決断
頬にあたる風がいつもより冷たい。
王宮の片隅にある小さな庭園は重苦しい雰囲気につつまれていた。
「シャーリィ、僕は君のことを愛している。これからも一緒に居てほしい」
目の前に立つ皇子の鮮やかな金の髪が風にふわりと揺れた。
琥珀色の瞳が真っ直ぐに私を見据えている。
けれど私はその言葉に応えることができずにいた。
左隣に立つアシルがそっと私の手を握ってくれた。
その手の温かさに泣きそうになる。
彼の顔を見ることはできない。
けれど綺麗な黒髪と濃い蜂蜜色の瞳の彼の顔はいつだって思い浮かべることができた。
私が好きな人は目の前に立つ皇子ではなく、隣に立つアシルだ。
八年間ずっと想い続けていた人だ。
昨晩告白して両想いだと知ることができた。
なのに私はアシルを選ぶことができない。
だって私は王女だから。
個人の感情より優先するべきは国のこと。
大国の皇子との縁談より自国の平民魔術師を選ぶことなんて許されない。
どこで間違えてしまったのだろう。
後悔しないように努力してきたつもりだった。
間違えないよう、正しい道を選べるように全力を尽くしてきたつもりだった。
なのにどうして。
もしかしてあの再会のときから間違っていたのだろうか。
八年ぶりにアシルに会ったあのときから……。