和解2
結論から言うと、騎士と魔術師の間にあるわだかまりは私が思っていたよりずっと大きくて、少し交流を増やしたからといってどうにかなるようなものではなかった。
私が提案した実地訓練は単純なものだった。
外で捕まえてきたスライムを騎士と魔術師がペアで討伐する。
簡単だ。スライムなんて新人騎士一人でも対処出来る弱い魔物なのだから。
なのに訓練は上手くいかなかった。
魔術師がサポートする間もなく騎士だけでスライムを倒してしまう。魔術をメインにすると騎士が被弾して討伐どころではなくなる。
そうやって何度も失敗を重ねるうちに騎士と魔術師の間に流れる空気は悪くなっていった。
これでは良くないと思って休憩しながら歓談してもらおうと思ったら誰一人会話しない。
訓練場ははギスギスした空気に包まれた。
「これがシャルロット様の望んだ光景ですか?」
隅で泣きそうになっている私に、苦笑しながら騎士団長は言った。
いつも父の様に見守ってくれている彼は、今日は少しだけ私に冷たい。
「違うわ。私はもっと…………。どうして騎士と魔術師は仲良くできないの?」
「彼らと私たちは全てが違うのです。考え方も守るべきものも、そして地位も」
「守るべきものは国でみなナフィタリアの貴族じゃない。騎士と魔術師に違いなんてないわ」
「…………シャーリィ、私たちはナフィタリアの貴族であることと騎士であることを誇りに思っている。その誇りを持たず理解もしない魔術師達とは相容れないんだよ」
声色は優しいのに騎士団長の言葉は厳しい。
「……それでも歩み寄ることはできるはずよ」
「表面上はね。確かに私たちの関係が悪いせいで連携がとれないことは由々しき事態だ。君の言うように本当に魔物に異変が起きているのなら訓練すべきだろう。……でも仲良くする必要は無い」
「それじゃ連携なんてできないわ。理解と信頼が必要よ。だからお互いを知るために」
「優先すべきは仲良くなることじゃない。魔物の驚異に立ち向かうための術だ」
言葉を遮るように彼はそう言った。
私は間違っていたのだろうか。みんなに無理を強いてしまったのだろうか。
何も言えなくなって俯く私の頭を騎士団長が優しく撫でてくれた。
「……やめて。もうこんなことされて喜ぶような子どもじゃないの」
「王女殿下の仰せのままに」
いつものようにそう言うと彼は私の傍から離れ、騎士と魔術師達の方へ歩いて行った。
どうやらそのまま訓練に混ざるつもりらしい。
騎士団長が参加した後は全てが順調だった。
彼は騎士と魔術師の双方に分け隔てなく助言をした。魔術師には騎士の動き方や考え方を、騎士には魔術師にもわかるような合図を出すよう指示した。
それだけで騎士と魔術師は簡単ではあるが連携のとれた動きができるようになった。
「お互いの動きをよく見ろ。そしてどうすれば相手を助けられるかを考えるんだ。わからなければ直接聞け」
先程までは話そうとしなかったのに、騎士団長の言葉を皮切りに騎士と魔術師達は会話するようになった。
私が指揮をとっていたときはこんな上手く行かなかったのに。
それでも騎士と魔術師の関係は一歩前進した。
私の力では無いけれど、結果が出たので問題はない。
けれど憂鬱だ。
視野が狭くて指導力も足りない。こんな王女についてきてくれる臣下なんているのだろうか。
「さすがは騎士団長ですな。彼に任せておけばすぐに連携がとれるようになるでしょう」
魔術師達を見て回っていたはずのアルベリク卿が近くに来て話しかけてきた。
「騎士団長は優秀でしょう? みなに慕われる騎士団長だもの。私も彼みたいに優秀だったらよかったのに……」
「シャルロット様は誰よりも優秀でいらっしゃるでしょう。なんと言っても神の祝福を授かっておられる。誰もシャルロット様には敵いません」
「でも私は騎士と魔術師の仲を取り持つことはできなかったわ。無責任に周囲を振り回して……みんなは王女だから私に従ってくれるけど本当は嫌がられてるのかも」
「おやおや、いつも自信満々なシャルロット様らしくないですな。貴女のおかげで目の前のこの光景があるのです。騎士と魔術師が協力して訓練するなんて私は今まで見たことがありませんでした。全てシャルロット様の行動の結果です」
「違うわ。それをやったのは私じゃなくて騎士団長よ。私は何もしてない」
だって私は困っている臣下達に何も言えなかった。
「ははは、すっかり落ち込んでおられるのですな。ですが、みなを集め騎士団長をその気にさせたのはシャルロット様です。私が何を言っても彼は動かなかったでしょう」
それは私が王女だからだ。
騎士団長は誰よりも規律と身分を重んじる。だから王族である私の言葉に従っただけだ。
けれどもそれをアルベリク卿に言ったところでどうにもならない。
「…………ありがとう。ところでどうして魔術師団長はここにいないの?」
「あれは魔術師としては優秀なのですがここで騎士達と訓練するには……。アシルと同じく特化型の魔術師でして、少々癖が強い性格なので塔に残って研究を進めるよう言っております」
魔術師団長は王女として何度か顔を合わせたことがある。
そんな取っ付き難い人だっただろうか。
「それよりシャルロット様も訓練に参加されてはいかがですか? 身体を動かせば迷いも晴れるでしょう」
少し悩んだがアルベリク卿の助言を受け入れることにした。
嘆いていても現実は変わらない。
だから今出来ることをやるのだ。





