想い人の谷
最後までお付き合い戴けたら、嬉しいです。゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
目が覚めた時、辺りはすっかり明るくなっていて、ボクは夜戯の膝枕に横たわっていた。
夜戯が独り言のように言った。
「もうすぐ陽が昇る············」
ボクは夜戯の膝枕が嬉しくて、そのままでボク等が来た方向を見ながら陽が昇るのを待った。
やがて木々の隙間から飴色の光が零れ始め、光に溢れた景色は透明な飴に覆われ緑を美しく輝かせていた。
夜戯の顔を見上げると、夜戯の顔も飴色に輝き景色に見惚れている。
ボクは手をついて起き上がり、そっと夜戯の口唇に口唇で触れた。
夜戯は驚いたような顔でボクを見詰めたけど、直ぐに目を細めて照れたように微笑んだ。
こうしていると問題なんて何処にも無くて、この澄み渡る空のようにボク等の幸福は永遠のような気がした。
夜戯がポケットをまさぐってティッシュペーパーの塊を出してボクに見せた。
「ばあちゃんの髪の毛も持って来た
ばあちゃんにも来世で逢いたいから持って来たのだ」
「えーーー?! 」
ばあちゃん、何気に手強いな。
正面を見ていた夜戯の目が急に見開かれ、険しくなった。
振り返るとそこには数人の男たちがこちら目指して走って来る。
アイツ等がとうとう嗅ぎ付けて来たのだ。
ボクは起き上がろうとした。
でも、背中に激痛が走り呻く事しかできなかった。
こんな時にどうして?!!
そういえば、夜戯のかっぱらった薬を射って貰うのを忘れていた。
急いで逃げなければ夜戯が捕まってしまう。
ボクは激痛に堪えながら起き上がるが、既に遅くボクの腕を男の一人が掴もうとしていた。
その時、白い花びらが舞い始め風に乗って、やがて花吹雪となって視界を遮った。
男の手がボクの腕を掴んだ感触がする。
今のボクにはそれを振り払う力が出ない。
花吹雪が薄れると不自然な格好で固まっている男たちが見える。
何もかもが止まっていた。
月の時の花が、時を止めてしまったのだ。
本当に止まってしまった··········。
ボクはその光景に目を奪われたけど、一呼吸して気を取り直し、男の手を振りほどいて、やっとの思いで立ち上がった。
何故か夜戯がぼんやりしているので、ボクは夜戯の手を引いて走り出した。
遠くへ、できるだけ遠くへ·······。
夜戯を守らなくちゃ··········。
けれど走ると言っても痛みを堪えて身体を折ったままだから実際は子供の早歩きくらいのスピードしか出ていない。
数メートル走っただけで、男たちの時間は動き出し、花びらは風に飛ばされた。
男たちは少しの間キョロキョロしていたがボク等を見付けると直ぐに追って来た。
ボクは大きなミスをした。
男たちが来た方向に逃げれば良かったものを、ボクは反対の方向に走ったので想い人の谷にぶつかってしまったのだ。
男たちは易々と距離を縮めて来る。
谷を覗くと谷底が見えないくらい深く、このまま地獄に繋がっているのではないかと思えるほど険しかった。
何メートルも離れた向こう側の岸壁に飛び移るなんて論外だ。
ボクと夜戯は谷沿いを逃げるが、直ぐに男たちに囲まれてしまう。
ジリジリと迫って来る男たち。
どうすれば夜戯を守り切れる?
なんとしてもこいつ等に夜戯を渡す訳には行かない。
どうすればいい?
どうすれば夜戯を守れる?
ボクはどうしていいか解らず、夜戯を抱き締めてその場に座り込んだ。
その時、夜戯がボクの服の裾を引っ張ってボクの目を覗き込み言う。
「おにいちゃん、何処か痛いの? 」
夜戯の無邪気な緑の目が、本当にキレイで吸い込まれそうだった。
作り物の目のはずなのに本物の目のように純真無垢な透明感でボクを見詰める。
もうここに、ボクの知っている夜戯は居ないんだ···········。
夜戯·····················。
夜戯の身体は、ボクが隠すよ············。
ボクは夜戯を抱き締めたまま谷へと身を躍らせた。
必死に夜戯を包むように抱き締め、ボクと夜戯は想い人の谷へと、何処までも堕ちて行った。
「は~ず~き、あ~そ~ぼ~ぉ」
うとうとしていたボクは虜戯の声で目を覚ました。
ボクは飛び起きて、玄関へと駆けて行く。
玄関では虜戯が満面の笑顔でボクを迎えてくれた。
「かあさんがバンギャごっこするから、おいでって! 」
虜戯のお母さんはヴィジュアル系ってのが好きで、ライヴ映像流しながらバンギャごっこするのに、ボクはよく呼び出される。
何故かボクは化粧とかされてコスプレさせられるんだ。
ボクはそれがあまり好きじゃ無いけど、虜戯が凄く喜ぶから、虜戯の輝くような笑顔が見たくてコスプレする。
ボクと虜戯は手を繋いで虜戯の家まで駆けて行く。
虜戯とは幼馴染みでボクは虜戯が大好きだ。
虜戯もボクが好き。
でも時々、心配になってボクは訊いてしまうんだ。
「ボクは虜戯がいっぱい好きだよ
虜戯はボクが好き? 」
すると虜戯は顔をふにゃふにゃにして言うんだ。
「いっぱい、しゅきぃ」
ボクはその言葉が嬉しくて、繋いだ手に力を込める。
「大人になったら、虜戯はボクのお嫁さんになってくれるよね? 」
虜戯は大きく頷いてくれる。
虜戯はとても力持ちで、走るのも早い。
「はづき、はしるのがおそいの! 」
虜戯は急に立ち止まるとボクの前で屈む。
それはおんぶの合図。
ボクをおぶると虜戯は駆け出す。
ボクはとても複雑な気持ち。
だって虜戯とくっつけるのは嬉しいけど。
男の子として好きな娘におんぶって貰うのはちょっと悔しい。
それでも大好きな虜戯の背中はあったかくて、虜戯のいい匂いがする。
風が通り過ぎて行く。
ボクは心に誓うんだ。
ボクの全部で守ってあげる、
後悔しないように··········。
fin
最後までお付き合い戴き、有り難うございます❗(o´▽`o)ノ
ラスト、「死淵の箱庭」と被っちゃってます。(*´Д`*)
でも、この作品書き始めた時から、ラストは決まってたんですよね。
納得のラストだったでしょうか。
ずれていたら、ごめんなさいです。m(_ _)m
ひどいスランプ続きで、絞り出すように書いた作品でしたが、湖灯様からレビュー戴いて、1日のアクセス数が百を越えると言うあり得ない現象を体験させて戴いた作品でした。
新作はまだ何も思い付かない状態です。
またお逢いできたら嬉しいです。
最後まで読んで戴き本当に有り難うございました。m(_ _)m