様、今は休憩の時間ですよ。眉間に皺を寄せて考え込むのはおやめ下さい」
イヴォンに注意されてしまった。
「わ、わかってるわ。ただ二人を眺めてただけなんだから……」
「では美味しいもの食べて気分転換しましょう。はい、苺のプリン」
アシルにプリンとスプーンを手渡された。
ピンクのプリンに生クリームがトッピングされ、更にはハートに切られた苺が乗せられている。
とっても可愛いプリンだ。
いつも私と同じものを食べているから二人もこんな可愛いプリンを食べるのだろうか。
ちょっと期待しながら二人を見つめていたんだけど、二人のプリンは普通の何の変哲もないカスタードプリンだった。
別にいいんだけどちょっと残念。
そんなことを考えてしまった自分に苦笑しながら苺のプリンを口に運ぶ。
苺の甘い香りと優しい甘さに思わずため息が漏れた。
こんなに美味しかったっけ。
最近食べたものの中で一番美味しい。
………確かに私、このプリンが好きかもしれない。
イヴォンの言っていたことは合っていた。
もしかしたらイヴォンは私より私の事を理解しているのかもしれない。





