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魔術



 念の為に、と言って騎士や魔術師が部屋の中や周辺をくまなく調べている。

 この小火(ぼや)の犯人は間違いなく私なので何も出てこないだろう。

 イヴォンは苦笑していた。 


「とにかく魔術の初歩は習得できたみたいですね」

「習得と言っていいのかはわからないけれど……」


 丸焦げになってしまったお気に入りの場所を前に途方に暮れる。


「それよりどうしてイヴが来たの? もう夜遅いのよ。しっかり休まないと駄目じゃない」

「こんな大騒動起こしておいてそれはないでしょう。王女殿下の部屋が燃やされたのですから騎士も魔術師も休んでいられません」

「それは……その、ごめんなさい」


 イヴォン以外の人に聞こえないよう小声で謝った。


 駆けつけてくれた魔術師がすぐに消火してくれたおかげで大事には至らなかったものの、王女の私室が燃えたのだから城の警備に関わる人間は肝を冷やしただろう。


「今日は別の部屋でお休みになるといいでしょう。念の為部屋の外に騎士と魔術師を立たせておきます。くれぐれも余計なことをせずお休みください」

「わ、わかったわ……」


 笑顔だけれどもなんとなく怒っている……気がする。

 こんな深夜に引っ張りだされたら当然だ。

 ゆっくり休んでいただろうに。

 しかも原因は私が余計なことをしたせいだ。怒るのは仕方ない。


 それでもこれまでイヴォンが私に対してこんなふうに怒ることなんてなかったからどうしていいのかわからない。

 言葉だけの謝罪では足りなかったのだろうか。

 


 侍女に案内されて今日寝るための部屋へ移動する。


「今日は疲れたでしょう。ゆっくりお休みくださいね」


 いつもと変わらない様子でそう言うイヴォンに急に不安になった。


「待って。イヴォンは……明日の朝もいつも通り来てくれるのよね?」

「? ええ、もちろんそのつもりですが……」

「そ、そう。それならいいの。じゃあまた明日……おやすみなさい」


 扉を閉めてすぐにベッドに潜り込んだ。






◇◇◇◇◇



 


 いつもと違うベッドの寝心地はよくなかったけれど、一応睡眠はとれたし頭もすっきりしている。

 一日頑張れるだけの体力は回復できたようだ。


 公務を終わらせた後訓練場でアシルと魔術の訓練を再開する。

 今はイヴォンは隣にいない。

 騎士団長(モーリス)の指示で魔術師との連携の訓練をしているからだ。

 だから隣にはいないけれど近くにはいる。


 イヴォンに邪魔されることなくゆっくりとアシルと話せるのは嬉しい。

 けれど昨日の態度が少しだけ気になるからイヴォンが近くにいないのはあまり嬉しくはない。





 昨晩の騒動にアシルは呼び出されなかったらしい。

 理由は平民だから。

 そんなくだらない理由でアシルを除け者にするなんて、本当に危険人物が王宮に潜んでいたらどうするつもりなのか。


 憤っている私を見て苦笑しながらアシルは言った。


「何にしても怪我がなくて良かった。どうして突然できたのかわからないって事だったけど、ここでもう一度やってもらえる? 俺が見たら何かわかるかもしれない」

「わかったわ」


 昨日と同じように目を瞑って手のひらを上に向ける。

 ゲームの画面を思い浮かべ、コマンドを選択する。

 呪文の言葉を口にするのは少し恥ずかしかったから心の中で唱えてみた。


 すると昨日と同じように何かが手に集まっていく。

 あ、これ成功したかも。


 ゆっくりと目を開くと目の前に嬉しそうに笑うアシルがいた。


「魔術使えてますね。おめでとうございます」

「え? でも何も起こってないわよ」

「上を見て」


 促されて視線を上げるとそこにはちょうど握り拳よりひと回り大きい火の玉がぷかぷかと浮いていた。


「どうしてあそこに留まっているの?」

「どこにも行かないように俺があの場所で止めてるんだ。昨日はあれが出てベッドに当たったんだね」


 アシルが手をぐっと握ると火の玉は一瞬で消えてしまった。


「火の魔術を使ったのは俺が昨日火を見せたから?」

「ええ、そうね」


 もちろんアシルの影響もあるけれど、一番最初に覚える魔法のイメージがあれだったのだ。


「シャルロット様の祝福は剣だから基礎から教えたけど、まさかそれを飛ばしていきなり魔術を使えるとは思わなかったよ。本当に何でもできる才能があるみたいだ。次は実戦で使えるよう訓練していこう」


 訓練場の隅に移動する。

 アシルはどこからか木の長方形の塊を三つ取り出してバラバラに置いた。

 正面と右前方、そして最後の一つは少し二つより遠い場所に置かれている。


「さっきの魔術を使って三つの木を燃やしてみて」

「いきなり!? 昨日みたいに説明してくれないの??」

「うん。たぶんシャルロット様は説明しちゃうと難しく考えてできなくなるんじゃないかな。だから俺の説明を聞くより自分で色々試してみる方がいいと思うんだ。もし間違って変な方向に飛ばしても俺がいるから大丈夫」


 にこにこと笑っているけどそんなふわっとした理由で無茶ぶりされても困る。

 ……んだけど、惚れた弱みというやつで何も言い返せない。返せないけどもう少しアシルとお話したかった。

 そんな余裕はないことなんて重々承知しているけれど、せっかく一緒にいるのに……。




 よし、さっさとこれを終わらせてアシルと話す時間を確保しよう!


 気持ちを切り替えて集中する。

 火を出せた時のことを考えると手のひらを向けた方向へ火の玉は進んでいくようだ。

 右手の手のひらを正面の木のブロックへ向けて頭の中でゲームのコマンドをイメージする。

 魔法の項目を選び火の魔法を選択して呪文を心の中で唱えた。


 手のひらから握り拳程度の火の玉が出てきて真っ直ぐ木のブロックへ向かっていく。

 火の玉が当たると木のブロックは瞬く間に燃え、灰になった。


「できましたね。次はその右側のを狙いましょう」


 アシルの指示に従って右側のブロックに対しても同じように燃やす。うん、順調だ。


「では遠くのもお願いします」


 最後のブロックは先程の二つよりずっと遠い。

 とはいえやることは変わらない。狙いを定めて同じことを繰り返す。


 が、火の玉は先程の二つのブロックの位置を少し超えたところで消えてしまった。

 集中出来ていなかったのかもしれないと思い、次は少し時間をかけて火の玉を出す。


 けれど結果は対して変わらなかった。

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悪役令嬢は皇子様からの婚約破棄を望んでいたはずなのに script?guid=on
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